2016年12月版
景気回復の足取りが確りしてきた

【多くのマクロ経済指標に好転の動き】
 景気回復の足取りが次第に確りしてきた。鉱工業製品国内総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)、貸出残高、マネーストックなどのマクロ指標の増加率は10、11月に揃って強まり、消費者物価(10月)、企業部物価(11月)の前年比もジリジリと高まっている。12月調査「日銀短観」の「業況判断DI」は、6四半期振りに前期よりも改善した。市場では、トランプ当選以来の円安・株高が続いている。

【鉱工業生産、出荷の回復テンポはやや早まる傾向】
 10月の鉱工業生産、出荷の確報は、前月比それぞれ0.0%、+2.0%となったが、この10月は7〜9月平均に比べてそれぞれ+0.8%、+2.8%高い水準である。
 製造工業生産予測調査によると、11月は前月比+4.5%増、12月は同−0.6%減となっており、仮に鉱工業生産の実績がこの通りになったとすると、10〜12月期は前期比+3.6%の大幅増加となる(図表1)。実際には、実績が予測を下回ることが多いので、これ程高い伸びにはならないとしても、四半期ベースの前期比が4〜6月期から3四半期連続してプラスとなり、そのテンポが期を追って加速する可能性は高いと見られる。増勢の加速をリードしている業種は、各種の機械工業である。
 10月の鉱工業出荷を輸出と国内向けに分けると、輸出は前月比−1.6%減であるのに対し、国内向けは同+3.0%増と高い伸びとなっている。
 この国内向け出荷(前月比+3.0%)に輸入を加えた国内向け総供給は、輸入が同+1.0%の増加にとどまったため、全体として同+1.9%となったが、それでもかなり高い伸びで、7〜9月平均を2.3%上回っている。

【賃金・雇用の回復を背景に家計消費は底固い】
 10月の需要動向を見ると、日銀試算の「消費活動指数+」は、104.6と、前月比+0.8%、7〜9月平均比+0.8%の増加となった(図表2)。
 10月の実質賃金は、前年比0.0%と大きく伸び率を落としたが(図表2)、これはデフレータ―の消費者物価(持ち家の帰属家賃を除く)が、野菜・果物等の生鮮食品の値上がりを主因に、前月の前年比−0.5%減から10月は同+0.2%増に高まったためである。
 雇用は引き続き堅調で、10月の「労調」の就業者、雇用者、「毎勤」の常用雇用者は、前月比それぞれ+0.1%、+0.3%、+0.1%といずれもジリジリ増加しており、前年比はそれぞれ+1.0%、+1.6%(図表2)、+2.1%の水準にある。10月の完全失業率は3.0%と前月比横這いであったが、新規求人倍率と有効求人倍率は、10月もジリジリ上昇している。
 このような賃金・雇用動向を背景に、家計消費の基調は底固いと見られる。

【設備投資の基調はGDP統計ほど弱くはない】
 投資動向を見ると、足許の設備投資関連機械の荷動きを示す資本財(除輸送機械)の国内総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)は、10月に前月比+2.5%、7〜9月比+2.8%とかなり増加した。先行指標の機械受注(民需、除船舶・電力)は、7〜9月期に前期比+7.3%と大きく伸びたあと、10月も前月比+4.1%、7〜9月期平均比+1.0%と増勢を続けている(図表1)。
 7〜9月期のGDP統計(2次速報)では、設備投資が前期比−0.4%の減少となったが、7〜9月期から10〜12月期にかけて、設備投資の基調は弱くないと見られる。

【住宅投資と公共投資は高水準持続】
 10月の新設住宅着工戸数(季調済み、年率)は、983千戸と7〜9月期(平均982千戸)の高水準を保っている(図表2)。3四半期連続して増加したGDPベースの住宅投資は、今後次第に頭を打ちながらも、高水準を続けよう。
 10月の公共建設工事の受注額は、前年比−17.1%と前月増加(同+37.9%)の反動から落ち込んだが、これから大型の本年度第2次補正予算が執行されることから見て、公共投資は大勢として高水準を維持すると見られる。

【海外経済が最悪期を脱する中、貿易、経常収支は改善傾向】
 10月の貿易収支(関税ベース)は、金額ベース、数量ベースのいずれも輸入の前年比減少率が輸出の前年比減少率を上回ったため、大きく改善し、金額ベースで2か月連続の黒字となった。
 季調済み前月比でも、輸出が+4.0%、輸入が+3.3%と共に回復傾向を示しつつ、収支尻は改善している。季調済みベースで、10月の貿易・サービス収支は6294億円の黒字、経常収支は1兆9289億円の黒字と、共に大幅な改善を見た。
 米国経済の回復は次第に足取りが確りしてきたため、FRBは12月14日にFFレートの誘導目標を0.25%引き上げ、0.5〜0.75%とした(昨年12月に続く第2次引き上げ)。欧州や資源国・新興国の経済も、最悪期を脱しつつある。来年にかけて、日本の輸出環境は本年より改善されると見られる。