2018年12月版
輸出の一部にやや陰りが見られるものの、経済活動は9月の自然災害から立ち直り回復軌道に戻ってきた

【12月調査「日銀短観」は9月の自然災害からの立ち直りを裏付け】
 7〜9月期の実質GDPは、台風による西日本の大水害や北海道大地震などの自然災害によって、国民生活、生産活動、サプライ・チェーンが攪乱されたため、家計消費、設備投資、純輸出を中心に前期比年率−2.5%とやや大きく落ち込んだが、10月以降、経済活動は徐々に立ち直っている。
 12月調査「日銀短観」によれば、輸出減少の影響が尾を引いている大企業の汎用・生産用機械と自動車で、現状と先行きの「業況判断DI」がやや悪化していることを除けば、それ以外の製造業と各規模非製造業では「業況判断DI」が好転している。
 18年度の売上計画は、大企業製造業の下期輸出計画が、前回調査比−0.1%と下方修正されたものの、全体は同+2.7%の上方修正となった。また18年度の設備投資計画(ソフトウェア・研究開発を含み土地投資を除く、製造業・非製造業・金融機関の総計)は前年比+8.9%増と前回調査に比し+0.1%の上方修正となった。

【鉱工業生産は、9月の自然災害による落ち込みから回復中】
 10月の鉱工業生産と出荷は、水害、地震などによって落ち込んだ前月の反動もあって、前月比それぞれ+2.9%、+5.4%のやや大幅な上昇となった。製造工業生産予測調査による11月と12月の生産は、自然災害によって寸断されたサプライ・チェーンの復旧もあって、前月比+0.6%、同+2.2%と続伸する見込みである(以上図表1)。
 製造工業の生産予測と鉱工業生産の実績は必ずしも一致しないが、仮に一致したと仮定すると、10〜12月期は前期比+3.9%の高い水準となる。鉱工業生産の実績はこれより低くなるかも知れないが、生産の基調は、自然災害によって攪乱されながらも、回復傾向を維持していると判断してよいと思われる。
 10月の鉱工業出荷を国内向けと輸出に分けると、前月比それぞれ+6.6%、+4.6%と共に高い反動増となっている。この国内向け出荷に輸入を加えた鉱工業製品の国内向け総供給も、輸入が前月比+6.3%と大きく回復したため、全体が同+5.9%増となり、7〜9月平均を+4.6%上回る水準にある。

【労働市場参加者の増加に伴うミスマッチから失業率は僅かに上昇】
 国内需要の動向を見ると、10月の「実質消費活動指数+」(日銀試算)は、自然災害のため落ち込んだ9月水準を+0.2%上回り、7〜9月平均水準並みになった(図表2)。「家計調査」(二人以上の世帯)の実質消費支出(季調済み)もほぼ同様の動きをしている。
 10月の現金給与総額(季調済み)は前月比+0.3%と2か月連続して増加した。また10月の就業者数(同)と雇用者数(同)は、いずれも前月比+0.3%の増加となり、勤労所得の増加を支えている。もっとも、10月の全国消費者物価(同)も前月比+0.2%の上昇となったので、実質ベースの賃金上昇は前月比+0.1%にとどまった。前年比を見ると、10月の実質賃金のマイナス幅は縮小したが、−0.1%と僅かにまだ前年を下回っている(図表2)。
 人手不足の下、新たに労働市場に参入する人が増えているため、10月の非労働力人口(季調済み)は前月比−0.7%減少し、労働力人口(同)が同+0.5%増えたが、就業者(同)は同+0.3%の増加にとどまり、完全失業者(同)が+5.0%の増加となった。このような労働市場のミスマッチの影響で、10月の完全失業率(同)は2.4%と前月比+0.1%ポイント上昇した。

【7〜9月期の設備投資は自然災害から減少したが、基調は確りしている】
 7〜9月期のGDP統計の設備投資(実質)は、1次速報の前期比−0.2%から2次速報の同−2.8%へ大きく下方修正された。これは、7〜9月期の法人企業統計の設備投資(名目、季調済み)が前期比−4.0%と5四半期振りのやや大幅な減少となったことを反映させたためである。
 しかし、足許の実質設備投資の動きを反映する資本財(除、輸送機械)の国内向け総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)では、7〜9月期の前期比は+1.2%の小幅上昇となっている。また10月は前月比+4.7%、7〜9月平均比+6.0%とやや大幅な上昇となった。
 先行指標の機械受注(民需、除く船舶・電力)は、7〜9月期に前期比+0.9%と5四半期連続の増加となったあと、10月は前月比+7.6%の増加、10〜12月期の見通しは前期比+3.6%の増加となっている。
 このような機会受注の動向と本年度設備投資計画(8月調査「日銀短観」前年比+8.9%)の増加計画から判断すると、GDPベースの実質設備投資は、10〜12月期以降、再び緩やかな増加軌道に戻っていると思われる。

【住宅投資は一時下げ止まり、公共投資は弱含み持続】
 実質GDP統計の住宅投資は、昨年7〜9月期から4四半期連続して減少したあと、本年7〜9月期に前期比+0.7%の増加となった。先行指標の新設住宅着工戸数は、昨年4〜6月期をピークに本年1〜3月期まで減少したあと、4〜6月期と7〜9月期にはやや持ち直しており(図表2)、7〜9月期の実質GDP統計の住宅投資の持ち直しと平仄が合っている。
 本年10月の新設住宅着工戸数は950千戸と7〜9月平均(753千戸)並みとなっている(図表2)。11月、12月の計数を見なければ分からないが、10〜12月期の住宅投資は前期比横這い圏内の動きとなろう。
 実質GDP統計の公共投資は、本年7〜9月期まで5四半期連続して減少している。先行指標の公共建設工事受注額は10月も前年比−5.9%と減少傾向を続けていること(図表2)から見て、10〜12月期の公共投資も減勢を続ける公算が高い。

【10月の経常収支は自然災害の影響から立ち直りつつあるが、引き続き小幅ながら黒字幅は縮小】
 10月の貿易・サービス収支は2365億円の赤字と前月(2163億円の赤字)より赤字幅をやや拡大し、経常収支は1兆2113億円の黒字と前月は比し1227億円の黒字幅縮小となった(図表2)。国際原油市況の高騰に伴うエネルギー関係輸入の増高は、夏頃に比べてやや鈍化してきたが、それでも輸入全体としてはまだ輸出の伸びを上回っている。自然災害のサプライ・チェーンへの影響で落ちていた輸出は、自動車などを中心に立ち直ってきたが、10月中には輸入の伸びに追いついていない。
 4〜6月期、7〜9月期と続いた「純輸出」のマイナスが、10〜12月期全体でどうなるかは、まだ分からないが、設備投資、家計消費などを中心とする国内民間需要の立ち直りによって、10〜12月期が再びプラス成長に戻る可能性は十分にある(図表3)。