2019年6月版
米中貿易戦争の悪影響は日本の対中国輸出に出ているが、国内経済は設備投資と雇用に確り支えられている

【米中貿易戦争収拾の目途は立たないが、日本経済への悪影響は中国向け輸出を除き、まだ大きくは出ていない】
 5月に米中貿易戦争が再開され、米国の制裁関税や中国の報復関税が実施されたが、現在までのところ米中貿易協議の先行きは見えず、収拾の目途は立っていない。このため、国際機関の世界経済見通しは下方修正され、市場心理は弱気化し、世界的な株価の軟調が続いている。日本では現在までのところ、中国向け輸出を除けばまだマクロ経済指標にはっきりした影響は出ていないが、市場心理を通じて、5月連休明けの株価の下落を招いている。夏頃の統計には国内経済の指標にもその影響が出てくる惧れがある。
 1〜3月期の法人企業統計の公表を受けて、日本の1〜3月期の実質成長率が設備投資を中心に僅かに上方修正された(前期比+0.5%→+0.6%)。4月の鉱工業生産、出荷も後述のように前月比で増加した。この間4月の国際収支ベースの輸出額は、1〜3月期平均比+1.8%の増加となっている。

【鉱工業製品の国内向け総供給は大きく回復、反面輸出は停滞気味】
 4月の鉱工業生産と出荷は、前月比夫々+0.6%、+1.7%の増加となった。製造業生産予測調査によると、5月は更に前月比+5.6%と2か月続けて大きく上昇したあと、6月は同−4.2%の反動減となる(図表1)。
 鉱工業生産の実績がこの予測通りとなった場合、4〜6月期は前期の+2.7%と1〜3月期の落ち込み(前期比−2.5%)を取り戻すことになるが、その水準(105.1)は昨年10〜12月期(105.0)並みにとどまり、生産は半年間足踏みをしていることになる(図表1)。
 4月の鉱工業出荷を国内向けと輸出に分けると、国内向けは前月比+3.3%の増加であるのに対して、輸出は同−1.6%の減少であった。本年1〜4月平均の昨年10〜12月平均比を見ても、国内向けは+0.6%の増加であるのに対して、輸出は+0.1%の増加とほぼ横這いである。このように輸出の伸びが国内向け出荷の伸びより弱い傾向を示し始めたのは、昨年7〜9月期以降であり、米中貿易戦争に伴う日本の中国向け輸出鈍化の影響が少しずつ出ている。
 なお4月の国産品の国内向け出荷に輸入を加えた鉱工業製品の国内向け総供給は、輸入が前月比+5.7%増となったため、全体で同+6.7%増と大きく伸びた。4月の水準は落ち込んだ1〜3月の平均を+4.8%上回っている。

【個人消費は根強く上昇、雇用増加は足踏み】
 国内需要の動向を見ると、日銀試算の4月の「実質消費活動指数+」は107.0と1〜3月期平均(106.4)を+0.6%を上回り、緩やかな拡大を続けている(図表2)。
 4月の現金給与総額は、前年比−0.1%、季調済み前月比−0.2%となった。雇用面では4月の就業者、雇用者、常用雇用者などは季調済み前月比でやや減少したが、完全失業者が季調済み前月比で−3.4%と大きく減少し、完全失業率は前月より0.1%ポイント低下して再び2.4%の低水準となった。

【設備投資の基調は確り。1〜3月期マイナスからプラスに修正したあと、4〜6月期も3期連続で増加する勢い】
  投資動向を見ると、1〜3月期のGDP統計の設備投資は、1〜3月期の強めの法人企業統計を反映して、1次速報の前期比−0.3%から2次速報で+0.3%に上方修正された。足許の設備投資動向を反映する4月の資本財(除、輸送機械)の国内総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)は前月比+2.1%と2か月連続で増加し、1〜3月平均比+2.8%の水準にある。
 先行指標の機械受注(民需、除船舶・電力)は、4月に前月比+5.2%増、1〜3月平均比+8.4%増となり、4〜6月の見通し(前期比+5.0%)通り、増加基調に戻ると見られる(図表2)。
 これらの動向から判断すると、設備投資は4〜6月期も底固く推移し、昨年10〜12月期から3四半期連続して増加しそうである。

【増加を続けてきた住宅投資は先行き頭打ち、公共投資は大型補正の効果で4〜6月期も高水準】
 1〜3月の実質GDP統計(2次速報)の住宅投資は、前期比+0.6%と小幅ながら3四半期連続の増加となったが、先行指標の新設住宅着工戸数は1〜3月期に前期をやや下回ったあと4月は更に水準を下げているので(図表2)、4〜6月期の実質GDP統計では4四半期振りに減少する可能性が高い。
 一方実質GDP統計の公共投資は、補正予算執行に伴う期末の発注増加もあって、1〜3月期の実質GDP統計では7四半期振りの増加(前期比+1.2%)となったが、先行指標の公共機関からの工事受注額は1〜3月期(前年比+8.2%)に続き4月も前年を上回った(同+6.3%)。参院選を控えた補正予算拡大の効果もあって、4〜6月期の公共投資も高水準を続けそうである。

【米中貿易戦争に伴う中国向け輸出の減少から、4〜6月期の「純輸出」は再びマイナスに転落する可能性】
 「純輸出」は1〜3月期のGDP統計で、4四半期振りに成長に対してプラスの寄与(+0.4%)となったが、4月の貿易・サービス収支は再び798億円の赤字に転じた(1〜3月期は月平均357億円の黒字。図表2)。
 貿易収支は3月と4月に赤字に転落したが、これには米中貿易戦争の影響で中国の電子部品関係の設備投資が鈍化し、日本から中国に向けた半導体製造装置や電子部品などの輸出が減少していることが響いている。また輸入側では、引き続き原粗油などのエネルギー関係の輸入が大きい。
 日本の国内では設備投資がかなり確りしており、雇用の拡大に支えられて個人消費も崩れていないので、米中貿易戦争が長引いた場合の悪影響は、対中国輸出から響いてくる可能性が高い。