2017年6月版
貸出残高・マネーストックの増加率の高まりに支えられ、国内景気は順調に拡大


【在庫投資の減少を除けば1〜3月期は高めの成長】
 本日(6/8)公表された1〜3月期のGDP統計の2次速報値では、1〜3月期の実質成長率が前期比+0.5%(年率+2.2%)から+0.3%(同+1.0%)に下方修正され、2016年度の実質成長率も+1.3%から+1.2%へ僅かに下振れした。
 しかし、これは主として在庫投資が減少したためで、国内最終需要は設備投資の上方修正と家計消費の下方修正が相殺し合って、成長に対し中立的である。このところ在庫投資は成長に対して3四半期続けてマイナスの寄与となっているが、これは潜在的な成長要因を先に持ち越していると見ることも出来る。
 4〜6月期に入ってからも、貸出残高やマネーストックなどのマクロ金融指標の増加率はジリジリと高まり、鉱工業生産の増加率の高まりを支え、物価上昇率を徐々に押し上げているように見える(下表)。


【鉱工業生産、出荷はリーマン・ショック直前の史上ピークに迫る回復】
 4月の鉱工業生産と出荷は、前月下落の反動もあって、前月比それぞれ+4.0%、+2.7%と大きく伸び、リーマン・ショック直前のピークに近付いている(図表1)。製造工業生産予測調査によると、5月は同−2.5%、6月は同+1.8%と高水準を維持する。仮に鉱工業生産がこの通り推移すると、4〜6月期は前期比+2.7%の大幅上昇となる(図表1)。
 このような回復を主導している業種は、輸送用機械、汎用・生産用・業務用機械、電子部品・デバイスなどの機械工業である。

【資本財と耐久消費財がけん引】
 4月の鉱工業出荷を国内向けと輸出に分けると、国内向けは前月比+4.6%と大きく伸びており、輸出は同−4.6%の減少であった。
 この国内向け出荷に輸入を加えた鉱工業製品の国内向け総供給は、輸入が同−1.2%と減少したため、同+3.3%の増加であった。
 これを財別に分けると、資本財(除、輸送機械)が同+9.5%、耐久消費財が同+9.6%と大きく伸びて全体をけん引しており、建設財は同+2.3%、生産財は同+1.9%と伸びは緩やかであり、非耐久消費財は−0.%と微減した。以下に述べる当面の国内需要の動向を示しているように見える。

【家計消費は底固い増勢】
 1〜3月期GDP統計の実質家計消費は前期比+0.3%、前年同期比+0.8%と緩やかに増加しているが、4月の「実質消費活動指数+」(日銀試算)も、1〜3月期平均の104.7(前期比+0.9%増)に続き105.9(1〜3月平均比+1.1%)と増加を続けている(図表2)。
 また、4月の「家計調査」の2人以上の世帯の実質消費支出は、前月比+0.5%の増加となった。支出の内訳を見ると、住所の設備修繕・維持と家計用耐久財・家事用消耗品が比較的高い伸びを示している。この消費支出からは住宅と自動車の購入は除かれているが、輸送機械工業の国内向け総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)を見ると、すべてが個人向けではないが、1〜3月期は前期比−0.2%と頭を打ったあと、4月は前月比+10.%(1〜3月平均比+10.2%)の急増を示している。
 家計消費は、緩やかながら底固い増勢を維持していると見られる。

【労働需給は引き締まっているが、賃金は時間外労働の抑制から減少】
 労働力の需給は引き続き引き締まっている。4月の有効求人倍率は引き続きジリジリと上昇しており、完全失業率は3か月連続して2.8%とほぼ完全雇用の状態にある(図表2)。4月の常用雇用者、就業者、雇用者の諸統計(季調済み)は、前月比それぞれ+0.3%、+0.4%、+0.2%といずれも増加している。これは労働市場に参加する人が増えているためで、因みに4月の労働力人口(同)は前月比+0.4%増、非労働力人口は同−0.6%の減少となった。
 このような労働力需給の逼迫にも拘らず、賃金統計の動きは鈍い。4月の現金給与総額は、残業抑制で、所定外労働を減らしているため、前月比−0.5%(所定外は同+0.1%)の減少となった。また消費者物価の前年比が下落から上昇に転じ、その幅が少しずつ拡大しているため(図表2)、実質賃金の前年比は昨年10月以降ほとんど頭打ちとなっている(図表2)。

【設備投資は確り、住宅投資も高水準、公共投資は弱含み】
 1〜3月期GDP統計の実質設備投資は、1〜3月期「法人企業統計」の設備投資が強かったため、1次速報の前期比+0.2%増から2次速報では同+0.6%に上方修正され、2次速報の成長率を0.1%押し上げた。足許の設備投資動向を反映する資本財(除、輸送機械)の国内向け総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)を見ると、1〜3月期に前期比−3.5%の減少となった反動で、4月は前月比+9.5%(1〜3月平均比+7.0%)の大幅増加となった(図表2)。実勢はならして見る必要があるが、設備投資が確りした増勢を保っていることは、間違いない。
 4月の新設住宅着工戸数は、年率100万4千戸と再びピークを更新した(図表2)、GDP統計の実質住宅投資は、本年1〜3月期まで5四半期連続して増加しているが、住宅着工の動向から見ると、4〜6月期の住宅投資も頭打ちにはならず、緩やかな増勢を続けそうである。
 公共投資は1〜3月期も前期比−0.1%と微減した。3四半期連続の減少である。公共建設工事の受注動向から見て(図表2)、今後も弱含み横這いで推移しよう。

【貿易・サービス収支の大幅黒字続く】
 4月の貿易・サービス収支(季調済み)は3365億円の大幅黒字となった。これは、ピークであった昨年の10〜12月期の平均には及ばないものの、1〜3月期の平均を上回っている(図表2)。
 世界経済の拡大テンポは、米国の回復が底固く、欧州も最悪期を脱し、中国もこれ以上の減速はなさそうなので、徐々に確りしてくると思われる。思わぬトランプ施同や地政学リスクの表面化がない限り、本年は昨年を上回るテンポで拡大するという予測が増えている。
 今後の日本経済は、予想外の事が海外で起こらない限り、内需主導の緩やかな成長で、リーマン・ショック前のピークを上回るレベルで拡大を続けていこう(図表3)。