2018年10月版
自然災害の影響はあるものの、消費、設備投資など国内民需が景気を確り下支えしている

【業況判断は自然災害の影響と底固い国内景気を映じて強弱区々】
 10月1日に公表された9月調査「日銀短観」によると、全規模・全産業を合計した「業況判断」DIは、高水準の「良い」超ながら6月調査に続いて2期連続して僅かに悪化した(17→16→15)。しかし業種別にみると、自然災害の直接、間接(サプライ・チェーン混乱)の影響を受けたサービス業や鉄鋼、繊維、セメント、紙パ、石油精製などが悪化した反面、消費や設備投資など国内景気の底固さを支えに、卸・小売、建設、自動車、電気機械、汎用機械などは逆に好転した。
 また前年を上回っている本年度の設備投資計画の伸びは、今回調査で更に上方修正された。米中の貿易戦争の影響で先行き感が悪化したという具体的な動きは、今のところ見当たらない。

【5〜7月に落ち込んだ生産、出荷は8月以降回復】
 8月の鉱工業生産と出荷は、前月比それぞれ+0.7%、+2.1%と揃って上昇し、9月と10月の製造業生産予測調査も、前月比それぞれ+2.7%、+1.7%の上昇となった。5〜7月と3か月連続して減少した生産は、8月から3か月連続して上昇する予測となっている(図表1)が、5〜7月の落ち込みが大きかったので、9月が予測指数通り増加したとしても、7〜9月期の平均は4〜6月期に比し横這いとなり、生産水準の本格的高まりは10月の予想以降となっている(図表1)。
 8月の出荷(前月比+2.1%)を国内向けと輸出に分けると、国内向けは5〜7月と3カ月減少のあと、8月は前月比+1.1%の増加となった。他方8月の輸出は7月減少(−5.4%)の反動もあって+6.2%の大幅増加となり、4〜6月平均を+1.4%上回った。5〜7月の国内向け出荷の減少は、主として輸送用機械、情報通信機械、汎用・生産用・業務用機械などの機械工業で起こったが、8月以降はこれらの業種の調整一巡で出荷の回復が予測されている。

【早目の暑気到来と夏期賞与に支えられ家計消費は増勢持続】
 国内需要の動向を見ると、6〜8月の「実質消費活動指数+」(日銀推計)は、3〜5月の平均水準(104.8)を0.5%上回る105.3で3か月間横這いとなっている。他方「家計調査」では、8月の実質消費が前年比+2.8%、季調済み前月比+3.5%とやや大きく増加した。ならして見ても、6〜8月の実質消費(季調済み)平均は、3〜5月平均比+2.6%となった。暑気到来が例年よりも早く、夏物の売れ行きが好かったようだ。
 背後の実質賃金は、夏期賞与の伸びがやや高かった影響で5〜7月は前年を0.5〜2.5%上回っており(図表2)、これも6〜8月の消費底上げに寄与したと思われる。しかし賞与の影響が一巡した8月の実質賃金は、前年比−0.8%の減少となった(図表2)。
 雇用者数(図表2)、就業者数、常用雇用者数は、引き続き増加しており、8月の前年比は+1.3〜+1.9%であった。完全失業率は7月に0.1%ポイント上昇して2.5%となったが、8月は再び2.4%に下がった(図表2)。7月に1.63に上昇した有効求人倍率は、8月も1.63で横這いであった。

【設備投資は引き続き堅調】
 9月調査「日銀短観」によると、全産業と金融機関を合計した本年度の設備投資計画(ソフトウェア投資を含み、土地投資を除く)は、前年比+8.7%増と3か月前の調査から0.1%上方修正された。前年度の実績は+4.6%増であったから、この伸びはかなり高い。とくに高いのは製造業の+16.5%であり、非製造業も+4.0%の増加となっている。
 本年4〜6月期の実質GDP統計の設備投資の伸びは前期比+3.1%と極めて高かったが、7〜8月の設備投資動向を反映する資本財(除輸送機械)の国内供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)の平均は、4〜6月の平均に比して+0.5%の増加と緩やかである。
 しかし先行きを示す機械受注(民需、除船舶・電力)は、8月も前月比+6.8%増と7月(同+11.0%増)に続き2か月連続で高い伸びとなり、7〜8月平均の4〜6月平均比は+6.4%と7〜9月期の見通し(前期比−0.3%)とは様変わりの実績である。実質GDP統計で7四半期連続で増加ないし横這いを続けている設備投資は、当分堅調を維持すると見られる。

【住宅投資は下げ止まり、公共投資は引き続き弱含み】
 実質GDP統計の住宅投資は、昨年7〜9月期から本年4〜6月期まで4期連続して減少したが、先行指標の新設住宅着工戸数を見ると、昨年7〜9月期から本年1〜3月期まで3期連続して減少したあと、4〜6月期は前期比+8.5%増となり、7〜8月平均も4〜6月期平均比−1.1%と横這いに近い動きとなっている(図表2)。このような4月以降の着工動向から判断すると、実質GDPベースの住宅投資は7〜9月期には5四半期振りに下げ止まり、若干の増加となる可能性もある。
 他方、実質GDP統計の公共投資は、昨年7〜9月以降本年4〜6月期まで弱含み横這いで推移しているが、公共建設工事受注額が本年1〜3月期、4〜6月期に続いて7月、8月も前年を下回っていること(図表2)から判断すると、7〜9月期の実質GDPベースの公共投資は、引き続き弱含みで推移する公算が高い。

【外需(純輸出)は引き続き成長に対し小幅のマイナス寄与】
 8月の貿易サービス収支は、591億円の赤字と3か月振りの赤字となり、経常収支の黒字は1兆4288億円と前月比559億円縮小した(図表2)。これは、輸入が原油・液化天然ガスなどエネルギー関係の価格上昇を中心に前月に引き続き大きく上昇した反面、輸出は引き続き緩やかな増加にとどまっているため、貿易収支の黒字が2か月連続でかなり縮小したためである。
 第一次所得収支は、8月も1兆7090億円の黒字と引き続き大幅な受取超過を続けている。
 4〜6月期に成長に対し若干のマイナス寄与(−0.1%)となった実質GDPベースの外需(純輸出)(図表3)は、7〜9月期もマイナス寄与となり、成長は家計消費、設備投資などの民間内需に支えられる姿がしばらく続きそうである。