2016年8月版
住宅投資・公共投資・家計消費中心に緩やかに成長、4〜6月期GDPのゼロ成長は過少推計か

【マイナス金利の効果で住宅投資が上向く中で、政府は秋以降の大型経済対策を決定】
 安倍政権は、17年4月の消費増税延期に続き、28.1兆円の大型経済対策を閣議決定した。このうち財政措置(真水)は7.5兆円、財政投融資は約6兆円である。真水7.5兆円のうち、4兆円は秋の本年度第2次補正予算に組み込み、残りの3.5兆円は17年度当初予算に組み込む予定である。14、15年度の2年間、消費増税(14年4月)と2年間の公共投資減少で景気の足を引っ張っていた財政が、再び景気促進側に戻ろうとしている。
 金融面では、マイナス金利政策の導入から6か月が経ち、住宅ローン金利の低下が住宅投資の立ち直りを促し、また社債・CPの発行金利と銀行借入金利の低下が設備投資を下支えている。
 海外では、英国のEU離脱が国民投票で決まったことに伴う金融市場の動揺がひとまず収まり、また米国の雇用統計が6月に続き、7月も予想を上回る強さを示したため、再び米国の年内利上げシナリオが浮上しているが、時期は早くないとの見方が多い。
 日本では、このような国内外の動きを反映して、円相場が対ドル99〜102円とやや円高に振れ、日経平均株価は一時1万5千円台を割ったあと、1万6千円台後半に戻っている。

【7月と8月の製造工業生産は大きく上昇する予測】
 6月の鉱工業生産と出荷は、前月比それぞれ+2.3%、+1.7%の増加となり、4〜6月期の前期比は、生産、出荷とも前期減少のあと、共に+0.2%と微増した(図表1)。
 注目されるのは7月以降である。7月と8月の製造工業生産予測調査によると、7月は前月比+2.4%、8月は同+2.3%と2か月連続してやや大きく上昇する予測となっている(図表1)。実績は予測よりも下振れすることが多いが、仮に実績がこの予測通りになると、8月の生産は消費増税前の駆け込み生産でピークを形成した14年1〜3月期の水準に迫ることになる(図表1)。
 恐らく実績はそこ迄戻らないと思われるが、この生産急増を主導する業種が、輸送用機械、汎用・生産用・業務用機械、電子部品・デバイス、化学などであることから判断すると、熊本地震の影響を受けていた業種の生産が本格的に立ち直ってきたことが一因と考えられる。

【鉱工業製品の国内向け総供給は、消費財を中心に2四半期連続して減少】
 6月の出荷(前月比+1.7%)を国内向けと輸出に分けると、前月比それぞれ+1.4%、+3.6%となる。輸出の伸びがやや高いが、これは前月の大幅減少(同−3.9%)の反動であり、4〜6月期をならすと前期比−0.7%の減少となり、引き続き基調は弱い。
 国内向け出荷に輸入を加えた国内向け総供給は、輸入が前月比−0.2%と減少したため同+0.8%の増加にとどまった。また、4月と5月が連続して減少しているため、4〜6月期平均は、前期比−0.7%と2四半期連続して減少している。これを財別に見ると、2四半期連続して減少したのは消費財で、投資財は前期減少したあと、4〜6月期は増加した。

【GDP統計の4〜6月期家計消費の微増は過少推計ではないか】
 国内需要のうちまず家計消費の動向を見ると、「家計調査」の季調済み実質消費支出(2人以上の世帯)は、6月に前月比−1.1%、4〜6月期は前期比−0.2%と共に減少した。しかし、日銀試算の「実質消費活動指数+」を見ると、4〜6月期平均は103.5と前期(103.2)に比し、+0.3%の増加となっている(図表2)。4〜6月期のGDP統計の実質家計消費(1次速報)は前期比+0.1%の微増と公表された(図表3)。
 消費統計が不揃いなのは景況判断の上で問題であり、とくに「家計調査」の標本の偏り(専業主婦や高齢者の回答が多い)に伴う下振れ傾向は早急に修正することが望まれる。家計消費の実勢は弱いながらも、「家計調査」のように減少はしていないと見てよいのではないか。

【賃金・雇用の改善で実質雇用者報酬は2四半期連続で増加】
 6月の名目賃金は、賞与が前年比+3.3%の増加となったため、全体で同+1.3%の増加となった。また、持ち家の帰属家賃を除く消費者物価が前年比−0.5%の低下となったため、実質賃金は同+1.8%の上昇と試算されている。4〜6月の実質賃金も、前年比+1.0%の上昇と、1〜3月期(同+0.6%)に続き2四半期連続して前年を上回った(図表2)。
 他方、雇用の改善もジリジリと進んでおり、6月の就業者数は前月比+0.7%、完全失業者数は同−0.9%となり、完全失業率は3.1%と前月比0.1%ポイント低下した(図表2)。
 このような賃金・雇用の改善傾向を反映し、4〜6月期GDP統計の雇用者報酬(季調済み実質)の前期比は、前期(+1.1%)に引き続き+0.3%の上昇となった。この伸びと、家計消費(季調済み実質)の前期比が1〜3月期+0.5%、4〜6月期−0.2%にとどまっていることとの間には、大きな違和感がある。高齢化の下で貯蓄率が下がっている中で、本当にこのような消費抑制、貯蓄の増加が生じているのであろうか。

