2016年5月版
15年度中に足踏みを繰り返した景気は、16年度初めから緩やかに立ち直る兆し

【最近1年間の実質GDPは一進一退の横這いで、消費増税直前の14年1〜3月期の水準には戻っていない】
 3月18日公表の本年1〜3月期実質GDPは、前期比+0.4%(年率+1.7%)の増加となり、前期の落ち込み(同−0.4%、−1.7%)を取り戻す形となった(図表3)。振り返るとこの1年間、実質GDPは四半期ごとにプラス成長とマイナス成長を繰り返して大勢横這いで推移しており(図表3)、その結果、本年1〜3月期は前年1〜3月期と同水準である(前年比−0.0%)。つまりこの1年間(15年度中)、景気は一進一退の足踏み状態にあったことが確認できる(図表3)。
 更にさかのぼると、消費増税直前の14年1〜3月期が実質GDPのピークで、16年1〜3月期までの2年間は、このピークの水準に戻っていない(図表3)。日本経済は、消費増税後2年間、低迷しているのである。

【2年間低迷の主因は、家計消費の停滞、設備投資の弱含み、公共投資の減勢】
 本年1〜3月期実質GDPの前年同期比の内訳を見ると、国内需要では住宅投資と政府消費がプラス、家計消費、設備投資、公共投資がマイナスで、互いに相殺し合った結果、国内需要全体の成長寄与度はゼロである。
 また海外需要では、輸出と輸入がいずれもマイナスで、全体としては輸出入が互いに相殺し合い、これも成長への寄与度はゼロである。
 海外経済は、中国の減速、EUの足踏みなどで停滞し、日本の実質輸出は減少したが、国内需要の弱さから実質輸入も減少し、海外需要(純輸出)は日本の成長に対して中立的であった。日本の経済成長停滞の主因は、家計消費、設備投資、公共投資の弱さである。
 17年4月の消費増税延期の決定は、必至の情勢にある。

【鉱工業生産、出荷も一進一退】
 3月の鉱工業生産と出荷は、前月の大幅減少の反動で、夫々前月比+3.6%、同+1.4%の増加となったが(図表1)、1〜3月期としては、夫々前期比−1.1%、同−2.1%の減少となった。15年度中の1年間の生産と出荷は、実質GDPと同じように、一進一退を繰り返しており、本年3月の前年比は生産が+0.1%、出荷が−1.2%と1年間ほぼ横這いである。またやや長い目でみると、消費増税直前の14年3月から最近まで、生産、出荷は緩やかな下落傾向にある(図表1)。
 先行き4月と5月の製造業生産予測調査は、前月比夫々+2.6%、−2.3%となっているが、熊本地震に伴うサプライ・チェーンの分断があるため、実績はもう少し弱く出てくるかも知れない。
 3月の出荷を国内向けと輸出に分けると、国内向けが前月比+1.8%であったのに対し、輸出は同+2.7%とやや高い伸びとなった。この国内向け出荷に輸入を加えた国内向け総供給は、輸入が同−2.9%と減少したため、同+1.5%の増加にとどまった。

【1〜3月期の家計消費はうるう年要因で増加】
 国内需要の動向を見ると、GDP統計の1〜3月期の実質家計消費は、前期の減少(前期比−0.9%減)の反動もあって、前期比+0.5%の増加となった(図表3)。「家計調査」の実質消費支出(2人以上の世帯)の前月比も、2月(うるう月)+1.7%、3月+0.5%と2か月連続して増加し、1〜3月平均の10〜12月平均比は+0.6%となった。もっとも「うるう年」要因を考慮すると、実勢は横這いと見られる。
「家計調査」(GDP速報に使用)の消費支出と各種の小売「販売統計」(GDP確報に使用)との間にかなりのズレがあるため、この程日本銀行は「販売統計」を用いた速報性が高い「消費活動指数」を開発し、公表し始めた。図表2には、このうち「実質消費活動指数+(プラス)」を揚げることとした。「+(プラス)」と言うのは「コンテンツ配信業」の統計を取り込んだ消費活動指数である。
 この指数の趨勢は、GDP(速報)の家計消費よりは上昇傾向が強く、例えば消費増税直前の14年1〜3月期から16年1〜3月期までの下落率は、実質ベースで、実質GDP(速報)が−4.9%であるのに対し、実質活動指数は−2.4%と約半分である。

