2016年11月版
確りしてきた景気回復の基調
【日本経済の実体面、金融面に基調変化の気配】
日本の景気回復の基調が、少しずつ確りしてきた。本日公表された7〜9月期の実質成長率は、前期比+05%(年率+2.2%)とうるう年要因で上振れした本年1〜3月期(同年率+2.1%)に匹敵する伸びとなり、前年同期比は+0.9%まで高まった。
鉱工業生産と出荷も、7〜9月期は前期比それぞれ+1.3%、+0.7%と5四半期振りの高い伸びとなった。
また金融面の指標では、総貸出平残(速報)の前年比が、8月+2.0%、9月+2.2%、10月+2.4%と徐々に高まり、マネーストック(M3)の前年比も8月+2.8%、9月+3.0%、10月+3.2%、季調済み前月比(年率)では、8月+2.2%、9月+3.6%、10月+3.7%と高まっている。
勿論、この短期間の動きから経済の基調に変化が出てきたとは断言できないが、この動きが年末に向かって続くならば、基調変化の兆しとして注目される。
【生産、出荷の基調は7〜9月期から10〜12月期に向かって確りしてきた】
9月の鉱工業生産と出荷は、前月比それぞれ+0.6%、+1.8%の増加となり、この結果7〜9月期の前期比は、それぞれ+1.3%、+0.7%と5四半期振りの高い伸びとなった(図表1)。
製造工業生産予測調査によると、10月と11月は前月比それぞれ+1.1%、+2.1%と見込まれており、仮に鉱工業の実績がこの通りの伸びとなれば、10〜11月平均は7〜9月平均を+3.0%上回ることになる。実勢は予測よりも低くなる傾向が続いているので、これ程の高い伸びにはならないとしても、生産、出荷の基調が7〜9月期以降10〜12月期にかけて確りしてきたと判断することは出来よう。
生産、出荷の伸びを一貫して支えているのは、汎用・生産用・業務用機械で、ほかに9月については輸送用機械、10月と11月については電子部品・デバイスの増産が大きく寄与している。
【賃金・雇用の改善から雇用者所得は回復を持続】
国内の需要動向を見ると、実質GDP統計の7〜9月の家計消費は前期比0.0%と横這いであった。これは「家計消費」の7〜9月期実質消費支出(2人以上の世帯)が前期比−0.5%の減少となったことが響いていると見られる。販売統計(ネット販売を含む)からアプローチしている日銀の「実質消費活動指数+」を見ると、7〜9月期は前期比+0.5%の増加である(図表2)。GDP統計の家計消費は、将来上方修正されるのではないか。
家計消費の背後にある賃金・雇用の動向を見ると、7〜9月期の実質賃金は前年比+1.0%、「労調」の雇用者数や「毎勤」の常用雇用者数の前年比はそれぞれ+1.5%、+2.2%と賃金・雇用共に着実に伸び続けている(図表2)。これを反映して、実質GDP統計の雇用者報酬も、前年比は期を追って高まっており、7〜9月期は+3.0%に達している。このような雇用者報酬の堅調な動きと、GDPの家計消費の弱さとは、どう見ても平仄が合わない。
【機械設備への投資は増加】
実質GDP統計の設備投資は、2四半期減少のあと、7〜9月期は前期比0.0%である。しかし、資本財(除、輸送機械)の国内向け総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)を見ると、4〜6月期に前期比+2.4%の増加に転じたあと、7〜9月期も同+1.6%の増加である(図表2)。
ここでも、GDP統計が過少推計ではないかという疑いが残る。設備投資については、12月1日に公表される「法人企業統計」によって修正される。
【住宅投資と公共投資は底固い】
実質GDP統計における7〜9月期の住宅投資は、前期に大幅増加(前期比+5.0%)したあと、更に同+2.3%の増加となった。新設住宅着工戸数は、4〜6月期に年率1005千戸のピークを記録したあと、7〜9月期には同982千戸に下がったが、引き続き高水準である(図表2)。住宅投資も、しばらく高水準を続けると思われる。
実質GDP統計の公共投資は、前期に前々期比+2.3%の増加となったあと、7〜9月期には前期比−0.7%とやや下がった。しかし、建設工事受注額は、前期に前年比−1.3%と頭を打ったあと、7〜9月期には同+11.9%と再び伸びを高めた(図表2)。第2次補正予算の執行期に入ることもあり、公共投資は今後しばらくは増加傾向を辿るものと思われる。
【輸出の回復が成長に大きく寄与】
最後に輸出入の動向を見ると、実質GDP統計ベースで、輸入は7〜9月期まで4四半期連続で前期比減少しているが、輸出は7〜9月期に前期比+2.0%の大幅増加に転じ、純輸出の成長寄与度は+0.5%と、これだけでGDP全体の成長を説明出来る大きさとなった。
このことは、貿易サービス収支が本年に入って改善傾向にあり、特に7〜9月期は一段と大幅な黒字になったことから(図表2)、予想されていた。海外経済が最悪期を脱し、徐々に成長率を高めているうえ、米国の金利上昇予想もあって円高の動きが止まり、やや円安に振れていることなどが背景にある。
【明年に向かって潜在成長率を上回る持続的成長軌道へ】
7〜9月期の実質成長率は、家計消費や設備投資が実勢よりも弱く出ていることから、今後やや上方修正されていくと思われる。
そのことを除いても、15暦年に前年比+0.5%とやや立ち直った実質成長率は、16歴年には更に立ち直っていくと見られる。16歴年1〜3月期から7〜9月期の実質GDP平均は、前年比+0.6%と既に15暦年の0.5%を上回っており、7〜9月期だけとれば、同+0.9%となっている。
賃金・雇用の改善に伴う雇用者所得の増加に支えられて、家計消費の実勢は間違いなく回復しており、設備投資・住宅投資・公共投資も全体として緩やかに増加していくと見られる。他方、海外経済の回復と円高修正から、純輸出も引き続き成長に寄与すると見られる(図表3)。その結果、日本経済は明年に向かって潜在成長率(約0.5%)をはっきり上回る成長軌道を辿り、デフレに戻る心配は、予想外のショックが発生しない限りなくなったと言ってよい。