2015年6月版
1〜3月期の3.9%成長は在庫投資で嵩上げ、今後は設備更新投資と家計消費の立ち直りに注目
【1〜3月の3.9%成長が景気上振れの気配かはまだわからない】
1〜3月期GDP統計の2次速報値では、実質成長率(年率)が、「法人企業統計」の設備投資が強かったことから、+3.9%と1次速報値の+2.4%から大幅に上方修正された。また5月のマネー・ストックの前年比は+4.0%と1〜4月の+3.4〜3.6%に比しやや高まった。4月の消費者物価は、消費増税の影響が剥落したことから前年比は総合で+0.6%、除く生鮮食品で+0.3%、除く持ち家の帰属家賃で+0.8%と上昇率が縮小したが、前月比では各指数とも、2か月連続で+0.3〜0.4%上昇している。
このような経済動向の上振れの気配が一般的な動きか、基調変化の兆しかは、もう数か月、指標の動きをトレースしなければ判定できない。
【4月の鉱工業生産、出荷は1〜3月平均を下回る水準】
4月の鉱工業生産は前月比+1.0%の増加となったが、1〜3月平均比では−0.6%の水準にとどまった。製造業生産予測調査によると、5月は前月比+0.5%上昇、6月は同−0.5%下落となっており、仮に鉱工業生産の実績がこの予測通りになったとすると、4〜6月期は前期比−0.4%と3四半期振りの減少となる(図表1)。
4月の鉱工業出荷は、前月比+0.4%の増加にとどまったが、これは国内向け出荷が同−1.0%と減少したためで、輸出は同+2.9%の増加であった。
この国内向け出荷に輸入を加えた国内向け総供給は、輸入が同+6.2%とやや大きく伸びたため、全体で同+0.7%の増加となった。しかし、4月の総供給の水準は、1〜3月平均を−1.5%下回っている。
財別に見ると、4月の総供給が1〜3月平均を上回っているのは、建設財(+2.1%)と非耐久消費材(+1.2%)だけである。
【家計消費の前年比は消費増税の影響が消えて表面的には好転】
需要動向を見ると、4月の実質家計消費は、消費増税の影響が消えたため、前年比は一斉にプラス、ないしは著しくマイナス幅が縮小した。「家計調査」の実質消費支出の前年比は、2人以上の世帯の合計が−1.3%(3月は−10.6%)、うち勤労者所得が+0.5%(同−11.0%)、小売業販売額は+4.9%(同−9.7%)であった。ただ、実勢に近いと思われる4月の2人以上世帯合計の実質消費支出が季調済み前月比で−5.5%と3か月振りにやや大きく減少した。家計消費の基調は、4月のみの動きからは判定できない。
【消費増税の影響が消え、4月の可処分所得や実質賃金の前年比がプラスに】
勤労者世帯の4月の可処分所得は、前年比+2.3%と実に12か月振りのプラスとなった。背景にある賃金、雇用の動向を見ると、4月の現金給与総額(名目)が「特別に支払われた給与」(賞与)の前年比+14.9%を中心に、前年比+0.9%の伸びとなり、実質賃金は+0.1%と実に22か月振りのプラスとなった。
4月の労働市場を見ると、季調済み前月比で見て、労働力人口が−0.5%減ったため(非労働力人口は+0.8%増加)、就業者と雇用者が−0.4%減ったたにも拘らず、完全失業者は−0.9%減り、完全失業率は3.3%と3か月連続して低下した。
【更新投資を中心に設備投資は立ち直りの気配】
投資動向を見ると、1〜3月期のGDP統計の実質設備投資は、「法人企業統計」の1〜3月期設備投資が、季調済み前期比で+5.8%と大きく伸びたため、1次速報値の前期比+0.4%から、2次速報値の同+2.7%へかなり上方修正された。
先行指標の季調済み機械受注(民需、除く船舶・電力)も、1〜3月期に前期比+6.3%と増加したあと、4月は前月比+3.8%、1〜3月平均比+5.3%と増勢を続けている。設備ストックのヴンテイジが長期化しているため、更新投資を中心に製造業の設備投資が伸び始めているようだ。
【住宅投資は底入れ、公共投資は頭打ちから減少へ】
住宅投資は、新設住宅着工戸数が昨年7月を底に回復に転じていたので(図表2)、底入れは時間の問題と見られていたが、本年1〜3月のGDP統計で、実質住宅投資が前期比+1.7%と4四半期振りの増加に転じた。4月の新設住宅着工戸数は、1〜3月平均比+1.9%の増加となっており(図表2)、回復傾向は続いている。
他方、公共投資は、公共建設工事受注額の前年比が昨年10〜12月期から前年を下回り始めていることから見て(図表2)、遠からず頭打ちになると見られていたが、1〜3月GDP統計の実質公共投資は、前期比−1.5%と4四半期振りに減少した。4月の公共建設工事受注額が前年比−39.2%と大きく落ち込んでいることから見て、公共投資は減勢に転じたと見られる。
【外需は金額ベースで好転、実質値では若干悪化】
最後に外需の動向を見ると、1〜3月GDP統計の実質「純輸出」は、成長に対して−0.2%のマイナス寄与度となった。季調済み名目値で見ると、1〜3月の貿易収支赤字は6.598億ドルと前期比−71.7%縮小し、経常収支黒字は3兆7328億円と同+40.1%拡大しているが、輸入価格が天然ガス、飼料などを中心に著しく値下がりしているため(1〜3月の円建輸入物価指数は前期比−9.2%)、1〜3月期の実質ベースの「純輸出」は、前期比−0.2%のマイナス寄与度になったと見られる。
実質ベースの鉱工業製品の輸出入を見ても、1〜3月期の前期比は輸出が+0.4%、輸入が+3.3%、4月の前月比も夫々+2.9%、+6.2%と輸入の伸びが輸出の伸びより高い。
【在庫投資で嵩上げされた1〜3月期の成長率】
以上を総括すると、1〜3月期の高い成長率は、もっぱら内需の回復によるもので、設備投資と家計消費の寄与度が+0.6%(寄与率60%)である。
しかし、これ迄触れてこなかったが、在庫投資増加の寄与度もそれだけで+0.6%に達している。在庫投資は振れが大きく、例えばこの1年間でも昨年4〜6月期の+1.3%から7〜9月期の−0.7%に振れている。4〜6月期には在庫投資が成長の足を大きく下に引っ張るかも知れない。
1〜3月期の成長率の実勢は、在庫投資の寄与度を除いた「+0.4%(年率1.6%)+α」程度と考えられる。
今後の動向を握るのは、設備投資、家計消費、そして輸出(実質)であろう。それぞれ、先行きには不確実性があり、予断を持たずに見ていかなければならない。その中で期待できるのは、製造業の設備更新投資と消費者物価安定下の実質賃金の上昇であろう。消費者物価上昇率の2%目標は実現せず、1%以下にとどまっていた方が景気にとっては良い。