2019年5月改定版
米中貿易戦争再開の日本に対する悪影響が本格化し景気後退の懸念が出てくるのは6月以降か

【米中貿易戦争の再開】
 米中貿易戦争が休戦(交渉継続)に入ったことから、米国中心に、日本を含む世界の株価が年明け後回復に向かっていたが、この流れが突如反転した。米国が交渉の内容に不満を持ち、中国に圧力を懸けるため、延期していた中国からの輸入品2000億ドルへの制裁関税引上げ(10%→25%)を、5月10日に発動したからである。米中貿易戦争の休戦は終わり、戦争が再開された。5月連休を境に米国をはじめ、日本を含む世界の株価は急落した。
 25%の関税を課された中国製品が船舶で米国の港に着くまでは2〜3か月かかるので、経済的影響が本格的に出始めるのは夏頃になる。また中国が報復関税を発動した場合の影響は更に先になる。しかし関税対象の規模が大きいだけに、中国経済や世界経済に対する負の影響は、これ迄になく大きく、日本経済への影響も大きいだろう。

【再開された貿易戦争とその影響は長引く可能性】
 今後2〜3か月の間に米中の貿易交渉が決着すれば、制裁関税や報復関税は中止されるので、その影響は出ないで済むかもしれないが、米中貿易交渉は市場経済国同士がWTOのルールに従って行う交渉とは話が違う。中国は国家権力が補助金や規制を自由に変えて国営企業・私企業を操る国家主義型市場経済で、しかも従来の国際ルールに必ずしも拘泥しない。米中貿易交渉の結果、中国の国家権力が従来の介入の仕方を変えれば、国の在り方(社会主義市場経済)を米国の干渉で変更することとなり、国内の権力から強い反発が出るのは必至である。現に、いま交渉で妥協できない分野は、補助金、知的財産権、技術移転などいずれも中国の国家権力の在り方に深く関係している分野である。
 従って、米中貿易戦争とその日本など世界への影響は、かなり長期化する可能性がある。

【貿易戦争再開の日本への影響は6、7月以降か】
 いずれにせよ日本への影響が出てくるのは1〜2か月先のことであるが、現在統計が出始めている3月の実績と4、5月の予測を見ると、3月の鉱工業生産と出荷の前月比は、それぞれ−0.9%、−0.6%と減少したあと、4月と5月の製造業生産予測調査では前月比+2.7%、+3.6%と1〜3月の鉱工業生産の落ち込み(前期比−2.6%)の反動で、やや大きく回復する見込みとなっている(4〜5月予測平均の1〜3月実績平均比は+4.2%)(図表1)。
 休戦前の米中貿易戦争(昨年7月対米輸出340億ドルに25%、8月160億ドルに25%、9月2000億ドルに10%の制裁関税)の影響で中国経済の成長が鈍化し、つれて日本の輸出水準が下がる動きは、3月まで続いたようだ。3月の鉱工業出荷を国内向けと輸出に分けると、前月比輸出は−0.7%減、国内向け出荷は同−0.4%減であった。
 この国内向け出荷に輸入を加えた国内向け総供給は、輸入が4か月連続して減少した反動で前月比+2.6%の増加となったため、同+0.6%と5か月振りに増加した。
 この先4、5月の鉱工業製品の国内向け総供給は、3月に続き増勢を辿ると見られるが、他方で輸出は、米中貿易戦争再燃の影響で冴えない動きになると見られる。それが国内の経済活動全般にはっきり響き、景気後退の懸念が出てくるのは、6、7月以降であろう。

【個人消費は堅調な雇用に支えられて緩やかに増加基調】
 国内需要の動向を見ると、「実質消費活動指数+」(日銀試算)は、10〜12月期に前期比+0.7%とかなり確り伸びたあと、1〜3月期は同+0.1%の微増にとどまった(図表2)。これで6四半期連続の底固い増加である。しかし、1〜3月期の実質GDP統計の家計消費は、10〜12月期+0.2%のあと−0.1%の微減と発表された。
 個人消費の背景には、引き続き、雇用増加に支えられた雇用者報酬の増加がある。3月の「労働力調査」の就業者と雇用者および「毎勤」の常用雇用者は、季調済み前月比で夫々+0.3%、+0.2%、−0.1%、前年同月比で+1.0%、+1.3%、+1.8%の増加となった(図表2)。
 「労調」によれば、生産年齢人口は前年比−0.6%減少しているが、女性と高齢者の労働参加率が高まり、労働力人口は同+1.0%の増加となり、それが雇用の増加を支えている。

【企業の設備投資意欲に弱気化の気配】
 投資動向を見ると、足許の設備投資の動きを反映する資本財(除、輸送機械)の国内総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)は、輸入が前月比+8.2%と大きく伸びたため、全体も同+1.2%と5か月振りに増加した(図表2)。しかし1〜3月期の前期比は、1月に前月比−9.6%と大きく落ちたため、−11.4%と4四半期振りにマイナスとなった(図表2)。1〜3月期の実質GDP統計も、設備投資は−0.3%の小幅減少となった。
 3月の機械受注はまだ公表されていないが、1〜3月期は10〜12月期の前期比−3.2%に続き、2四半期連続でマイナスとなる公算が高い(図表2)。米中貿易戦争に伴い世界経済の先行き不安が高まっている折柄、日本の企業の投資マインドにも弱気化の気配がある。
 1〜3月期の新設住宅着工戸数は、月平均943千戸と前月をやや下回った(−1.3%)。引き続き頭打ち傾向が続いており、1〜3月期の実質GDP統計では、住宅投資は+1.1%の微増にとどまった。1〜3月期の公共部門からの建設工事受注額は補正予算の執行から前年比+8.2%と5四半期振りの増加となり(図表2)、1〜3月期実質GDP統計の実質公共投資も+1.5%と7四半期振りの増加となった。

【1〜3月期と4〜6月期はやや回復し、本格的景気後退があるとすれば7〜9月期以降か】
 3月の貿易サービス収支は、937億円の赤字と2月の大幅黒字から再び赤字に戻ったが、2月の黒字額が2378億円と大きかったので、1〜3月期の貿易サービス収支は1072億円の黒字と3四半期振りの黒字に戻った(図表2)。1〜3月期の実質GDP統計では、「純輸出」の成長寄与度が4四半期振りに+0.4%のプラスとなった。輸出は米中貿易戦争に伴う中国などの成長鈍化から不冴えながら、輸入も石油製品、原粗油などエネルギー関係の数量、価格の双方で下がったのを中心に、輸出の伸び率低下を上回って下がった。
 1〜3月期の実質GDP全体は、「純輸出」が4四半期振りにプラスの寄与となったため、前期に続き2四半期連続のプラス成長となった(図表3)。4〜6月期もプラス成長を維持する可能性があるので、米中貿易戦争による本格的景気後退があるとすれば、7〜9月期以降ではないかと思われる。