2015年11月版
7〜9月期に在庫調整が進捗したため10〜12月期は再び小幅のプラス成長へ

【在庫投資の大幅減少から7〜9月期は2四半期連続のマイナス成長】
 7〜9月期の鉱工業生産と出荷の前期比は、予想通り、4〜6月期に続き2四半期連続のマイナスとなり、本日(11月16日)公表された7〜9月期の実質GDPも、前期比−0.2%(年率−0.8%)と2四半期連続のマイナス成長となった。しかしこれは、在庫調整の進捗に伴い、在庫投資の成長寄与度が前期比−0.5%となったためで、在庫投資を除くと4〜6月期の前期比−0.5%のあと、7〜9月期は同+0.3%と好転した。
 生産年齢人口の減少やリーマン・ショック以来の設備投資の停滞から、潜在成長率は年率+0.5%程度と低くなっているため、2四半期連続のマイナス成長の下でも低失業率と高求人倍率が続くなど、需給ギャップは緩和せず、生鮮食品とエネルギーを除く全国消費者物価(コアコアCPI)の前年比は、8月の+1.1%に続き、9月も+1.2%と、完全にデフレを脱している。
 日本経済は、低い成長率の下での物価上昇というスタグフレーション的体質を強めているようだ。

【機械工業中心の在庫調整一巡から9月以降鉱工業生産・出荷は回復へ】
 9月の鉱工業生産の前月比は、製造業生産予測調査の+0.1%を上回る+1.0%の増加となったが(図表1)、7月と8月が2か月連続して減少したため、7〜9月期の前期比は−1.3%と2四半期連続の減少となった。
 しかし、7〜8月の減産で機械工業を中心とする在庫調整が峠を越え、10月の製造工業生産予測調査は、機械工業を中心に前月比+4.1%の大幅増加となったあと、11月は同−0.3%減と高水準を続け、10〜11月製造工業生産予測平均の7〜9月鉱工業生産実績比は+4.2%の著増となっている。
 9月の鉱工業出荷は前月比+1.3%の増加となり、生産同様、2四半期連続の停滞を抜け出す気配を示している(図表1)。
 この出荷を国内向けと輸出に分けると、いずれも同じ率で増加している。
国産品の国内向け出荷に輸入を加えた国内向け総供給は、輸入も増加したため、実に5か月振りの増加となった。

【エネルギー価格の低迷から実質所得、実質消費は増加】
 9月の「家計調査」の実質消費支出(2人以上の世帯)は、前月比−1.3%の減少となったが、7〜8月が増加したため、7〜9月期の前期比は+0.6%増と前期の同−3.2%から再びプラスに戻った(図表2)。7〜9月期のGDP統計の実質家計消費も、前期比+0.5%の増加となり、前期の同−0.6%からプラスに戻った。
 これは、エネルギー価格の下落から、9月の全国消費者物価(持ち家の帰属家賃を除く)が前年比+0.1%の上昇にとどまり、7〜9月の実質賃金の前年比が+0.4%と、実に9四半期振りのプラスとなったことが響いている(図表2)。同様の傾向は7〜9月の「家計調査」の実質可処分所得にも現れている。
 この間9月の雇用は、「労調」の就業者、雇用者、「毎勤」の常用雇用者数の前年比と季調済み前月比が、それぞれ、+0.6%と+0.4%、+0.9%と+0.5%、+2.0%と+0.1%といずれも改善基調を続けている。

【設備投資は2四半期連続の減少】
 投資動向を見ると、足許の設備投資を示す資本財(除輸送機械)の国内向け総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)は、9月も前月比−0.7%減と2か月連続して減少し、7〜9月期の前期比は−0.8%減と3四半期連続して低下した(図表2)。7〜9月期のGDP統計でも、実質設備投資は前期比−1.3%と前期比(同−1.2%)に続き、2四半期連続で減少した。
 先行指標の機械受注(民需、除く船舶・電力)は、9月に前月比+7.5%と増加したが、7月、8月の落ち込みが大きかったため、7〜9月期の前期比は5四半期振りの減少となった(図表2)。「日銀短観」などの設備投資計画調査から見て、本年度の設備投資が減少するとは見られないので、7〜9月期の機械受注の落ち込みは一時的な動きと見られるが、中国経済減速の影響などから、このところ設備投資に勢いが見られない。

【住宅投資は増勢持続、公共投資は頭打ち】
 新設住宅着工戸数は、4〜6月期に年率952千戸と高水準に達したあと、7〜9月期も同915千戸と高水準を続けている(図表2)。これを反映して、7〜9月期GDP統計の実質住宅投資は前期比+1.9%と3四半期連続の増加となった。
 公共建設工事受注高は、7〜9月期も前年比−7.5%と4四半期連続して前年水準を下回った(図表2)。7〜9月期のGDP統計でも、実質公共投資は前期比−0.5%となり、この1年間、一高一低のうちに頭打ちを続けている。

【7〜9月期の実質純輸出は3四半期振りに小幅プラス】
 7〜9月期の経常収支(季節調整済み)は、3兆6851億円の黒字と、前期比−12.5%の黒字縮小となった。これは、貿易・サービス収支(同)の赤字が7716億円と前期比+11.3%の拡大となったほか、第1次所得収支(同)も5兆1030億円の黒字と前期比−4.7%縮小したためである。
 しかし、7〜9月期のGDP統計では、財貨・サービスの実質輸出が前期比+2.6%の増加となり、実質輸入の同+1.7%の増加を上回ったため、実質純輸出の成長寄与度は+0.1%と3四半期振りの増加となった。

【在庫調整一巡から10〜12月期は家計消費の堅調を中心に若干のプラス成長へ】
 機械工業を中心とした在庫調整が一巡したと見られるため、10〜12月期は在庫投資の減少に大きく足を引っ張られることがなくなると思われる。他方、エネルギー価格の低迷を主因に、消費者物価の上昇は引き続き小幅にとどまると見られる。このため、7〜9月期にプラスに転じた実質賃金は10〜12月期も増加し、強含みの雇用とあいまって、実質家計消費は10〜12月期も底固く推移しよう。中国経済減速の影響もあって設備投資は勢いを欠いているが、各種の投資計画調査から見て、このまま減少していくとは考えにくい。
 従って、日本経済は2四半期連続マイナス成長のあと、10〜12月期には小幅のプラス成長に戻るのではないだろうか。