2016年10月版
7〜9月期の成長率は前2四半期の低成長に比し高まる可能性

【鉱工業製品の国内向け総供給は7〜9月期に3四半期振りの増加か】
 4〜6月期に続き、7〜9月期も景気回復の足取りは少しずつ確りしてきている。
 8月の鉱工業生産は前月比+1.3%の増加となり、製造工業生産予測調査によると、9月は同+2.2%、10月は同+1.2%と8月から3か月連続して上昇する形となった(図表1)。鉱工業生産の実績が製造工業生産の予測通りになったと仮定すると、7〜9月期は前期比+1.9%と久方振りの大幅上昇となる(図表1)。実績は予測より低くなる傾向が続いているので、これ程大幅になるとは限らないが、生産回復のテンポはやや確りしてきたようだ。
 8月の鉱工業出荷は、前月比−1.1%と2か月連続上昇の反動もあって減少した。これを輸出と国内向け出荷に分けると、前月比−1.8%、同−1.2%といずれも減少となった。
 この国内向け出荷に輸入を加えた国内向け総供給は、輸入が前月比+1.6%と増加したため、全体は同−0.5%の減少にとどまった。また国内向け総供給の7〜8月平均は、4〜6月平均を+0.8%上回る水準にある。9月の動向にもよるが、7〜9月期は鉱工業製品の国内向け総供給が3四半期振りのプラスとなる可能性がある。

【賃金・雇用の堅調を背景に7〜9月期の家計消費に立ち直りの気配】
 国内の需要動向を見ると、日銀試算の8月の「実質消費活動指数+」は、103.8と前月比−0.4%減少したが、7〜8月平均は104.0と前期の平均に比し+0.7%の水準になる(図表2)。このところ停滞気味に推移していた家計消費は、7〜9月期にはやや立ち直る可能性がある。
 背後にある賃金・雇用動向は、底堅く推移している。8月の現金給与総額は、賞与の支払時期を過ぎたため、前年比−0.1%の減少となったが、実質ベースでは、持ち家の帰属家賃を除く消費者物価が前年比−0.5%の減少となったため、+0.5%と7か月連続して前年を上回っている(図表2)。
 他方雇用は、「毎勤」の常用雇用者数、「労調」の就業者数、雇用者数は、いずれも前年をそれぞれ+2.2%、+1.3%、+1.5%上回り、堅調に推移している。9月調査「日銀短観」の「雇用人員判断」では、中堅・中小企業のみならず、大企業でも「不足」超幅が拡大している。

【7〜9月期の設備投資は3四半期振りに増加に転じる公算】
 投資動向を見ると、足許の機械に対する設備投資の動向を示す資本財(除輸送機械)の国内向け総供給(国産品の国内向け総供給と輸入の合計)は、8月も前月比+1.5%と2か月連続して増加し、7〜8月平均の4〜6月平均比は+1.8%の増加となった(図表2)。
 先行指標の機械受注(民需、除船舶・電力)を見ると、8月は前月比−2.2%と前2か月増加の反動で減少したが、7〜8月平均は4〜6月平均比+8.9%の水準にあり、7〜9月期の見通し(前期比+5.2%)を達成する公算は高いと見られる(図表2)。
 実質GDP統計で、1〜3月期(前期比−0.6%)、4〜6月期(同−0.1%)と2四半期連続して減少した設備投資は、7〜9月期には増加する公算が高い。

【住宅投資は増勢持続、公共投資は頭打ち】
 マイナス金利政策導入に伴う住宅ローン金利の低下もあって、2月から急増していた新設住宅着工戸数は、5月以降、高水準で頭を打ってきたが、8月も956千戸(季調済み年率)となお高水準を保っている(図表2)。実質GDPベースの住宅投資は、4〜6月期に続き、7〜9月期も大きく伸びると見られる。
 8月の公共建設工事受注額は、前月比+4.1%と4か月振りに前年を上回った(図表2)。実質GDPベースで2四半期連続して増加した公共投資は、受注動向から判断して今後は次第に頭打ちになると見られる。

【8月の貿易収支、経常収支の黒字は大幅に拡大】
 最後に外需の動向を見ると、8月の国際収支(季調済み)は、輸出が前月比+4.0%、輸入が同−1.6%となった結果、貿易収支が6625億円(前月比+83.2%)、経常収支は1兆9757億円(同+36.5%)の大幅黒字拡大となった。最近の円安傾向が背景と見られる。
 7〜8月平均の経常収支黒字額も、4〜6月平均比+10.8%の大幅増加である。この間円ベースの7〜8月輸出入物価平均は、輸出が4〜6月平均比−3.2%、輸入が同−1.4%と交易条件の悪化は−1.8%にとどまっているので、金額ベースの大幅な黒字拡大は、9月の計数にもよるが、7〜9月の実質「純輸出」の大幅好転につながる可能性が高い。

【7〜9月期の成長率はやや高まる可能性】
 以上、8月までの景気指標から判断すると、7〜9月期は国内需要が家計消費と設備投資を中心に増加し、「純輸出」も好転するので、9月の指標はまだほとんど出ていないが、7〜9月期の実質GDPは、1〜3月期、4〜6月期に比し、かなりはっきりとした回復になる公算が高い(図表3)。
 ただ、しばしば指摘されているように、「家計調査」に基づくGDPの家計消費は、実勢よりかなり低いと見られるので、日銀の「実質消費活動指数+」で見るほど、GDPの立ち直りは顕著ではないかもしれない。