2019年1月版
世界的に株価暴落の後小康状態、日本の貿易収支は悪化傾向

【株価暴落で幕を開けた2019年】
 2019年の経済は、米国を中心に、日本を含む世界の株価の暴落と共に幕を開けた。きっかけは、米中貿易交渉の難航による世界景気の先行き不安と、年末のFRBによる昨年中4回目の利上げに伴う米国景気頭打ち、新興国を含む世界経済動揺の懸念などである。
 その後、米中貿易交渉が水面下で進んでおり、1〜2月中に2回目の米中首脳会議が実施されるとの観測が流れ始め、更に19〜20年中に更に3〜5回行われる予定と見られていたFRBの利上げも、0〜2回程度にとどまるのではないかというFRBの姿勢転換がパウエル理事長によって示唆されたことをきっかけに、米国、日本を始めとする世界の株価はやや戻り、小康状態を取り戻した。
 しかし、米国も日本も今回の長い景気上昇過程がピークに近づいているのではないかという見方もあって、本年は先行きに多くのリスクがあるとの懸念が根強く広がっているように見える。

【自然災害に攪乱されるも生産は緩やかな増加基調を保つ】
 さて、日本国内では、11月の鉱工業生産、出荷が、前月急回復(自然災害による落ち込みのあと前月比それぞれ+2.9%、+3.5%)の反動もあって、前月比それぞれ−1.1%、−1.4%の下落となった。しかし、製造工業生産予測調査によると、12月は前月比+2.2%とやや大きく増加、1月は同−0.8%の小幅減少となっている(図表1)。12月の鉱工業生産の実績が仮に製造業生産の予測並みの増加になったと仮定すると、10〜12月期は前期比+2.7%と自然災害による前期減少(同−1.3%)からかなりの反動増となる。また1月の製造工業生産予測も、10〜12月期の生産(12月は予測)の平均を+0.2%上回っている。
 これらから判断すると、自然災害による攪乱はあったものの、生産は緩やかな増加基調を保っていると見られる。

【国内向け鉱工業製品総出荷も緩やかな増加基調を維持】
 11月の鉱工業出荷を輸出と国内向けに分けると、共に前月比−1.8%と前月に自然災害の影響から急回復(同+4.6%、+5.7%)した反動で減少した。
 また、国内向け出荷に輸入を加えた国内向け総供給も、輸入が前月急増(前月比+6.3)の反動から同−0.2%の微減となったため、全体で同−0.6%の小幅減少となった。しかし、11月の水準は、自然災害の影響を受けた7〜9月期の平均を+3.3%上回っており、自然災害前の4〜6月期の平均も+1.8%上回っている。国内向け総供給も、緩やかな増加基調を維持している。

【個人消費は引き続き根強い増勢】
 国内需要の動向を見ると、11月の「実質消費活動指数+」(日銀推計)は105.8と急増した前月(106.4)を下回ったが、4〜6月平均(105.0)と7〜9月平均(105.0)を上回る水準にあり、個人消費は底固い増勢を保っていると見られる(図表2)。
 「家計調査報告」の実質消費(2人以上の世帯)は、自然災害の影響で9月に前月比−4.5%と大きく減少したあと、10月は同+1.8%、11月は同+1.1%と回復している。
 また同「報告」の11月の可処分所得は前年比、名目で+1.3%、実質で+0.3%の増加となった。実質所得の前年比増加は、5か月振りである。

【人手不足に伴う労働市場への流入増加から非労働力人口減・労働力人口増・就業者増が続く】
 集計方法が批判されている「毎月勤労統計」ではあるが、一応11月の実質賃金は前年比+1.1%と4か月振りのプラスとなった(図表2)。現金給与額が前年比+2.0%の増加となった反面、消費者物価(持ち家の帰属家賃を除く)の前年比は+1.0%にとどまっていたからである。
 労働市場では、人手不足から非労働力人口からの流入が続き(11月の非労働力人口は前月比−0.7%減)、労働力人口は微増(同+0.4%増)している。
 これに伴い就業者数は増加(同+0.4%)しているが、ミスマッチの関係で完全失業者数は同+3.0%の増加となり、完全失業率は2.5%と前月比0.1%ポイント上昇した(図表2)。「毎勤」の常用雇用は、就業者数同様、前月比+0.1%と5か月連続で増加した。

