2016年2月版
アベノミクスの円安・株高効果は剥落、10〜12月期は家計消費の不冴えからマイナス成長

【マイナス金利政策の狙いとは逆に円高・株安が進む】
 年明け後の円高・株安の勢いが、2月に入っても止まらない。昨年後半には1ドル=120円〜125円で推移していた円相場が、年明け後円高トレンドに転じ、2月に入って一時110円台(瞬間的には109円台)となった。昨年2万円の大台に乗った日経平均株価も、円安の進行と共に今年に入って急落し、先週末(2/12)には1万5千円を割り込んだ。5000円(25%)の大幅下落だ。2月第3週に入って大幅に反発したが、それでも円は113円台、株価が1万6千円ギリギリだ。
 1月29日(金)に打ち出された「マイナス金利」政策は、今のところまったく円高株安効果を発揮せず、円と株は政策の狙いとは逆方向に動いている。
 円高転換の背景は、4つ考えられる。
@アベノミクスの3年間の実質実効為替相場が3割も円安となり、2015年に入って日本の経常収支の黒字が拡大傾向を辿っていること、
A国際原油市況の下落に伴う産油国の経済情勢悪化、中国の成長減速などから、世界の投資家のリスク・オフの態度が強まり、安全資産の「円」に資金が流入していること、
B米国の利上げテンポのスローダウンに伴い、日米金利差拡大の予想が修正されていること、
C市場では、マイナス金利政策の導入が「量的・質的金融緩和政策」の限界を示すと受け取られていること、
などである。

【アベノミクスの下14年〜15年の経済成長は横這い圏内の動き】
 本日(2/15)、15年10〜12月期のGDP統計が公表され、前期比−0.4%(年率−1.4%)と2四半期振りのマイナス成長となった。昨年(2015年)は、4〜6月期(−0.3%)、10〜12月期(−0.4%)とマイナス成長となったため、暦年の成長率は僅か+0.4%にとどまった。アベノミクスの下で、13年は12年の+1.7%よりも低いものの、+1.4%とプラス成長を記録したが、14年は−0.0%、15年は+0.4%と、ほとんど横這い圏内の動きにとどまっている。
 主因は、家計消費が−0.8%(14年)、−1.3%(15年)と減少しているためである。ほかに住宅投資が−5.3%(14年)、−2.6%(15年)と続落していること、公共投資も14年に+0.4%で頭を打ったあと、15年には−2.2%と減少したこと、も響いている。
 外需も、円安にも拘らず、世界経済の拡大テンポが鈍いこともあって、成長寄与度は13年が−0.3%、14年が−0.0%、15年は+0.4%にとどまっている。
 円安・株高の巻き戻しといい、経済成長の鈍化といい、アベノミクスの効果は完全に息切れの状態にあるように見える。今後は、2月16日から始まるマイナス金利政策が、どの程度の効果を発揮出来るのかが、注目点になる。

【鉱工業生産、出荷は再び一進一退の動き】
 12月の鉱工業生産と出荷は、製造工業生産予測調査の前月比+0.9%とは逆に、それぞれ同−1.4%、同−1.7%の減少となった(図表1)。しかし、四半期ベースで見ると、10〜12月期の前期比は、生産が+0.6%、出荷が+0.5%とそれぞれ3四半期振りの増加となり、更に1月の製造工業生産予測調査は前月比+7.6%の急増となっている。部品生産ラインの事故で12月に減少したのは汎用・生産用・業務用機械と輸送用機械が、1月に大きく回復するためである。鉱工業生産と出荷は、一進一退のうちに、緩やかな上昇傾向に入ってくるかどうかが注目される(図表1)。
 12月の出荷を国内向けと出荷に分けると、国内向けは前月比−1.5%、輸出は同−0.9%と共に減少しているが、10〜12月期をくくって見ると、国内向けは前期比+1.5%の増加に対し、輸出は同−1.4%の減少となった。
 この国内向け出荷に輸入を加えた鉱工業製品の国内向け総供給は、輸入も前月比−4.4%と大きく減少したため、全体で同−2.3%の減少となった。もっとも、10〜12月期をならしてみると、国内向けの増加により、全体も前期比+0.8%と3四半期振りに増加した。

【家計消費は暖冬の影響から低調】
 国内需要を見ると、12月の「家計調査」の実質消費支出(2人以上の世帯)は、前月比+1.0%と4か月振りに増加したが、9〜11月の落ち込みが大きいため、10〜12月期としては、前期比−1.9%の減少となった(図表1)。10〜12月期GDP統計の実質家計消費も前期比−0.9%(成長に対する寄与度‐0.5%)となり(図表3)、これが主因となって始めに述べたように実質GDPは前期比−0.4%のマイナス成長となった。
 暖冬に伴う冬物商品の売れ行きの遅れを反映するように、10〜12月期の家計の消費性向は前年を下回り続けている。

【賃金は頭打ち、雇用はジリジリ改善】
 12月の「毎勤」の実質賃金は前月比−0.1%と2か月連続して微減し、10〜12月期も前期比−0.1%の微減となった(図表2)。前年比を見ると、定例給与は前年を上回っているが、賞与が前年水準を下回っている。
 他方12月の雇用は、「労調」の就業者、雇用者、「毎勤」の常用雇用者がいずれも前月比の増勢を持続している(図表2)。このため10〜12月期のGDP統計における雇用者報酬は、前期に比し、各目で+0.4%、実質で+0.2%増加している。10〜12月期の家計消費の不振は、天候の影響など一時的要因による面が大きいと見られる。
 10〜12月の完全失業率は3.2%と引き続きジリジリ低下しており(図表2)、求人倍率も上昇傾向を続けている。

【設備投資は微増、住宅投資と公共投資は下落】
 12月の資本財(除輸送機械)の国内向け総出荷(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)は、前月比−3.9%とやや大きく減少したため、10〜12月期も前期比−0.2%の小幅下落となった(図表2)。しかし、10〜12月期のGDP統計では、実質設備投資は前期比+1.4%の増加となった。
 10〜12月期GDP統計の実質住宅投資は、新設住宅着工統計が4〜6月期をピークにやや減少していることを反映し(図表2)、前期比−1.2%と4四半期振りに減少した。
 また実質公共投資も、公共建設工事受注額が10〜12月期まで4四半期続けて前年を下回っていることを反映し(図表2)、GDP統計でも前期比−2.7%と2四半期連続して減少した(図表3)。

【経常収支の黒字は徐々に拡大】
 12月の経常収支の黒字(季節調整済み)は、前月比+14.9%拡大し、10〜12月期も前期比+24.7%の拡大となった。
 これは、輸入がエネルギー関係を中心に数量ベースでも金額ベースでも増えていない反面、輸出が数量ベースでジリジリ増加していること、第1次所得収支が着実に拡大していること、などによるものである。
 10〜12月期の実質GDP統計の「純輸出」は、成長に対し、+0.1%のプラス寄与度となった。