2017年4月版
景気回復持続の背景に量的拡大から金利引き下げに転換した金融政策の効果

【量的緩和から金利引き下げに転換した効果が出てきた】
 昨年1月に導入したマイナス金利政策の効果が、ジワリと効いてきたように見える。量的緩和一本槍で来た13〜15年の3年間は、マネタリーベースが著増する下で、マネーストック(M3)の前年比(年平均)は2.8〜3.0%で横這いであった。しかし昨年10〜12月期以降、前年比は3%台の後半に上がってきた(下表)。その背景には、マイナス金利政策導入後の貸出金利と社債発行金利の低下に伴い、貸出残高と社債発行残高の前年比が高まっている事実がある(下表)。
 このような金融指標の動きと平仄を合わせるように、鉱工業生産や実質GDPの前年比も、10〜12月期以降高まっている(下表)。また物価の前年比も、プラスの領域に上がってきた(下表)。
 本年末までの動向を見極めなければ、結論は下せないが、量的拡大から金利引き下げに操作目標を切り替えた金融政策転換の効果がジワリと出てきた可能性があり、今後の動向が注目される。



【生産、出荷は月毎の振れを伴いながらも増加の趨勢は高まる傾向】
 2月の鉱工業生産と出荷は、前月比それぞれ+2.0%、−0.1%となった。製造工業生産予測調査によると、3月に同−2.0%低下した後、4月は同+8.3%とジャンプ・アップする(図表1)。鉱工業生産の実績がこの予測通りになると仮定すると、1〜3月期は前期比+1.3%の増加と10〜12月期の増加率(+2.0%)に比し鈍化するが、4四半期連続の増加となる。4月の前月比+8.3%はやや異常な反動増加であるが、生産が急増する業種は汎用・生産用・業務用機械、輸送用機械、電子部品・デバイスなどの資本財である。
 実績がこの予測通りの大きな振れを示すかどうかは分からないが、1月と3月の下落、2月と4月の増加をならしてみれば、資本財を中心にやや高い増加傾向が見られる。

【輸出の増勢が目立つ】
 2月の前月比−0.1%の鉱工業出荷を輸出と国内向けに分けると、輸出が同+5.8%と大きく伸びた反面、国内向けは同−0.6%の減少となった。輸出は10〜12月期に前期比+5.5%と急伸し、その反動で1月は前月比−6.3%減、2月は同+5.8%増と、月毎の振れが激しいが、趨勢としては増勢を高めている。
 2月の国内向け出荷(−0.6%)に2月の輸入を加えた国内向け総供給は、輸入も前月比−3.0%の減少となったため、全体として同−1.7%の減少であった。もっとも1〜2月の平均は、10〜12月平均比+0.5%と消費財を中心に増勢は保たれている。

【雇用・賃金・可処分所得の回復を背景に家計消費は緩やかながら底固い増加】
 2月の国内需要を見ると、家計消費は、日銀試算の「実質消費活動指数+」(季調済み)が、1月の105.2に続いて2月も104.9と10〜12月平均の104.3を上回っている(図表2)。「家計調査」の実質消費支出(2人以上の世帯、季調済み)も、前月比で1月は+0.5%、2月は+2.5%と2か月連続で増加した。
 背後の賃金・雇用動向を見ると。2月の現金給与総額は前年比+0.4%と増勢を保っているが、このところ消費者物価の前年比がジリジリと高まっているため、実質賃金の前年比は1月の−0.1%に続き、2月も0.0%にとどまった(図表2)。
 他方、雇用の拡大は続いており、2月の常用雇用は前年比+2.4%、季調済み前月比は1月の+0.3%に続き+0.1%と増勢を保っている。このため2月の完全失業率は2.8%と、1994年以来、23年振りの2%台に低下した。
 このような賃金・雇用動向を反映して、「家計調査」の可処分所得(勤労者世帯)は、名目で前年比+2.1%、実質で同+1.7%と4か月連続して前年を上回っている。これが最近の家計消費回復の大きな背景と見られる。

【設備投資は増勢を持続】
 投資動向を見ると、足許の設備投資動向を反映する資本財(除、輸送機械)の国内総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)は、1月に前月比+0.9%増となったあと、2月は同−7.0%と急落した(図表2)。これは10〜12月期に前期比+3.9%と大きく増加したことと、4月の製造工業生産予測指数が資本財中心に前月比+8.3%と大きく増加することとの谷間に当たる異常値と思われる。
 3月調査「日銀短観」によると、製造業・非製造業・金融機関の設備投資合計(ソフトウェア・研究開発を含み、土地投資を除く)は、16年度実績見込みが前年比+1.3%となったあと、17年度は低目に出る期初計画であるにも拘らず、同+1.9%と伸び率をやや高める形となっている。緩やかな設備投資の増勢は崩れていない。
 なお、先行指標の機械受注(民需、除船舶・電力)は、2月に前月比+1.5%増となったが、1〜2月の平均は10〜12月平均比−2.1%にとどまっている。見通しの+1.5%に届くかどうかは、期末月の3月の実績次第となっている。

【住宅投資は高水準、公共投資は頭打ち】
 2月の新設住宅着工戸数は、940千戸(年率)と1月の高水準(1,001千戸)の反動で減少したが、1〜2月平均は10〜12月平均を1.9%上回っている(図表2)。住宅投資は、引き続き高水準を続けよう。
 2月の公共建設工事受注額は、前月減少(前年比−7.5%)のあと、同+12.1%の増加となった(図表2)。1〜2月平均は同+3.0%の増加である。実質GDP統計で2四半期連続して前期比減少した公共投資は、1〜3月期も頭打ち傾向を続けると思われる。

【2月の貿易サービス収支は2兆円を超す巨額の黒字】
 2月の貿易サービス収支(季調済み)は、5169億円と大幅な黒字を記録した(図表2)。これは、1月に旧正月で減少したアジア向け輸出が、反動的に大きく伸びたほか、第1次所得収支も1兆9千億円の巨額に達したためである。
 2月の経常収支の黒字(同)も、このため2兆2千億円に達した。1〜2月の経常収支の黒字平均は、10〜12月期を+2.5%上回っており、1〜3月期の外需(純輸出)も成長に対してプラスの寄与となる可能性が高い。
 国内需要も、上述の通り、設備投資と家計消費を中心に拡大を続ける公算が高いので、日本経済は1〜3月期もプラス成長となる可能性が高いと思われる(図表3)。問題は、その割に企業の先行き感が好転せず、株価も冴えないことだ。これは、トランプ大統領の貿易と軍事の戦術戦略が未だに読みきれず、日本はもとより世界中が不安感を持って見つめているためで、その警戒感が株安や円高・ドル安の大きな背景にあると思われる。