【マイナス金利政策導入後住宅投資は回復傾向、公共投資は予算の前倒し執行で増勢に転じる気配】
 投資動向を見ると、マイナス金利政策導入後の住宅ローン金利低下に伴い、住宅投資の回復が目立っている。季調済年率換算で80万戸台にとどまっていた新設住宅着工戸数は、2月から急増し始め、5月以降は100万戸台に達している(図表2)。
 GDP統計の住宅投資(実質)は、4〜6月期は前期比+5.0%(成長率に対する寄与度+0.1%)となった。
 公共投資も、本年度予算の前倒し執行を反映して、4〜6月期のGDP統計では前期比+2.3%と昨年7〜9月期以降の減少や足踏みを脱する気配を示している(図表2)。

【設備投資の回復傾向ははっきりしていない】
 住宅投資、公共投資を比較すると、貸出金利やCP・社債発行金利の低下にも拘らず、設備投資の回復傾向は不確かである。4〜6月期の資本財(除、輸送機械)の国内総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)は、前期比+2.4%と6四半期振りの増加となった(図表2)。しかし、これとは裏腹に4〜6月期のGDP統計の設備投資(実質)は、前期比−0.4%と2四半期続けて微減と発表された(図表3)。
 先行指標の機械受注(民需、除船舶・電力)は、昨年10〜12月期、本年1〜3月期と2期続けて増加したあと、4〜6月期には前期比−9.2%とやや大きく減少した(図表2)。しかし、先行き7〜9月期の見通しは、同+5.2%と再び増加する。ならして見れば、設備投資の先行指標は緩やかな増勢を示唆しているように見える。

【貿易・サービス収支の好転傾向続く】
 最後に外需の動向を見ると、季調ベースで、6月の輸出は前月比+2.1%、輸入は同−0.4%、貿易収支の黒字は拡大して4658億円(同+41.8%)となった。4〜6月平均では輸出が前期比−2.8%、輸入が同−4.9%と共に減少したが、貿易収支の黒字は同+34.4%と引き続き拡大傾向を続けている。
 他方、企業物価指数の円ベースの輸出入物価を見ると、4〜6月期は輸出物価が前期比−3.3%、輸入物価が同−4.3%と共に下落しているので、これをデフレーターに用いると、4〜6月期は実質輸出が同+0.5%、実質輸入が同−0.6%となり、4〜6月期は実質ベースの貿易収支も好転している。
 また、前述した鉱工業出荷統計を見ても、4〜6月期は輸出が前期比−0.7%、輸入が同−5.4%と鉱工業製品ベース(実質ベース)の貿易収支も好転している。
 ところが、4〜6月期のGDP統計では、実質ベースの「純輸出」が3四半期振りに悪化し、成長に対する寄与度が−0.3%に達している(図表3)。4〜6月期は貿易・サービス収支の黒字も8540億円と前期比僅かに拡大しているので(図表2)、何故GDPの「純輸出」が大幅な悪化となったのか、不可解である。恐らく、輸出入デフレーターが日銀や経産省と大きく違っているのであろう。

【4〜6月期GDPのゼロ成長は過少推計ではないか】
 8月15日に公表された4〜6月期のGDP統計(1次速報)では、上述のように「純輸出」の成長寄与度が−0.3%となったため、国内需要の成長寄与度が+0.3%(年率+1.2%)に達しているにも拘らず、成長率は前期比0.0%(年率+0.2%)にとどまった(図表3)。
 国内需要の拡大を支えたのは、家計消費、住宅投資、公共投資である。既に見たように、国内需要のうち家計消費と設備投資には過少推計の疑いがあり、「純輸出」のマイナスも理解し難い。今後4〜6月期の計数は、2次速報、確報と進むうちに上方修正される可能性がある。
 日本経済の実勢は、4〜6月期のGDP統計が示すゼロ成長よりは強いと思われる。この弱いGDP統計を根拠に秋の大型景気対策が組まれたのであれば、問題と言えよう。
(注)9月6日に公表された「4〜6月期GDP・2次速報値」で、4〜6月期の前期比成長率は、0.0%(年率0.2%)から0.2%(年率0.7%)に上方修正された。