2018年7月版
企業の設備投資意欲が高まってきた、夏期ボーナスの伸びもまずまず
【注目すべき設備投資意欲の高まり】
1〜3月期に足踏みをした日本の景気は、ここへ来て設備投資意欲の高まりが目立ち、雇用・賃金の回復持続もあって、再び上昇軌道に戻ってきた。
6月調査「日銀短観」の大企業製造業の「業況判断」DIはやや低下したが、これは加工業種で原油関連などの原材料価格上昇に収益が圧迫されたためで、全体として見ると、「業況判断」DIは高水準横這い圏内の小動きである。
先行きについては、今回の西日本豪雨災害のサプライ・チェーンへの影響や、米中貿易摩擦の世界経済への影響がどう出るか注目される。
【鉱工業生産、出荷は上昇軌道に戻った】
5月の鉱工業生産と出荷は、前月比それぞれ−0.2%、−1.6%の減少となったが(図表1)、これは前3か月の連続増加の反動と見られる。4〜5月平均の1〜3月平均比は、生産、出荷共に+2.0%の増加となっている。
製造工業生産予測調査によると、6月は前月比+0.4%、7月は同+0.8%と小幅の増加を続ける予想で(図表1)、6月の鉱工業生産の実績が6月の製造工業生産予測と同じになった場合には、4〜6月の鉱工業生産は前期比+2.0%の増加に戻る。実績は予想を下回ることが多いので、これ程の増加にはならないとしても、4〜6月の実績が再び増加基調に戻ることは間違いないであろう。
【鉱工業製品の国内向け総供給も再び増加基調へ】
5月の鉱工業出荷(前月比−1.6&)を国内向け出荷と輸出に分けると、それぞれ前月比−2.4%、同−0.4%と国内向けは4か月振り、輸出は3か月振りの減少となった。
この国内向け出荷に輸入を加えた5月の国内向け総供給は、輸入が前月比+8.2%と大幅に伸びたため、全体は同0.0%の横這いであった。この4〜5月の平均水準は、1〜3月の平均を+2.4%上回っており、1〜3月期に減少した国内向け総供給は再び増勢を取り戻していると見られる。
【実質賃金と雇用の伸びに支えられて家計消費は立ち直り】
需要動向を見ると、5月の「実質消費活動指数+」(日銀試算)は104.7と急増した前月(106.1)を下回ったが(図表2)、4〜5月平均の1〜3月平均比は+0.5%増、昨年10〜12月平均比は+0.3%増と緩やかな回復傾向にある。
背景にある5月の実質賃金は、ベアに伴う定例給与の増加(前年比+0.7%)に加え、夏期ボーナスを中心に臨時給与が大きな伸び(前年比+13.8%)を示したため、全体で前年比+1.3%と2年振りの高い伸びとなった(図表2)。
他方、5月の雇用指標は、雇用者数(図表2)、就業者数、常用雇用者数とも、引き続き着実な増加を続けている(前年比それぞれ+2.3%、+2.3%、+1.6%)。5月の完全失業率は2.2%に低下して最近28年間のボトムを更新し、バブル期に記録したボトム(2.0%)に近づいている。このため企業の雇用意欲は強く、6月調査「日銀短観」の新卒採用計画(製造業、非製造業、金融機関の合計)は、18年度の前年比+4.5%に続き、19年度は+8.3%の高い伸びとなっている。
【本年度の設備投資計画は大幅に上方修正】
足許の設備投資動向を反映する資本財(除、輸送機械)の国内総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)は、5月に前月比−4.7%と4か月振りに減少したが(図表2)、4〜5月平均の1〜3月平均比は+1.8%増と増加傾向を維持している。
6月調査「日銀短観」によると、本年度の製造業・非製造業・金融機関の設備投資計画合計(ソフトウェア・研究開発を含み、土地投資を除く)は、3か月前の調査に比して+6.8%の大幅上方修正となり、前年比+8.7%と前年実績(前々年比+4.6%増)を大きく上回る伸びとなった。人手不足を補う省力化投資、景気持続に対応した能力拡張投資、投資が投資を呼ぶ機械業界の投資、が目立っている。
このような設備投資計画の上方修正を反映し、先行指標の機械受注(民需、除船舶・電力)は、4月に前月比+10.1%と急増したが、5月はその反動から同−3.7%の減少となった(図表2)。しかし4〜5月平均の1〜3月平均比は+6.0%増の水準にあり、増勢を保っている。因みに4〜6月期の見通しは、前期比+7.1%である。昨年7〜9月期以降の4四半期連続増加の中では、4〜6月期の予想伸び率が一番高く(図表2)、今年度の設備投資意欲の盛り上がりを示唆している。
【住宅投資に立ち直りの気配、公共投資は引き続き弱含み横這い】
住宅投資の先行指標である新設住宅着工戸数は、5月に996千戸(季調済み、年率)と4月につづき高水準を保ち(図表2)、4〜5月平均は1〜3月平均比+11.4%の増加となった。GDP統計で3四半期連続の弱含みとなっていた実質住宅投資は、4〜6月期以降、下げ止まりから立ち直りに転じる可能性が出てきた。
公共投資の先行指標である公共建設工事受注額の前年比は、4月に3か月振りに増加したが、5月は再び−7.8%の減少となった(図表2)。実質公共投資もGDP統計で3四半期連続して微減しているが、この傾向は今後も続く蓋然性が高い。
【5月のB/Pでは貿易収支悪化の反面、所得収支は大幅好転】
5月の貿易サービス収支(季調済み、以下同じ)は、前月の大幅黒字5200億円の反動もあって、937億円の赤字となった(図表2)。これは、輸出が前月比−1,006億円の減少となった反面、輸入が同+4,892億円の増加となり、貿易収支の黒字が789億円(前月は黒字6687億円)にとどまったためである。輸出は振れの大きい船舶が大きく減少した一方、輸入は引き続き原粗油の伸びが高い。
貿易サービス収支の悪化にも拘らず、5月の経常収支は、前月の黒字(1兆8855億円)とほとんど変わらない1兆8500億円の黒字となった。これは第1次所得収支の受取超過が2兆1028億円と前月(同1兆5085億円)を大幅に上回ったためである。
6月の国際収支の結果が出ないと4〜6月期全体の動向は分からないが、5月の結果だけについてみれば、貿易サービス収支の悪化は、GDP(国内総生産)中の「純輸出」の悪化要因であり、反面所得収支の黒字拡大はGNI(国民総所得)中の「海外からの所得純受取」の拡大要因である。
4〜6月期のGDPは、設備投資と家計消費に支えられた国内需要の成長与寄与度が拡大すると見られるが、6月の国際収支動向如何では外需(純輸出)の成長寄与度がマイナスになる可能性もある(図表3)。もっとも、海外からの所得純受取が大きく増えるので、日本国民の総所得を示すGNIはGDPよりも高い伸びとなろう。