【賃金、雇用の改善から雇用者報酬の伸びはやや高まる】
 今後の消費を左右する家計所得の動向を見ると、このところ賃金・雇用にやや増勢が高まる気配が見られる。2月と3月の実質賃金は、前年比夫々+0.3%、+1.4%の伸びとなり、1〜3月期は同+0.6%とこの2年間の四半期ベースで最も高い伸びとなった(図表2)。これは、形態別には「特別に支払われた給与」(賞与)を中心とし、業種別には建設、流通などサービス業を中心とする動きである。
 雇用者数は、1〜3月期に入って前年比増加率が高まり、この2年間の四半期ベースで最も高い+1.5%の伸びとなった(図表2)。これもサービス業を中心とする動きである。
 このような賃金、雇用の動向を反映し、GDP統計の実質雇用者報酬も、1〜3月期は前期比+1.3%、前年比+2.7%の増加となり、15年度も前年比+1.7%の伸びとなった。これは最近5年間で最高の伸びである。このような雇用者報酬の伸びが、16年度の家計消費にどのように響いてくるかが注目される。


【4〜6月以降の設備投資、住宅投資、公共投資に立ち直りの兆し】
 次に投資動向を見ると、GDP統計の1〜3月期実質設備投資は、前期比−1.4%と3四半期振りに減少した(図表3)。資本財(除、輸送機械)の国内向け総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)も、1〜3月期は前期比−3.1%の減少であった(図表2)。
 先行指標の機械受注(民需、除船舶・電力)は、1〜3月期に前期比+6.7%と前期(同+2.6%)に引き続き増加しているので(図表2)、4〜6月期以降の設備投資はやや立ち直ってくる可能性がある。
 1〜3月期のGDP統計の実質住宅投資は、前期比−0.8%と前期(同−1.0%)に引き続き2期連続で減少した。しかし、新設住宅着工戸数は、昨年12月をボトムに緩やかに増加し始めており、1〜3月期は前期比+9.1%増の947千戸(年率)となっている。マイナス金利政策に伴う住宅ローン金利の低下もあり、4〜6月期以降、住宅投資が再び立ち直る可能性がある。
 1〜3月期の実質公共投資(GDP統計)は、前期比+0.3%と3四半期振りに微増した(図表3)。補正予算の前倒し執行、年度末の工事発注の集中などもあって、1〜3月の公共工事受注額の前年比は、ほぼ年間減少を続けたあと、+16.8%と急増した(図表2)。参院選対策もあり、4〜6月期の公共投資はかなり増加する可能性が高い。

【経常収支の黒字拡大傾向が顕著】
 最後に外需の動向を見ると、1〜3月期の実質GDP統計では、前期に比し、輸出が増加し、輸入は減少した結果、成長率に対し+0.2%の寄与度となった(図表3)。
 このところ日本の経常収支は、貿易サービス収支の黒字化(図表2)を中心に、急速に黒字幅を拡大している。これは、国内景気停滞に伴う輸入需要の低迷、3年間の円安に伴う輸出競争力の改善、対外直接投資伸長に伴う所得収支の黒字幅拡大などによるもので、しばらくこの趨勢は続くものと見られる。


【16年度の景気は緩やかに立ち直る蓋然性が高い】
 以上の分析を踏まえて16年度の4〜6月期以降を展望すると、15年度に減少した家計消費と設備投資は緩やかに立ち直る可能性があり、また14、15年度と減少した公共投資も、少なくとも16年度上期中は増加する可能性がある。また、15年度下期にやや勢いを失った住宅投資は、マイナス金利政策の影響もあって、16年度は4〜6月から緩やかな増勢に戻る可能性がある。
 他方、外需(純輸出)は、14、15年度中の改善傾向が少なくとも16年度上期中は続くのではないだろうか。
 従って、15年度中に一高一低の横這い傾向を続けた実質GDPは、16年度の初めから緩やかな回復の趨勢を辿る蓋然性が少なくないように思われる。