2017年2月版
回復の動きは広がりインフレ率も上がってきたが、「物価上昇のデフレ効果」に要注意

【実体面・金融面に景気回復の動き広がる】
 景気回復の足取りが、引き続き確りしてきている。
 鉱工業生産・出荷の増加基調は、3四半期続けて強まっており(図表1)、金融面でも銀行貸出残高とマネーストックの前年比がやや高まっている(下表)。
 トランプ米国大統領の攪乱的発言も、当面は減税やインフレ投資拡大など景気刺激的な材料が目立ったため、米国の株価と市場の長期金利は上昇し、ドル高・円安に振れている。このため、日本の株価はこのところやや持ち直し傾向にある。
 日本の国内物価は、エネルギー価格の回復と生鮮食料品の高騰から底打ちの気配が強まっており、1月の国内企業物価は21か月振りに前年比プラスとなった。10〜12月期の実質成長率(1次速報値)は、前期比+0.2%増(年率+1.0%増)とやや低目であったが、これは天候不順に伴う野菜の高騰から消費デフレーターが上昇し、実質家計消費が−0.0%にとどまったことが響いている。


【鉱工業生産の増勢やや強まる】
 12月の鉱工業生産は前月比+0.7%増、出荷は同−0.4%減となったが、ここ数か月間の増勢が強かったため、10〜12月期の前期比は、生産が+2.0%、出荷が+3.3%と最近3四半期で最も高い伸びとなった(図表1)。また、製造工業生産予測調査によると、1月は前月比+3.0%増、2月は同+0.8%増と7か月連続して上昇する予測となっている。仮に鉱工業生産の実績が製造工業予測と同じになったと仮定すると、1〜2月の平均は10〜12月の平均を更に+4.4%上回ることになる(図表1)。実際には、実勢が予測を下回ることが多いので、これ程高い伸びにはならないと見られるが、生産が4四半期連続で増加することはほぼ間違いないと思われる。
 この増勢をリードしている業種は、主として輸送機械、電子部品・デバイス、電気機械などの資本財と科学、鉄鋼などの生産財である。

【10〜12月期の国内向け総供給は消費増税実施以来10四半期振りの高い伸び】
 12月の出荷(前月比−0.4%減)を国内向けと輸出に分けると、前者が前月比−1.4%減、後者が同+3.1%増であった。この国内向け出荷に輸入を加えた国内向け総供給は、輸入も前月比−1.1%の減少となったため、全体は同−1.2%の減少であった。もっとも、前3か月の国内向け総供給が順調に増加していたので、10〜12月期をくくると、前期比+2.6%増と14年第2四半期(消費増税実施)以降例を見ない高い伸びとなった。
 財別に見ると、10〜12月期の国内向け総供給が高い伸びを示したのは、資本財(除輸送機械)の前期比+2.9%増、耐久消費財の同+3.9%増、生産財の同+3.5%増であった。これらは、先に述べた鉱工業生産の増勢をリードしている業種とほぼ一致しており、最近の生産増加が国内向け出荷に裏付けられた動きであることを示唆している。

【野菜の価格高騰から消費回復は足踏み】
 国内需要の動向を見ると、10〜12月期のGDP統計の名目家計消費は前期比+0.3%の増加となったが、消費デフレーターが同+0.3%の上昇となったため、実質家計消費は同−0.0%となった。日銀試算の「実質消費活動指数+」も、12月が落ち込んだため、10〜12月期は前期比横ばいとなった(図表2)。野菜の高騰は11月にピークを打ったので、1〜3月期の実質消費は再び緩やかな増加に戻る公算が高い。
 12月の「家計調査」の実収入(勤労者所帯)は、前月比+2.3%と2か月連続で増え、「毎勤」の名目賃金は前年を上回っている。しかし、10〜12月の実質賃金は消費者物価の前年比上昇率がこれ迄のマイナスから+0.3%のプラスに転じたため、前年比−0.2%の微減となった。
 他方、12月の求人倍率は引き続き上昇し、労働需給は引き締まっているが、12月の雇用は「毎勤」の常用雇用が前月比+0.3%となった反面、「労調」の雇用者は同−0.5%、就業者は同0.2%と減少し、完全失業率は3.1%の横這いにとどまった。
 このような賃金・雇用動向を反映し、GDP統計の実質雇用者報酬も、10〜12月期は前期比横這いであった。

【設備投資は着実に増加】
 10〜12月期の資本財(除、輸送機械)の国内総供給は前期比+3.9%と高い伸びを示し(図表2)、GDP統計の実質設備投資も同+0.9%の増加となった。先行指標の機械受注(民需、除く船舶・電力)は、7〜9月期に前期比+7.3%とやや大きく増加したあと、10〜12月期は同−0.2%とほぼ横這いとなったが、1〜3月期の見通しは再び+3.3%の増加が見込まれている。設備投資の基調は、緩やかながら増勢を保っていると見られる。
 10〜12月のGDP統計の住宅投資は、前期比+0.2%と4四半期連続の増加となったが、伸び率は大きく鈍化している。マイナス金利政策に伴う住宅ローン金利の低下から一時的に盛り上がった新設住宅着工戸数も、昨年4〜6月期にピークを打ち、高水準ながら7〜9月期、10〜12月期と減少している(図表2)。この後、住宅投資も緩やかな減勢を続けると見られる。
 10〜12月のGDP統計の公共投資は、前期比−1.8%と2四半期連続で減少した。第2次補正予算の影響が出るのは、1〜3月期であろう。

【経常収支の黒字拡大続く】
 10〜12月の貿易・サービス収支(季調済み、以下同じ)は、1兆5247億円の黒字と前期黒字比+26.6%増加し、経常収支は5超3978億円の黒字と同+8.5%増加した。これを反映し、10〜12月期の実質GDP統計の「純輸出」は、GDP成長率に対し、前期比+0.2%のプラス寄与となった。
 今後を展望すると、輸出は海外景気の立ち直りから引き続き増勢を保つと見られるが、輸入が国際原油市況の回復を映じて、これ迄よりも伸びを高めると見られるので、「純輸出」の成長寄与はやや落ちてくるのではないかと思われる。
 今後の日本経済の成長は国内需要に大きく依存すると見られるが、金融・財務面からの政策効果にはあまり期待できない反面、最近の消費頭打ちのように、「物価上昇のデフレ効果」が出てくる恐れもあり、楽観は許されないといえよう。