2017年7月版
景気は設備投資、個人消費を中心とする国内需要に支えられ確りした足取り
【景気回復の動き広がる】
景気回復の足取りが、徐々に確りしてきている。6月調査「日銀短観」では、「業況判断」DIの「良い」超幅が、大企業・中堅企業・中小企業の製造業と非製造業のいずれでも、3回続けて前回調査比好転しており、回復が企業規模や業種を問わず、広がりをみせている。
また、本年度の売上高の計画が、全規模全産業の合計で、3か月前に比して+1.5%上方修正されて、前年比+2.0%となった(前年度は−1.5%)。上方修正の幅が大きいのは、大企業製造業の国内売り上げの+2.0%と大企業非製造業合計の+2.5%である。輸出主導ではなく、内需主導の回復で足取りが確りしてきたようだ。
【生産、出荷の増加率はやや高まる気配】
5月の鉱工業生産と出荷は、前月の大幅増加の反動で、それぞれ前月比−3.3%、同−2.8%と減少したが(図表1)、4〜5月平均の1〜3月平均比は、それぞれ+2.1%、+1.2%と増加している。また6月の製造工業生産予測調査は、前月比+2.8%の増加となっているので、仮に6月の鉱工業生産の増加が同じ伸びになったと仮定すると、4〜6月期は前期比+2.5%となる(図表1)。
鉱工業生産の実績は、製造工業生産の予測よりも伸び率が低いことが多いので、これ程にはならないとしても、消費増税前の駆け込み生産で+2.9%となった14年第1四半期に次ぐ3年振りの高い増加率になる可能性はある。
生産増加を主導している業種は、輸送用機械、電気機械、汎用・生産用・業務用機械などの資本財と耐久消費財である。
【資本財(除、輸送機械)と非耐久消費財の増勢が目立つ】
5月の鉱工業出荷(前月比−2.8%)を輸出と国内向けに分けると、輸出が前月比+1.0%増加となったものの、国内向けが前月大幅増加(同+4.5%)の反動で同−3.9%の減少となった。
この国内向け出荷に輸入を加えた国内向け総供給を見ると、輸入も前月比−2.4%の減少となったため、全体では同−3.7%の減少となった。もっとも、これも前月急増(同+3.6%)の反動と見られるので、4〜5月の平均を見ると、1〜3月平均比+1.8%の増加となり、回復基調は崩れていない。
財別に見ると、5月の国内向け総供給が減少した中で、資本財(除、輸送機械)と非耐久消費財は、それぞれ前月比+2.8%、同+1.5%の増加となっている。後述のように設備投資と家計消費が根強い増勢を示していることと平仄が合う。
【個人消費の増勢は根強い】
国内需要の動向を見ると、5月の「実質消費活動指数+」(日銀試算)は、105.5と前月(106.0)を−0.5%下回ったが、1〜3月平均を+0.8%上回る水準にある。また4〜5月平均は1〜3月平均を+1.0%上回っている(図表2)。
5月の「家計調査」の実質消費支出(2人以上の世帯)も、前月比+0.7%の増加と2か月連続で増加した。個人消費は根強い増加を続けている。
5月の現金給与総額は、前年を+0.7%上回り、季調済み前月比も+0.2%増加した。消費者物価(持ち家の帰属家賃を除く)の上昇を差し引いた実質賃金は、前年比+0.1%の増加となった(図表2)。
【有効求人倍率はバブル期のピークを上回って上昇、完全失業率はバブル期のボトムよりまだ高い】
5月の雇用は、就業者、雇用者、常用雇用者の季調済み前月比が、それぞれ−0.0%、+0.1%、+0.2%と引き続きジリジリ増加している。労働力需給の引き締まりを反映して、働きに出る人が増えているため、季調済み前月比で非労働力人口が−0.4%減り、労働力人口が+0.3%増えた。このため、まだ職が見つからない完全失業者が+10.2%増え、5月の完全失業率は3.1%と前月比+0.3%ポイント上昇した(図表2)。
職業紹介所では、引き続き有効求人倍率が上昇しており、バブル期のピークである1990年10〜12月期の1.45倍と3月に並んだあと、5月には1.49倍とこれを上回って上昇している。ただし、完全失業率は、バブル期の90〜91年に2.1%まで低下しており、当面の2.8〜3.1%よりも低い。
【設備投資は製造業中心に増勢持続】
投資動向を見ると、足許の設備投資動向を反映する資本財(除、輸送機械)の国内向け総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)は、前述の通り、5月は前月比+2.8%増と前月の大幅上昇(同+8.4%)に引き続いて増加した(図表2)。4〜5月平均は1〜3月平均比+7.3%の大幅上昇である。しかしこれは1〜3月期減少(前期比−3.4%)の反動である。ならして見るために、1〜5月平均と昨年7〜12月平均を比べてみると、前者が+0.7%高く、実勢はこの程度の増勢と言えよう。
5月の機械受注(民需、除船舶・電力)は前月比−3.6%と2か月連続の減少となった(図表2)。4〜5月平均の1〜3月平均比も−3.5%の減少である。これは非製造業の減少によるもので、製造業は+5.5%の増加である。
なお、6月調査「日銀短観」における製造業・非製造業・金融機関の本年度設備投資計画合計(ソフトウェア・研究開発を含み土地投資額を除く)の伸びは、前年比+5.9%と前年度の前々年比(+0.4%)を上回っている。
【住宅投資は引き続き強含み、公共投資は横這い圏内】
5月の新設住宅着工戸数は、998千戸(季調済み、年率)と大きく増えた前月(1004千戸)を僅かに下回ったが(図表2)、4〜5月平均の1〜3月平均比は+2.7%増の水準にあり、ジリジリと増加している。昨年第1四半期から本年第1四半期まで5四半期連続で増加しているGDP統計の実質住宅投資は、4〜6月期も引き続き緩やかに増加した可能性が高い。
5月の公共建設工事受注額は、前年比+28.3%増と前月(同+3.4%)に続き2か月連続で前年を上回った、1〜3月期も+1.0%と僅かではあるが、前年を上回っている(図表2)。GDP統計の実質公共投資は、本年1〜3月期まで3四半期連続して減少してきたが、4〜6月期は横這い圏内の動きになるかもしれない。
【4〜6月期の貿易収支は悪化の気配】
最後に外需の動向を見ると、税関ベースでは、5月の輸出前年比は+14.9%、輸入は同+17.8%、6月上・中旬合計は、輸出が同+9.9%、輸入が同+14.5%といずれも輸出より輸入の伸びの方が高く、貿易収支は悪化している。
季調済みの計数を見ると、4〜5月平均の輸出は1〜3月平均比−1.0%の微減、同じ期間の輸入は+1.4%の微増となり、貿易収支の黒字はやや縮小している。前述の鉱工業製品の出荷(季調済み)でみても、同じ時期に輸出は−2.3%の減少、輸入は+2.3%の増加となっている。
GDP統計の実質「純輸出」は、本年1〜3月期まで3四半期続けて成長に対しプラス寄与となっているが、6月の輸出入が4〜5月と同じ傾向なら、久方振りに4〜6月期はマイナス寄与となる可能性がある(図表3)。