【自然災害で7〜9月期に8四半期振りに減少した設備投資は、10月以降回復の動き】
 投資動向を見ると、足許の設備投資動向を反映する資本財(除輸送機械)の国内向け総出荷(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)は、11月に前月比−2.1%と減少したが、これは自然災害から復旧した前月の急増(同+4.7%)の反動である。11月の水準は本年に入って前月に次ぐ2番目の高い水準であり、10〜11月の平均は前期比+1.2%の増加となった7〜9月期を更に+4.8%上回っている。GDP統計の設備投資は、自然災害を受けた7〜9月期に前期比−2.8%と8四半期振りの減少となったが(図表3)、10〜12月期はその反動もあって大幅増加になると思われる。
 先行指標の機械受注(民需、除船舶・電力)は、17年7〜9月期から5四半期連続して増加しているが、9月に自然災害の影響で前月比−18.3%と大きく落ち込んだあと、10月は前月比+7.6%、11月は同−0.0%と回復している。しかし水準としてはやや低い(図表2)。

【住宅投資は強含み横這い、公共投資は減少傾向】
 GDP統計の民間住宅投資は、7〜9月期に5四半期振りの増加となった。これは先行指標の新設住宅着工戸数が、1〜3月期を底にやや回復していたこと(図表2)と平仄が合っている。その後、着工戸数は回復した水準で11月まで横這いとなっているので、10〜12月期のGDP統計の住宅投資は強含み横這い圏内の動きとなるのではないか。
 GDP統計で5四半期減少を続けている公共投資は、先行指標の公共建設工事受注額が11月も前年比減少を続けていること(図表2)から見て、引き続き微減傾向を辿っていると見られる。

【5月以降の貿易収支悪化傾向が11月も続く】
 最後に外需の動向を見ると、日本の経常収支と貿易収支(いずれも季調済み、以下同じ)は、共に昨年4月の黒字(経常収支1兆9381億円、貿易収支6544億円)をピークに悪化傾向を辿っており、とくに貿易収支は最近9〜11月の3か月間に赤字に転落している(各月1594億円、1933億円、1764億円の赤字)。これに伴い、実質GDP統計における「純輸出」の成長寄与度も、4〜6月期と7〜9月期はマイナスとなっている(図表3)。
 これは、輸入が石油・天然ガス関係のエネルギー資源を中心にジリジリと増加傾向を示しているのに対し、輸出が全体として頭打ち傾向にあるためである。
 11月も輸出は前月比−2.5%、輸入は同−2.7%といずれも微減し、貿易サービス収支は2404億円の赤字と3か月連続の赤字を記録した(図表2)。他方、経常収支は貿易サービスの赤字化に伴い6か月連続して黒字を縮小していたが、11月は所得収支の受取超過が拡大したため、7か月振りに黒字をやや拡大した。

【先行き19年度下期は要警戒】
 本年の日本経済を展望すると、国内需要は設備投資と家計消費を中心に当面は緩やかな拡大を続けると見られるが、海外経済は米中貿易戦争や米国の利上げなどの影響で成長が鈍化し、日本の輸出も頭打ちとなり、内外需全体として成長が鈍化するリスクが高いと思われる。
 とくに10月以降の消費税増税がもし本当に実施されると、政府の対策にも拘らず心理的悪影響から消費と住宅投資などが落ち、オリンピック需要のピーク・アウトも重なって、19年度下期には成長が停滞するリスクがあるように思われる。