2016年4月版
円安・株高の反転もあって日本経済は引き続き冴えない動き

【鉱工業生産は一高一低のうちに弱基調】
 昨年10〜12月期の成長率が−1.1%(年率)に落ち込む中、昨年まで唯一アベノミクスの成果が鮮明に出ていたのは円安・株高であったが(ピークは1ドル=125円、日経株価2万円台)、これも本年に入って反転し、現在まで、円相場は1ドル=107円台〜112円台、日経平均株価は1万5千円台〜1万7千円台で推移している。この円高・株安と景気の足踏みが、互いに因となり果となって、日本経済は冴えない動きを続けている。3月調査「日銀短観」の「業況判断」DI(全規模・全産業)は「現状」、「先行き」共にジリジリと悪化している。
 2月の鉱工業生産と出荷は、前月比夫々−6.2%、−4.6%とやや大きく減少した(図表1)。製造工業生産予測調査によると、3月は+3.9%、4月は+5.3%と連続して上昇する予測となっているが、仮にこの通りになったとしても、1〜3月期は前期比−0.7%の減少となる。

【鉱工業出荷も機械関連を中心に一高一低】
 2月に大きく減少したあと、3月と4月に連続して上昇する予測となっている業種は、輸送機械、汎用・生産用・業務用機械、電子部品デバイスなどである。このうち輸送機械は、一部の自動車部品工業の操業停止と復旧というアクシデントが響いているようだ。
 2月の出荷を国内向け出荷と輸出に分けると、国内向けは前月比−3.0%、輸出は同−5.6%と共に減少した。この国内向け出荷に輸入を加えた国内向け総供給は、同−3.1%の減少であった。財別に見ると、資本財(除、輸送機械)と耐久消費財の減少が大きく、前述した2月の生産減少の業種別動向と平仄が合っている。
 従って、出荷も3月と4月には、生産の予測指数同様の回復を示す可能性が高い。このところ鉱工業生産と出荷は一高一低を繰り返しており、基調が読みづらいが、ならしてみれば、弱基調といえよう(図表1)。

【2月の実質家計消費は6か月振りに前年を上回る】
 国内需要の動向を見ると、まず2月の実質家計消費(2人以上の所帯)は、季調済み前月比で+1.7%と増加し、前年比も+1.2%と6か月振りに前年水準を上回った(図表2)。消費性向が前月および前年同月に比して高まったためで、収入面が改善した訳ではない。なお、実質家計消費の1〜2月平均は10〜12月平均比+0.1%とほぼ横這いで、1〜3月期が前期比増加するかどうかは、3月の動向に懸っている。
 2月の現金給与総額は、前年比+0.9%の増加となり、実質ベースの前年比でもCPI(持ち家の帰属家賃を除く総合)の上昇が前年比+0.4%にとどまったため、4か月振りに上昇した。
 2月の雇用は、「労調」の就業者数、雇用者数、「毎勤」の常用雇用者数は、季調済み前月比でいずれも減少または横這いとなった(夫々−0.9%、−0.2%、0.0%)。他方、完全失業者数(季調済み)は、前月比+1.9%の増加となり、完全失業率(同)は3.3%と前月比0.1%ポイント上昇した(図表2)。
 2月の有効求人倍率は1.28倍と前月比横這い、新規求人倍率は1.92倍と前月比0.15悪化した。このところの景気足踏みが労働需給に響いてきたのかどうかは、この2月の動きだけでは、まだ判定できない。

【設備投資は引き続き緩やかな増加基調】
 次に投資動向を見ると、足許の機械に対する投資動向を示す資本財(除く、輸送機械)の国内向け総出荷(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)は、2月に前月比−6.8%の減少となった(図表2)。しかし、これは前述した鉱工業生産、出荷の機械関係業種を中心とする乱高下(2月急減、3〜4月急増)を反映したもので、3月の計数を見なければ1〜3月期の判定は出来ない。
 先行指標の機械受注(民需、除く船舶・電力)を見ると、確かに昨年7〜9月期は前期比−6.5%と1四半期だけ大きく低下しているので(図表2)、それが本年1〜3月期の機械の出荷に響いているのかも知れない。しかし、昨年7〜9月期の前後はすべて前期比で増加しており、10〜12月期に前期比+2.6%増となったあと、本年1〜2月平均の10〜12月平均比は+6.6%、1〜3月の見通しは前期比+6.4%と増加基調にある。従って、1〜3月期の資本財(除、輸送機械)の国内総供給がやや弱くても、GDPベースで続いている設備投資の緩やかな増加基調に異変が出ていると見るのは早計であろう。

 【住宅投資は底打ち、公共投資は減少持続】
 住宅投資は、昨年1〜3月期から7〜9月期まで増加したあと、10〜12月期は4四半期振りに減少したが、新設住宅着工件数は昨年10〜12月期に868千戸(年率)でボトムを打ち、1〜2月平均は10〜12月平均比+6.4%と増加している(図表2)。マイナス金利政策に伴う住宅ローン金利の低下もあって、住宅投資は再び緩やかな回復基調に入る可能性があると見られる。
 公共投資は、公共機関からの建設工事受注額が、2月も前年比−2.8%と13か月連続して前年水準を下回っているので、1〜3月期も3四半期連続の前期比減少となる公算が高い。

【経常収支の黒字拡大続く】
 最後に外需の動向を見ると、2月の貿易・サービス収支は3081億円の黒字と2か月連続の黒字となり、経常収支は1.7兆円の黒字(前月比+16.2%)となった。1〜2月平均の経常収支黒字は、10〜12月平均比+1.0%増となった。他方、円ベースで見て、2月も輸出物価は前月比−2.1%、輸入物価は同−3.1%と交易条件が好転しているので、実質ベースで見た経常収支の黒字は、金額ベース以上に拡大していると見られる。

【1〜3月期はゼロ成長近傍の動き】
 以上を総括すると、1〜3月期はGDPの7割を占める家計消費と設備投資が、3月の計数次第で増えるか減るか分からないので、外需は引き続き成長に寄与すると見られるものの、プラス成長かマイナス成長か、現段階では判定し難い。どちらにしても、ゼロ近傍の冴えない動きであろう。
 4月以降、本年度予算の前倒し執行が行われ、更に明年4月の消費増税延期が決められることになると、景気の失速は免れると思われるが、年率1%以下の緩やかな成長にとどまる可能性が高い。