2019年7月版
4〜6月期は貿易収支の赤字拡大の結果、内需(設備投資中心)で支える低成長へ

【当面の景気は強弱二つの流れ、景気転換があるとすれば下期】
 4月と5月の鉱工業生産、出荷が回復し、景気動向指数の一致指数も2か月連続で上昇したが、景気後退のリスクが去ったわけではない。4、5月の動きは1〜3月期に落ち込んだ反動の面があり、6月の製造工業生産予測調査は再び減少と出ており、景気動向指数の先行指数は下落となった。
 7月1日に公表された6月調査「日銀短観」には、強弱二つの流れが見られる。一つは米中貿易戦争に伴う輸出の減少から、製造業の業況が悪化に向かう動きであり、もう一つは需給逼迫と人手不足・雇用増加を背景に、設備投資と個人消費が根強く増加し、非製造業の業況が好調を続ける動きである。
 当面の景気は、この二つの相反する流れに乗って動いていくが、どちらの動きが景気全体の基調を支配することになるかは、下期にはっきりしてくるのではないか。

【生産は6四半期連続して前期比プラスとマイナスを繰り返す】
 5月の鉱工業生産、出荷は、前期比、それぞれ+2.3%増、+1.6%増と、いずれも2か月連続して上昇した。しかし製造業生産予測調査によると、6月は再び同−1.2%の減少、7月は同+0.3%の微増となる(以上、図表1)。
 鉱工業生産の実績がこの予測通りになると仮定すると、4〜6月期の生産は前期比+1.5%増と前期のマイナスからプラスになるが、これで生産は6四半期連続して前期比プラスとマイナスを繰り返し、水準としては、大勢横這いである(最高は四半期ベースでは18年第4四半期、月ベースでは18年10月、図表1)。
 業種別に見ると、今年に入ってからの生産の上昇、下降の繰り返しが大きいのは、輸出関連の業種、とくに自動車、電気・情報通信機械、生産用機械などである。

【輸出の趨勢は昨年6月以降減少傾向、国内向け出荷は資本財を中心に増勢】
 5月の出荷を国内向けと輸出に分けると、国内向けは前月比+1.4%増と2か月連続して増加したが、輸出は同−1.0%と3か月連続して減少した。輸出は昨年6月をピークに増減を繰り返しながら、趨勢としては減少を続けている。
 他方国内向け出荷は、昨年来、大勢として横這いで推移してきたが、4月と5月は、資本財を中心に2か月連続して上昇した。国内の設備投資の根強さを反映している。
 国内向け出荷に輸入を加えた国内向け総供給は、輸入も前月比+4.5%と大きく伸びたので、同+2.2%増と、これも2か月連続して増加した。輸入増加に大きく寄与したのは輸送機械(乗用車、航空部品)、電子部品・デバイスなどで、国内の活発な生産・投資活動を反映している。

【雇用の堅調に支えられて消費は緩やかながら底固い増勢、実質賃金は今年に入って弱含み横這い】
 国内需要の動向を見ると、「実質消費活動指数+」(日銀推計)は、連休を含む4月と5月の平均が107.2と1〜3月平均(106.4)を0.8%上回った。家計調査(2人以上の世帯)の実質消費支出も、5月は前年比+4.0%の大幅増加となった。今年の連休の消費活動は活発であった。
 5月の雇用指標(常用雇用者、雇用者、就業者)は、引き続き前年を0.5〜1.6%上回る水準で推移しており、完全失業率は前月比横這いの2.4%であった(図表2)。他方、5月の実質賃金は前年比−1.0%と5か月連続で前年を下回っているが、季節調整指数では前月を+1.3%上回った。もっともこの5月の水準は昨年下期(7〜12期)の平均を−0.4%下回っており、実質賃金の大勢は今年に入って弱含み横這いである。

【本年度のソフトウェア・研究開発投資計画は1割を超える伸び】
 投資動向を見ると、足許の設備投資の動きを反映する資本財(除、輸送機械)の国内総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)は、前月比+8.6%と前月(同+4.1%)に続き大幅に伸びた。これは、国産品の国内向け出荷が同+8.6%と大きく伸びたのが主因で、輸入は同+1.6%と3か月連続で緩やかに増加している。
 先行指標の機械受注(民需、除船舶・電力)は、5月に前月比−7.8%の減少となったが、4〜5月平均は1〜3月平均を+4.2%上回っている。4〜6月期の見通しも前期比+15.7%と3四半期振りの増加である。
 また6月調査「日銀短観」によると、本年度の製造業・非製造業・金融機関の設備投資計画合計(ソフトウェア・研究開発を含み、土地投資額を除く)は、3月調査の前年比+4.3%から上方修正され、前年実績(同+4.3%)を上回る同+6.1%となった。前年を上回って大きく伸びる計画となっているのは、製造業・非製造業・金融機関夫々のソフトウェア・研究開発投資がいずれも1割を超える伸びとなっているためである。

【4〜6月期の住宅投資は頭打ち、公共投資は増加か】
 5月の新設住宅着工戸数は、年率900千戸とやや低目であった前月(同9万1千戸)を更に下回った(図表2)。年明け後の着工戸数は弱含みに転じているので、GDP統計ベースで昨年7〜9月期から3四半期続いた実質住宅投資の増加は、4〜6月期に頭を打った蓋然性が高い。
 他方実質公共投資は、GDP統計ベースで、1〜3月期に5四半期振りに増加したが、年度末補正予算の執行から公共建設工事の受注額が3月から急増しているので(図表2)、4〜6月期もGDPベースで増加する可能性がある。

【貿易収支は様変わりの大幅赤字】
 5月の貿易サービス収支は、4955億円の大幅赤字となり、4〜5月合計で5753億円の赤字と1〜3月の黒字1072億円から様変わりとなった(図表2)。これは、貿易収支が1〜3月の黒字1477億円から4〜5月だけで5512億円の赤字に転落したためである。
 輸出の減少は、貿易戦争に伴う米国の関税引上げの影響から、対米輸出品の生産が鈍化している中国向けの日本の輸出が、コンピューター(含、周辺機器、部品)、半導体製造装置、半導体等電子部品などを中心に減少していることが大きく響いている。
 他方輸入の小幅減少(季節調整すると小幅増加)は、原油・粗油、液化石油ガスなどのエネルギー関連が引き続き高水準を続けているほか、一般機械、電気機械、輸送機械などが国内需要の根強さを反映して増えているためである。
 このような国際収支動向を見ると、1〜3月期に4四半期振りに成長に対してプラス寄与となった「純輸出」は(図表3)、4〜6月期に再びマイナス寄与となり、設備投資を中心とする国内向け需要だけで成長を支える低成長になる公算が高い。