2015年12月版
日本経済は足踏みを脱し、家計消費、設備投資、純輸出に支えられ緩やかな成長軌道に復帰

【在庫調整の進捗から10〜12月期の鉱工業生産、出荷は3四半期振りのプラスに】
 在庫調整の進捗から鉱工業生産と出荷は9月、10月と2か月連続で回復した。7〜9月期の実質GDP(2次速報値)は、家計消費、設備投資、純輸出の立ち直りから、在庫投資の減少にも拘らず、4〜6月期の前期比−0.1%(年率−0.5%)のマイナス成長から、同+0.3%(同+1.1%)のプラス成長に戻った。日本経済は足踏みを脱し、緩やかながら立ち直ってきた。
 まず10月の鉱工業生産から見ていくと、前月比+1.4%と前月(同+1.1%)に続いて回復し、11月の製造業生産予測調査も同+0.2%と3か月連続で回復を続ける予測となっている(図表1)。鉱工業生産が仮に製造業生産予測調査通りになると仮定すると、10〜12月は前期比+1.6%と3四半期振りの上昇となる(図表1)。
 10月の鉱工業出荷も、前月比+2.1%と、生産同様、2か月連続の回復となった。

【10月は国産品の国内向け出荷と輸出が増加、輸入は減少】
 10月の出荷を国内向けと輸出に分けると、前月比で国内向けが+2.9%、輸出が+1.8%と国内向けの伸びの方が高い。国内向けは8月から3か月連続の増加である。
 この国内向け出荷に輸入を加えた国内向け総供給を見ると、10月は輸入が−4.0%と減少したため、全体で+1.3%の増加にとどまった。品目別に見ると、輸入の落ち込みが大きいのは原油、LNG、石油製品などのエネルギー関係である。他方、非耐久消費財は国産品のみならず輸入も大きく伸びている。

【9月と10月の実質家計消費は不振であったが、消費の基調は賃金・雇用の増加に支えられ底固い】
 需要動向を見ると、10月の「家計調査」の実質消費支出(2人以上の世帯)は前年同期比で−2.4%、季調済み前月比で−0.7%(図表2)と共に9月に続き2か月連続して減少した(図表2)。実収入と可処分所得(いずれも勤労者世帯)の実質値も、前年比で2か月連続して減少したうえ、平均消費性向も低下した。
 「毎勤」の実質賃金は、10月に前年比+0.4%と4か月連続して増加した(図表2)。10月の雇用者数の前年比と季調済み前月比も、「労調」の雇用者が+1.3%と+0.2%、「毎勤」の常用雇用者が+2.2%と+0.2%とジリジリ増加している(図表2)。10月の完全失業率は3.1%と前月比0.4%ポイント低下した(図表2)。
 12月調査「日銀短観」(12/14公表)では、「雇用人員判断」DIの「不足」超幅が、全規模全産業ベースで、−19%ポイントと前回9月調査の−16%ポイントから拡大しており、先行きは更に拡大する見通しである。
 このような雇用情勢と前述の賃金動向を反映して、GDPベースの雇用者報酬は着実に増加すると見られ(7〜9月期は前期比+0.7%)、家計消費(7〜9月期は同+0.4%)の基調は底固く推移しよう。

【設備投資は更新投資と人手不足対策投資を中心に比較的高い伸び】
 投資動向を見ると、7〜9月期の実質設備投資(2次速報値)は、法人企業統計の設備投資を反映し、前期比+0.6%の増加となった。足許の機械投資を示す10月の資本財(除輸送機械)の国内向け総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)は、前月比+1.4%と3か月振りに増加した(図表2)。
 先行指標の機械受注(民需、除船舶・電力)は、10月に前月比+10.7%と9月(同+7.5%)に続き2か月連続で増加した(図表2)。この結果10月の7〜9月平均比は+13.9%となり、7〜9月期の減少(前期比−10.0%)を取り戻す勢いを示している。
 12月調査「日銀短観」の本年度設備投資計画(ソフトウェアを含み土地を除く)は、製造業・非製造業・金融業の総計で前年比+8.6%と前年度の伸び(同+4.3%)を大きく上回る高い伸びを示している。前回9月調査に比べると、大企業製造業と金融業が若干下方修正したが、その他の規模と業種は上方修正し、総計では+0.2%ポイントの上方修正となっている。
 「日銀短観」の本年度の売上高計画(全規模全産業)は、前回調査比−0.8%ポイント下方修正されて、前年比−0.5%の減少となったが、「生産・営業用設備判断」DI(同)は、前回、今回、先行き共に―1%ポイントの「不足」超となっている。これらから判断すると、本年度の設備投資は製造業の更新投資と非製造業の省力化(人手不足対策)投資が中心と見られる。

【住宅投資は高水準、公共投資は頭打ち傾向を強める】
 民間住宅投資は、7〜9月期も前期比+2.0%と3四半期連続で増加した。新設住宅着工戸数は、高水準ながら6月をピークに頭打ちになっている(図表2)。このため、住宅投資はぼつぼつ横這いとなる可能性がある。
 公共投資は、7〜9月期に前期比−1.5%の減少となり、このところ頭打ち傾向を強めている。10月の建設工事受注額は前年比−4.5%と9か月連続で前年を下回っている(図表2)。予算規模の縮小に加え、人手不足に伴う工事の遅れによるものと見られる。

【経常収支は緩やかに好転】
 10月の経常収支(季節調整済み)は、1兆4937億円の黒字となり、7〜9月の平均黒字を+21.5%上回った。これは、貿易・サービス収支(同)の赤字が1732億円と7〜9月の平均赤字を−32.7%下回ったうえ、第1次所得収支(同)が1兆8303億円の受取超過と7〜9月平均の受取超を7.6%を上回ったためである。
 中国経済の減速をはじめとする世界経済の成長鈍化から、日本の輸出は横這いの圏内の動きにとどまっているが、輸入が原油、LNG、石油製品を中心に落ち込んでいるため、貿易・サービス収支に改善傾向が見られる。また第1次所得収支は、日本企業の海外進出を反映して、緩やかな増加傾向にある。

【10〜12月期もプラス成長となり、15暦年の成長率は1%程度】
 以上を踏まえて10〜12月期を展望すると、家計消費、設備投資、純輸出に支えられて、緩やかなプラス成長を維持する公算が高い。
 12月調査「日銀短観」の「業況判断」DIを見ると、12月現在、各規模製造業と大企業非製造業は「良い」超が横這い、中堅・中小企業非製造業は「良い」超がやや増加となっており、総じて10〜12月期は7〜9月期に比して小幅な好転にとどまっていることを窺わせる。
 7〜9月期の実質GDPの前年同期比は+1.6%に達しているので、10〜12月期は2%台に達するとみられるが、消費増税の影響で1〜3月期まで前年同期比はマイナスであったため、15暦年は前年比+1%程度の成長率とまるのではないか。因みに本年1〜3月期から7〜9月期までの合計は、前年同期比+0.4%である。