2019年8月版
貿易戦争による世界景気減速の中、内需で支える日本経済は、消費増税の10月以降にどうなるのか
【4〜6月期は個人消費と設備投資を中心とする内需に支えられ年率1.8%の成長】
4〜6月期の実質GDPは、米中貿易戦争の進展に伴う世界景気の減速から、外需は予想通り成長に対してマイナスの寄与度(−0.3%)となったが、10連休に恵まれ、また消費増税前の駆け込みも始まった個人消費の伸び(成長に対する寄与度+0.3%)と、設備投資の堅調(同+0.2%)、更に新年度予算の執行が始まった財政支出の増加(同+0.2%)も加わって、内需の成長寄与度が+0.7%に達したため、全体で成長率は前期比+0.4%(年率換算1.8%)と3四半期連続のプラス成長となった。
7月に入ってからも、外需の低調と内需の底固い動きが続いており、今後内需に大きな変化が現れるとすれば、消費税率が引き上げられる10月以降の消費落ち込みと見られる。
【生産、出荷は四半期ごとに一進一退を繰り返しているが、7〜9月期は消費増税の駆け込みもあって2四半期連続の増加か】
まず国内経済の最近の動向から見ていくと、6月の鉱工業生産と出荷は、夫々前月比−3.6%、−3.3%と3か月振りにやや大きく減少したが、4〜6月期をくくってみると、4月と5月の増加が大きかったため、生産は前期比+0.5%、出荷は同+1.2%といずれも増加した。この1年間を通じて見ると、生産と出荷は四半期ごとに一進一退を繰り返している(図表1)。
7月と8月の製造工業生産予測調査によると、前月比+2.2%増、同+0.6%増となっており、もしこの通りに増加すれば、7〜9月期は消費増税前の駆け込みもあって、久し振りに2四半期連続の増加となるかも知れない。ただし、10〜12月期にはその反動で下がるであろう。
6月の出荷(前月比−3.3%)を輸出と国内向け出荷に分けて見ると、いずれも前月比夫々−1.4%、−3.7%と減少したが、4〜6月期をくくってみると、輸出は前期比−0.5%と2四半期連続の減少となる一方、国内向けは同+2.2%と前期比減少のあと増加し、四半期ごとに一進一退の姿となる。このため最近1年間の推移を見ると、輸出は減少傾向、国内向けは一進一退の横這いとなる。
一方、国内向け出荷に輸入を加えた国内向け総供給は、輸入が昨年第4四半期をピークにやや減少していることを反映して、一進一退の中にもやや弱含みである。
【雇用の堅調で雇用者報酬が増えている中で、10連休の好影響と、消費増税前の駆け込みもあって、個人消費は確り】
国内需要の動向を見ると、「実質消費活動指数+」(日銀推計、季調済み)は、10連休を含む4月と5月に、3月の105.1から106.7、106.5と一段跳ね上がったあと、6月も106.5と高水準を続けている。「家計調査」(2人以上の世帯)でも、4〜6月期の実質消費支出は季調済み前期比+1.6%、前年同期比+3.1%と伸びた。これを反映して実質GDP統計では、4〜6月期の個人消費は前期比+0.6%とやや高めの伸びとなった。
この中に10連休の好影響のほか、10月消費税率引上げ前の駆け込み需要がどの程度含まれているかは、10月以降の反動減を見ないとはっきりしたことは分からないが、幾分含まれていることは確かであろう。
個人消費を支える実質雇用者報酬は、雇用の堅調に支えられ、4〜6月期は前期比+0.7%とやや高い伸びとなった。6月の労働力人口は前年比+0.8%と増加している反面、非労働力人口は同−1.7%と減少しており、女性と高齢者を中心に労働市場への参加が増えている。6月の就業者は同+0.9%の増加、完全失業者は同−3.6%の減少(完全失業率は2.3%)となった(図表2)。
【設備投資は底固い、公共投資も予算の裏付けを得て強含み、住宅投資は今後弱含みに転じる可能性】
投資動向を見ると、足許の設備投資動向を反映する資本財(除、輸送機械)の国内総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)は、6月に前月比−5.7%となったが、4月、5月に急増した反動で、4〜6月期をくくってみると前期比+9.4%と大きく伸びた。4〜6月の実質GDP統計でも、設備投資は前期比+1.5%増と確り伸び、3四半期連続の増加となった。
先行指標の機械受注(民需、除船舶・電力)は、6月に前月比+13.9%、4〜6月は前期比+7.5%と堅調で、設備投資は目先7〜9月期も内需を確り支えると見られる。
他方、住宅投資の先行指標である新設住宅着工戸数は、4〜6月期に918千戸と前期(943千戸)を下回り、高水準ながらジリジリと水準を下げている(図表2)。実質GDP統計では、4〜6月期まで4四半期連続で強含み横這いとなっているが、7〜9月期には高水準ながらやや弱含みに転じると見られる。
公共投資は昨年中は弱含みで推移していたが、やや大きめの前年度の補正予算や本年度当初予算が執行期に入った本年1〜3月期と4〜6月期は強含みに転じた。先行指標の公共部門からの建設工事受注は3月以降本年6月まで前年を上回っているので(図表2)、7〜9月期も公共投資はやや増加すると見られる。
【米中貿易戦争による世界景気減速から先行きの日本の「純輸出」に大きな不安】
6月の貿易サービス収支は、4か月振りに黒字に転じたが、3〜5月は赤字であったため、4〜6月期の合計は赤字となり(図表2)、4〜6月期の実質GDP統計の「純輸出」も赤字に転じた。
米国の中国に対する制裁関税の第4弾は、9月1日に予定通り一部を実施し、残りは12月15日まで延期されたが、これまでに実施された第1〜3段を含め、世界景気に支える負の効果はジリジリと拡大している。米国自身も先行き悪化懸念から株安と長短金利逆転が起こっている。制裁対象の中国では実体経済に影響が出ており、経済成長が期を追って減速している。世界景気の減速に伴う輸出見通しの悪化から、欧州経済でも中心のドイツが4〜6月期に僅かのマイナス成長となったほか、英国のEU離脱、イタリアの政局不安も加わって、先行きの不透明感を増している。
このような中で、日本は10月に消費税を引き上げようとしており、そのデフレ効果を相殺する予算措置を講じているが、世界景気からくる外需への悪影響を考えると、この程度の内需対策で済む問題とは思えない。