2019年10月版
製造業の悪化が進み、日本経済は景気後退の瀬戸際へ

【財政の役割が増す本年度下期】
 日本経済は、米中貿易戦争に伴う世界経済の成長減速から日本の輸出が減少し、製造業が悪化する中で、個人消費、設備投資、財政支出を中心とする国内需要に依存する非製造業がどれだけ支えられるかという局面が続いているが、本年度下期を展望すると、消費税増税の影響や製造業停滞の波及から個人消費と設備投資も徐々に勢いを失い、財政支出がどれだけ全体を引っ張るかに焦点が移ってくるように見える。

【通産省も遂に認めた鉱工業生産の弱含み】
 8月の鉱工業生産と出荷は、前月比それぞれ−1.2%、−1.4%の減少となった(図表1)。製造工業生産予測調査によると、9月は前月比+1.9%の増加となったあと、10月は再び同−0.5%の減少となる。9月の鉱工業生産の前月比がこの予測と同じになったと仮定すると、7〜9月期の生産は再び前期比−0.5%の減少となる。
 この予測を前提とすれば、四半期別の鉱工業生産は、昨年10〜12月期をピークに本年7〜9月期まで四半期ごとに一高一低を繰り返しながら、3四半期で−2.4%水準を下げたことになる(図表1)。先月の公表文まで「生産は一進一退」と解説していた通産省も、さすがに今月は「生産はこのところ弱含み」と下落の趨勢を認めた。
 9月調査「日銀短観」でも、大企業製造業の本年度輸出計画は、6月調査に比して−1.0%下方修正をされて、前年比−0.2%の減少となり、製造業(大企業・中堅企業・中小企業の合計)の「業況判断」DIは、今回景気回復が始まった13年以来、初の「悪い」超(−1%)に転落した。
 まだ非製造業(同)は「良い」超(14%)を保っているので、日本経済全体が景気後退に陥ったと見るのは早計であるが、米中貿易戦争に伴う世界経済の成長減速が、日本の輸出減速を通じて日本経済に景気後退の圧力を懸け始めたことは確かである。

【個人消費は雇用増加が支え】
 この圧力を跳ね返せるとすれば、個人消費、設備投資、財政支出を中心とする国内需要の堅調である。
 8月の「実質消費活動指数+」(日銀推計)は108.6となり、前月比+3.0%、4〜6月平均比+1.3%と大きく伸びたが、これは7月に悪天候の下で夏物消費が沈滞していた反動が大きい。家計調査(2人以上の所帯)の消費支出(季調済み実質)も、8月は同じ理由から前月比+2.4%と大きく伸びた。
 9月には、夏の暑さが異常に長く続いた上、10月の消費税増税前の駆け込み需要も加わって、確りしていたと見られる。しかし個人消費の実勢は、消費税率が引き上げられた10月以降の動向を見なければ分からない。
 個人消費を支える雇用者報酬の動向を見ると、1人当たりの賃金は増えていないが(季調済み賃金の7〜8月平均は4〜6月平均比−0.7%)、就業者数の増加(8月は前年比+1.0%、季調済み前月比+0.3%)によってジリジリと拡大している。有効求人倍率は、昨年8月から本年4月まで1.63の高水準で推移したあと、輸出減少の影響を受けている製造業を中心に求人数がやや減少し始めたため、7月と8月は1.59に低下したが、水準としては高く、就業者数の増加はまだ続くとみられる。

【設備投資に勢いがなくなってきた】
 設備投資は、実質GDP統計では昨年4〜6月期から四半期毎に一進一退を繰り返しているが(図表3)、7〜8月の資本財(除、輸送機械)の国内向け総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)の平均は、4〜6月平均比−1.4%の小幅減少となっているので、7〜9月期の実質GDP統計の設備投資は4〜6月期増加(+0.2%)のあと、小幅減少となるかもしれない(図表3)。しかし、9月調査「日銀短観」の製造業・非製造業・金融機関の19年度設備投資計画(ソフトウェア・研究開発投資を含み、土地投資額を除く)合計は、前回6月調査より−0.3%下方修正されたものの、なお前年比+5.8%と前年度(同+4.3%)よりもやや高い伸びを維持している。このことから判断すると、設備投資の趨勢はなお増勢を維持しているものと思われる。
 先行指標の機械受注(民需、除船舶・電力)を見ると、4〜6月期に前期比+7.5%とやや大きく伸びたあと、その反動もあって7月は前月比−6.6%、8月は同−2.4%と2か月連続して減少した(図表2)。7〜8月の平均は4〜6月平均比−2.2%の水準である。7〜9月期の見通しも前期比−6.1%となっており、先行指標の機械受注(同)はここへきてやや勢いを欠いている。

【住宅投資は頭打ち、公共投資は予算措置を背景に本年に入って増勢】
 実質GDP統計の住宅投資は、昨年7〜9月期から4四半期連続して増加したが、先行指標の新設住宅着工戸数が本年3月をピークに弱含みとなり(図表2)、つれて住宅投資も4〜6月期は前期比+0.1%とほぼ横這いとなった。7〜9月以降は微減に転じる公算が高い。消費税引上げ前の着工急ぎとその反動も含まれていると思われる。
 公共投資は、昨年中、4四半期連続して減少したが、本年は予算措置を背景に1〜3月期、4〜6月期と2四半期連続して増加した(図表3)。先行指標の公共機関からの建設工事受注も、本年3月から8月まで一貫して前年を上回っており、公共投資は7〜9月期以降も前年を上回って増加を続けると見られる。

【輸出は不冴えながら輸入も製造業の減速に伴う原燃料の減少から下落傾向へ】
 最後に外需の動向を見ると、4〜6月期の実質GDP統計の「純輸出」は、貿易サービス収支の赤字転落(図表2)を反映して成長に対してマイナスの寄与度となったが、その後の貿易サービス収支は、7月に1072億円の赤字、8月に289億円の黒字となお赤字基調を脱していない(図表2)。
 米中貿易戦争に伴う世界経済の成長減速が続く限り、日本の輸出の不冴えは続くとみられるが、他方で日本の製造業を中心とする成長鈍化が原燃料の輸入鈍化に響いてくるので、9月以降の貿易サービス収支は、一本調子で赤字が拡大するとは限らない局面に入ってきた。例えば8月の通関ベースの輸入は、原粗油、LNG、石炭を中心に金額ベースで前年比−12.0%、数量ベースで同−6.2%の減少となっている。