2015年7月版
家計消費、設備投資、純輸出に支えられた緩やかな成長が続く
【鉱工業製品の生産、出荷は弱含み横這い】
鉱工業製品の生産や国内向け総供給は、弱含み横這いとなっているが、最終需要では消費増税の影響がなくなった実質消費の前年比や設備投資の先行指標に立ち直りの気配がある。
5月の鉱工業生産は前月比で2.2%の減少となり、6月と7月の製造業生産予測調査は、それぞれ+1.5%増、+0.6%となった(図表1)。6月の鉱工業生産の実績がこの予測通りになったと仮定すると、4〜6月期は前期比−1.4%と3四半期振りの減少となる。このところ鉱工業生産は弱含み横這いとなっている。
5月の鉱工業出荷も、前月比−1.9%の減少となったが、これは国内向け出荷が前月比−0.7%の減少、輸出が同−6.0%の減少となったためである。
この国内向け出荷に輸入を加えた鉱工業製品の国内向け総供給は、輸入が前月比−2.1%の減少となったが、全体は同−0.7%の減少であった。4〜5月の国内向け総供給の平均は、1〜3月期平均比−1.8%の減少となる。鉱工業製品に限ってみれば、新年度入り後の生産や国内向け総供給は振るわない。
【5月の可処分所得、実質消費はやや回復】
需要動向を見ると、5月の全国消費者物価(生鮮食品を除く)が、前月比+0.2%の上昇、前年同月比+0.1%の上昇と比較的落ち着いた動きをしていることもあって、実質消費支出(2人以上の世帯)は前月比+2.4%(図表2)、前年同月比+4.8%とやや大きく増加した。
これには、5月の可処分所得(勤労者世帯)が、前年同月比、名目で+2.2%、実質で+1.5%それぞれ増加したことが、背景にある。
小売業販売額も、消費増税前の駆け込み需要の反動減があった前年に比べ、4月は+4.9%、5月は+3.0%と増加した。
【人手不足傾向がジリジリ進んでいる】
雇用・賃金の動向を見ると、5月の雇用は「労調」の就業者と雇用者の季調済み前月比いずれも+3.0%の増加、「毎勤」の常用雇用が同+0.2%の増加となった。
6月調査「日銀短観」でも、大・中堅・中小の各規模企業の製造業・非製造業において、「雇用人員判断」DIはいずれも「不足」超となっており、先行き不足傾向は強まる傾向にある。
5月の現金給与総額は、賞与(前年比+19.3%)を中心に、前年比+0.6%となったが、実質ベースでは同−0.1%と微減した。しかし減少幅は月を追って着実に縮小している(図表2)。
【設備投資は足許が弱く、先行指標が強い】
次に投資動向を見ると、足許の機械に対する需要を示す資本財国内総供給(除、輸送機械)は、4月(前月比+1.8%)、5月(同+1.2%)と増加したが、4〜5月平均の1〜3月平均比は−1.3%と低い(図表2)。
設備投資の先行指標を見ると、機械受注(民需、除船舶・電力)は3〜5月の前月比が3か月連続して増加し(図表2)、4〜5月平均の1〜3月平均比は+5.6%となっている。4〜6月期が前期比増加となると、4四半期連続して増加することとなる(図表2)。民間からの建設工事受注も、昨年10月から本年5月まで、連続して前年水準を上回っている。
6月調査「日銀短観」では、本年度の製造業・非製造業・金融業の設備投資計画(ソフトウェアを含み土地投資を除く)は、前年比+6.0%増と前年度(同+4.3%増)を上回る伸びとなっている。
設備投資は、今後、次第に延びを高めてくる可能性が高い。
【住宅投資は底入れ、公共投資は息切れ】
住宅投資は3四半期連続して減少したあと、本年1〜3月期は前期比+1.7%(実質)と底入れしたが、新設住宅着工戸数(季調済み)の4〜5月平均が1〜3月比+1.8%と3四半期連続の増加傾向を示している(図表2)ことから判断して、今後、緩やかな回復歩調を辿ると見られる。
他方、公共投資は本年1〜3月期に4四半期振りの減少となったが、公共建設工事の受注が5月も前年比−27.9%減と4か月連続して前年を下回っていることや(図表2)、公共投資予算の抑制傾向から見て、今後は減少傾向を辿ると見られる。
【経常収支の改善傾向進む】
最後に外需の傾向を見ると、5月の経常収支(季調済み)は1兆6363億円の黒字と、前月比+28.4%、前年比3.9倍となった。4〜5月の黒字平均の1〜3月黒字平均比は、+12.9%の増加である。4〜6月期のGDP統計の「純輸出」は、再びプラスの成長寄与度となろう。
この改善傾向は、主として貿易収支の赤字が、原油、LNGの輸入減少を主因に縮小しているためである。輸出は金額ベースでは前年比増加しているが、数量ベースでは減少している。
【緩やかな回復の下で、人手不足が続き、消費者物価は上昇】
4〜6月期の実質成長率は、5月までの各種経済指標から判断すると、大きく成長を牽引する需要項目は見当たらないが、家計消費、設備投資、住宅投資、純輸出が成長に寄与し、年率+2%前後の緩やかな回復が続く蓋然性が高い。
これは、1〜3月期の年率+3.9%の成長に比べると低いが、(図業3)、1〜3月期は在庫投資増加の寄与度が+2.2%あり、これがなければ、+1.7%であることを考えると、基調は同じように緩やかな成長と見てよい。
それでも、0.5%程度の潜在成長率よりは高いので、GDPベースの需給ギャップは引停まり、人手不足傾向は次第に強まり、消費者物価の上昇は続くこととなろう。