2019年9月版
貿易戦争に伴う世界経済の成長減速から外需は引き続き不振、内需は消費増税前の民間需要の駆け込みと公的需要の政策的支えで拡大
【4〜6月期成長率は設備投資中心に下方修正】
4〜6月期の法人企業統計で設備投資が前年比−1.9%と弱かったことを受けて、4〜6月期の実質GDP統計の2次速報では設備投資が1次速報の前期比+1.5%から+0.2%に下方修正された。このため、4〜6月期の成長率は1次速報値の前期比+0.4%(年率+1.8%)から同+0.3%(同+1.3%)に下振れした。しかし内需全体としては個人消費と政府支出に支えられて増勢を保っているため、外需がマイナス0.3%の寄与度の下で、プラス成長を維持した。
7〜9月期は米中貿易戦争継続に伴う世界経済の成長減速の下で、外需が引き続きマイナスになると見られる中で、消費増税前の駆け込みのある個人消費と一部設備投資、それに政策的に拡大している政府支出でどの程度成長を支えられるか、注目される。
【鉱工業生産、出荷は一進一退のうちにやや弱含み】
7月の鉱工業生産と出荷は、前月比それぞれ+1.3%、+2.6%と前月減少の反動もあって増加したが、製造工業生産予測調査では8月に前月比+1.3%と続伸したあと、9月は−1.6%の減少となる(図表1)。仮に8月と9月の鉱工業生産の伸びがこの通りになったと仮定すると、7〜9月期は前期比0%の横這いにとどまる。この水準は昨年4〜6月期や10〜12月期よりも低く、生産、出荷は一進一退のうちにやや弱含みとなってきた(図表1)。
6月の出荷を国内向けと輸出に分けると、国内向けが前月比+2.8%、輸出が同+0.6%となる。輸出もプラスになったとは言え、前月比プラスになったのは5か月振りで、7月の水準は2月比−3.9%の低水準である。輸出の不振が鉱工業生産、出荷全体の弱含みを招いていることが分かる。
7月の国内向け出荷(+2.8%)に輸入を加えた国内向け総供給は、輸入も前月比+4.4%とやや大きく伸びたため、前月比+2.8%の増加となった。7月の水準は4〜6月の平均に等しいが、昨年10〜12月平均に比べると−1.5%低い。国内向け総供給も、決して強くはない。
【7月の個人消費は長雨・低温の影響で低調、8月以降は逆の現象】
国内需要の動向を見ると、7月の「実質消費活動指数+」(日銀推計)は104.5と4〜6月平均(107.2)比−2.5%の急落となった(図表2)。これは例年より長雨や低温の日が多かったためで、家計消費(2人以上の世帯)の実質消費支出(季調済み)も7月は4〜6月平均比−1.0%の低下となった。8月と9月は、逆に例年より猛暑の日が続いているので、消費は回復していると思われる。
消費を支えている雇用の堅調は続いており、7月の就業者は前月比+0.2%の増加、完全失業者は同−4.3%の減少、完全失業率は前月比更に−0.1%低下して2.2%となった(図表2)。
女性や高齢者の雇用が増えているため、7月の平均賃金は前年比−0.3%の減少であった。
【輸出関連製造業からの求人が減少】
全体として堅調な雇用情勢の中にあって、限界的に微妙な変化が出ている。世界経済の成長減速、とくに米中貿易戦争に伴う中国の成長率低下の影響から、日本の輸出は昨年10月をピークに一高一低のうちにやや水準を下げているが、電子部品・デバイス工業などを中心に、製造業からの新規求人数が7月まで6か月連続で前年割れとなっている。このため、全体の新規求人倍率と有効求人倍率も、本年4月から7月まで、3か月連続して低下した。
日本の堅調な国内経済に対する米中貿易戦争の限界的影響の走りとして、今後の動向が注目される。
【設備投資は消費増税前の7〜9月期までは底固い増勢】
投資動向を見ると、4〜6月期の実質GDP統計の設備投資は、法人企業統計の設備投資の弱さを受けて、2次速報で前期比+1.5%増から+0.2増に下方修正されたが、足許の設備投資動向を反映する資本財(除輸送機械)の総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)は、7月も前年比+3.5%の増加となった。
先行指標の機械受注(民需、除船舶・電力)は、6月の大幅増加(前月比+13.9%)の反動から7月は前月比−6.6%減、4〜6月期平均比−0.1%となったが、趨勢としては1月を底に増加傾向を辿っている(図表2)。消費増税前の駆け込みも一部にあって、7〜9月期の設備投資は引き続き増勢を維持するものと思われる。
【住宅投資は頭打ち、公共投資は政策意図通りの大幅拡大】
実質GDP統計の住宅投資は、4〜6月期まで4四半期続けて前期比で増加となったが、次第に勢いを失い、4〜6月期は前期比+0.1%とほとんど横這いとなった。先行指標の新設住宅着工戸数も、高水準ながら昨年10〜12月期をピークに7月まで徐々に低下している(図表2)。消費税引上げ前の着工急ぎも終わり、7〜9月期の住宅投資は若干減少するのではないかと思われる。
反面公共投資は、先行指標の公共建設工事受注額が3月から前年を上回り始め、拡大した本年度予算を反映して7月は前年比+24.5%の大幅上昇となった。実質GDP統計で本年1〜3月期から2四半期続けて小幅に増加した公共投資は、消費増税に伴う民間投資の減少を相殺する政策意図通り、恐らく7〜9月期から、かなり大幅に増加すると見られる。
【米中貿易戦争に伴う世界経済の成長鈍化から「純輸出」は引き続き赤字】
最後に外需の動向を見ると、4〜6月期の貿易サービス収支は3002億円の赤字に転落し(図表2)、実質GDP統計の「純輸出」も成長に対して−0.3%のマイナス寄与度となった(図表3)。これは、対中輸出の減少から輸出全体が前期比ほぼ横這い(+0.4%)であったのに対して、輸入は増加(+3.4%)を続けたためである。
7月の貿易サービス収支も、前月に比し、輸出は横這い圏内の微減(−0.0%)、輸入は微増(+1.9%)したため、1072億円の赤字となった(図表2)。
前述した鉱工業製品の輸出動向から見ても、米中貿易戦争に伴う中国経済の成長減速の影響を受けて、日本の輸出は引き続き鈍化気味で、7〜9月期も外需は成長にプラスの寄与をしないのではないか(図表3)。