2016年7月版
内需の立ち直りと外需の不振が相殺し合う冴えない動き、関心は秋の大型経済対策へ

【国際的な金融市場の動揺は落ち着きを取り戻し、国内の関心は秋の大型経済対策へ】
 6月23日の英国の国民投票で、予想と異なり、EU離脱派が勝利したため、世界経済の混乱を予想して各国で株価が下落し、日本では日経平均が1万5千円すれすれ迄急落した。また投資家のリスク・オフの態度が強まり、円は対ドルで一時99円台まで円高となった。しかし、英国のEU離脱とその世界経済への影響は、当面の問題と言うよりも、今後2〜3年間の問題で不透明感が強いことから、次第に金融市場は落ち着きを取り戻し、米国の6月の雇用統計が予想を大きく上回って好転したこともあって、7月央現在、円は対ドルで104円台に戻り、日経平均株価は1万6千円台に回復した。
 日本国内では、参院選挙で大勝した安倍政権が、大型補正予想を伴うどの程度の経済対策を打ち出してくるかに、人々の関心が集まっている。

【鉱工業生産と出荷は3か月振りの減少】
 5月の鉱工業生産と出荷は、前月比それぞれ−2.3%、−2.3%と3か月振りの減少となった(図表1)。先月の製造工業生産予測調査では、5月が前月比+2.2%、6月が同+0.3%と4か月連続の上昇予想となっていたが、5月の実勢は予測に比して−4.5%ポイントの下振れとなった。
 6月と7月の予測調査は、それぞれ前月比+1.7%、同+1.3%と再び2か月連続の上昇となっている。5月の実績と6、7月の予測を通じて3か月連続で上昇となっている業種は、輸送機械と情報通信機械で、熊本地震等による一時的落ち込みからの回復過程とみられる。
 生産の実績は、5月のように、しばしば予測を下回るので、一進一退の生産が今後回復に転じる兆しかどうかは、まだ分からない。

【資本財の国内向け総出荷の増加が目立つ】
 5月の鉱工業出荷を国内向けと輸出に分けると、前月比それぞれ−3.9%、同−1.7%といずれも減少している。
 この国内向け出荷に輸入を加えた国内向け総供給は、輸入が前月比+3.3%とやや大きく伸びたので、全体で同−0.6%の減少にとどまった。財別に見ると、資本財と同(除、輸送機械)が、前月比それぞれ+2.7%、+1.5%と増加したことが目立つ。とくに同(除、輸送機械)は、3月から3か月連続して増加しており、4
〜5月平均は1〜3月平均比+2.4%増の水準にある(図表2)。

【家計消費は雇用に支えられて微増】
 国内需要の動向を見ると、5月の家計調査の実質消費支出(2人以上の世帯)は、前月比−1.5%、前年比−1.1%といずれも減少した。しかし、日銀調べの「実質消費活動指数+」によると、5月は前月比+0.1%増、4〜5月平均の1〜3月平均比は+0.2%増と僅かに増加している(図表2)。
 5月の現金給与総額は、前年比−0.2%の減少となったが、持ち家の帰属家賃を除く消費者物価が前年を下回っているため、実質賃金の前年比は+0.2%と4か月連続で前年を上回った(図表2)。5月の雇用は、引き続きジリジリと拡大している。「労調」の雇用者は前月比+0.1%、前年比+1.7%の増加、「毎勤」の常用者雇用者は前月比+0.1%、前年比+1.9%の増加となった(図表2)。
 賃金動向が冴えない下で、雇用の緩やかな拡大が家計消費を支えている。

【足許の設備投資は確かり、先行指標は不安】
 投資動向を見ると、足許の設備投資は、前述の資本財(除、輸送機械)の国内向け総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)が、3か月連続で前月比増加していることから見て、緩やかな増勢を辿っていると見られる(図表2)
 6月調査の「日銀短観」によると、製造業・非製造業・金融機関の本年度設備投資計画(ソフトウェア投資を含み、土地投資を除く)は、前年比+4.8%と前年の伸び(+4.3%)を僅かに上回っている。
 しかし、先行指標の機械受注(民需、除船舶・電力)が、10〜12月(前期比+2.6%)、1〜3月(同+6.7%)と伸びた後、4月(前月比−11.0%)、5月(同−1.4%)、と弱い。これが一時的な動きかどうか、注意を払う必要があろう。

住宅投資の立ち直りが鮮明】
 住宅投資は、マイナス金利政策に伴う住宅ローン金利の低下もあって、1〜3月期以降、回復歩調を強めている。5月の新設住宅着工戸数(季調済年率)は、1017千戸と11か月振りに100万戸の大台に乗った(図表2)。4〜5月平均の1〜3月平均比は、+6.2%である。
 他方、7〜9月期〜1〜3月期と3四半期連続して減少した公共投資については、16年度予算の前倒し執行の効果が、いつから出て来るのか注目される。公共建設工事受注額は、3月と4月に、14か月振りに前年を上回ったが、5月には再び−3.9%の減少となった(図表2)
 政府は秋の第2次補正予算で大型な経済対策を打ち出す構えでいるので、公共投資は早晩上向いてくると思われる。

【4〜6月期の純輸出は4四半期振りのマイナス寄与か】
 最後に外需の動向を見ると、季節調整済みの貿易・サービス収支と経済収支の黒字額は、3月をピークに、4月、5月と減少している(図表2)。4〜5月の経常収支黒字額平均は、1〜3月期を−8.3%下回っている。3四半期続いた実質GDP統計における純輸出の成長に対するプラス寄与は、4〜6月期にマイナス寄与に転じるかも知れない(図表3)。

【4〜6月期は内外需が相殺し合い小幅のプラス成長か】
 以上から判断すると、来月15日に公表される4〜6月期実質GDP(1次速報値)は、家計消費、住宅投資、設備投資を中心とする国内需要の回復と外需の失速が相殺し合い、小幅のプラス成長にとどまる公算が高いように思われる。