2016年1月版
家計消費が弱く10〜12月期はゼロ成長近傍か

【2016年は波乱の幕開け】
 年が明けて2週間、円高と大幅な株安が続いており、2016年は波乱の幕開けとなった。
 中国経済の減速や国際原油市況の下落に底打ちの気配がなく、中東ではイラン(シーア派)とサウジアラビア(スンニ派)の両雄対決が決定的となり、北朝鮮が核実験を行うなど、世界的に経済的、地政学的リスクが高まっている。これに伴い、日本を含む世界の株価が大幅に下落している。円は、リスクが高まる中の安全資産として資金が流入しているほか、円安水準の実質実効相場の下で経常収支の黒字拡大が続いているという実体経済面の理由もあって、円高方向に振れており、これがまた株安を増幅している。
 このような動きが続くと、企業の先行き感が慎重になり、設備投資と賃上げに悪影響が出て、本年の経済が下振れするのではないかと懸念される。

【11月の鉱工業生産と出荷は前月比減少】
 11月の鉱工業生産と出荷は、前月比それぞれ−0.1%、−2.5%といずれも3か月振りの減少となった(図表1)。もっとも、10〜11月の出荷の平均は、資本財(除、輸送機械)と耐久消費財を中心に、7〜9月平均比+1.4%の水準にあり、緩やかな回復基調は保たれている。
 製造工業生産予測調査によれば、12月は前月比+0.9%増、1月は同+6.0%増と回復が続く予測となっている(図表1)。業種別には、11月に低下した汎用・生産用・業務用機械が、12月と1月に大きく上昇する。
 11月の鉱工業出荷の減少を国内向けと輸出に分けて見ると、国内向けは前月比−2.9%、輸出は同−2.6%といずれも減少している。財別に見ると、前月比で増加したのは、資本財(除、輸送機械)の国内向け(同+0.8%)と、耐久消費財の国内向け(同+2.8%)である。

【10〜11月の鉱工業製品の国内向け総出荷の平均は、資本財を中心に7〜9月平均を上回る】
 この国内向け出荷に輸入を加えた鉱工業製品の国内向け総供給は、輸入が前月比+4.6%の増加となったため、全体では同−0.7%の減少にとどまった。このため、10〜11月平均の7〜9月平均比は+1.6%の水準にある。
 財別にみると、資本財(除、輸送機械)は、国産品の国内向け出荷(同+0.8%)と輸入(同+9.7%)が共に増加し、国内向け総供給は同+1.9%と足許の設備投資関連財の順調な動きを示している(図表2)。

【家計消費は気候の影響などもあってやや弱い】
 11月の国内需要の動向は、家計消費が弱く、設備投資が順調であった。
 11月の「家計調査」の実質消費支出(2人以上の世帯)は、前月比−2.2%、前年比−2.9%の減少となった(図表2)。11月の販売統計でも、小売業は季調済み前月比−2.5%、前年比−1.0%と振るわなかった。11月は比較的気温が高く、冬物衣料の出足が鈍かったこと、自動車新型車の発売直前であったこと、ガソリンなど燃料価格の値下がりが続いていたこと、などが響いたと見られる。家計(勤労者世帯)の消費性向は、前年を1.4%ポイント下回っている。
 11月の名目賃金は前年比同水準となり、実質では前年比−0.4%と5か月振りに前年を下回った(図表2)。他方雇用は、「労調」の就業者と雇用者、「毎勤」の常用雇用者は、季調済み前月比でそれぞれ−0.6%、−0.7%、0.0%とやや減少した。前月3.1%に急低下した完全失業率は、11月に3.3%に戻った(図表2)。

【設備投資は確かり、住宅投資は頭打ち、公共投資は減少】
 設備投資は、足許の動きを示す資本財(除、輸送機械)の国内総供給が、上述の通り前月比+1.9%となり、10〜11月平均の7〜9月平均比は+0.9%となった(図表2)。先行指標の機械受注(民需、除く船舶・電力)は、9月、10月と大幅に上昇した反動もあって11月は前月比−14.4%と低下したが、10〜11月平均は7〜9月平均比+5.7%の水準にある(図表2)。設備投資の緩やかな増加基調は続いている。
 11月の新設住宅着工戸数は、年率886千戸、前月比+2.8%と高水準を続けており(図表2)、3四半期連続して増加してきた住宅投資は高水準を保っていると見られる。
 他方公共投資は、公共機関からの建設工事受注額が11月まで10か月連続で前年水準を下回っていることから見て(図表2)、頭打ちから減少傾向に転じていると見られる。

【11月の季調済み貿易収支は8か月振りの黒字】
 11月の貿易収支は、先述の鉱工業製品の輸出入動向に見られるように、数量ベースでは輸入が増加し、輸出が減少したが、原油等エネルギー関係の輸入価格が引き続き下落しているため、金額ベース(季調済み)では8か月振りの黒字(1032億円)となった。このため11月の経常収支(季調済み)は2か月連続して1.4兆円台の黒字となり、10〜11月の黒字平均は7〜9月黒字平均に比して+20.0%の大幅拡大となった。

【10〜12月期はゼロ成長近傍か】
 以上の10〜11月の経済動向から判断すると、10〜12月期の実質GDPは、6割近い家計消費が弱く、純輸出も数量ベースでは必ずしも強くないので、設備投資が確りしているものの、12月の計数次第ではゼロ成長近傍の弱い数字が出てくる可能性もある。