2015年5月版
設備投資に勢いがなく、引き続き緩やかな回復
【1〜3月期の鉱工業生産は前期を上回る増勢】
国内景気は、引き続き緩やかな回復を続けている。5月20日(水)公表予定の1〜3月GDP統計では、純輸出の好転に支えられ、1〜3月期の実質成長率が、季調済み前期比年率で2%台に届いたのではないかと思われる。
3月の鉱工業生産は、前月比−0.3%と2か月連続して減少したが、1月に大きく増加した(同+4.1%)反動と見られ、1〜3月期としては前期比+1.7%と前期(同+0.8%)を上回る増加率となった(図表1)。
製造工業生産予測調査によると、4月は前月比+2.1%増、5月は同−0.3%減となり、4〜5月平均は1〜3月平均比+0.7%の増加となる。生産は緩やかながら、引き続き回復の軌道を歩んでいる(図表1)。
3月の鉱工業出荷も、生産と同様、前月比−0.3%と2か月連続して減少したが、1〜3月期としては前期比+1.8%と前期(同+0.9%)を上回る増勢となった(図表1)。
【1〜3月期の鉱工業製品の国内向け総供給は比較的高い伸び】
1〜3月期の出荷を国内向けと輸出に分けると、国内は前期比+1.9%の増加、輸出は同+0.4%の増加となる。1〜3月期の国内向け出荷で高い伸びを示したのは耐久消費財(同+6.0%増)、輸出で高い伸びを示したのは資本財(除、輸送機械)(同+2.8%増)と耐久消費財(同+4.4%増)である。
1〜3月期の国内向け出荷に輸入を加えた国内向け総供給は、輸入が前期比+3.3%と高い伸びとなったため、同+2.4%と前期の伸び(同+0.3%増)を大きく上回る増加となった。輸入で大きな伸びを示したのは、建設財(同+5.3%増)、非耐久消費財(同+7.0%増)、生産財(同+5.4%増)である。
【1〜3月期の実質家計消費は3四半期連続して増加】
3月の「家計調査」の実質消費支出(2人以上の世帯、季調済み)は、前月比+2.4%とやや大きく増加し、1〜3月期の前期比は+1.8%の増加となった(図表2)。他方、3月の小売業販売額の前年比は−9.7%、1〜3月は同−4.8%と、前年が消費増税前の駆け込み需要のピークに当たるため、大きく減少した。
3月の消費者物価(除、生鮮食品)は、前年比+2.2%と前月(同+2.0%)より上昇率が高まった(図表2)。これは主としてガソリンなどの石油製品が、国際的な石油市場の底入れ気配を反映してやや上昇したためである。
4月からは、消費税率引き上げの影響が消費者物価の前年比から消えるため、前年比で見た実質消費指標は高まってくると見られる。
【賃金、雇用の回復は引き続き緩やか】
3月の現金給与総額は、前年比+0.1%にとどまり、他方持ち家の帰属家賃を除く全国消費者物価は同+2.6%の上昇となったため、実質賃金は同−2.6%の下落となった。また1〜3月期の実質賃金は同−2.4%の下落となったが、下落幅は前年4〜6月期の−3.7%をピークに、期を追う毎に縮小している(図表2)。
3月の完全失業率は3.4%と前月比0.1%ポイント低下したが(図表2)、これは完全失業者が前月比−3.9%減少したことによるほか、労働市場から退出する人が増え、労働人口が前月比−0.3%減少したことによる。
3月の雇用は、「労調」の就業者、雇用者、「毎勤」の常用雇用者が前月比それぞれ−0.2%、+0.1%、−0.1%とほぼ横這い圏内の動きとなった。もっとも、1〜3月平均の10〜12月平均比を見ると、それぞれ+0.1%、+0.2%、+0.6%といずれも増加している。
以上の賃金・雇用情勢から判断すると、1〜3月期の雇用者報酬(実質)は、前期に比して多少は増加し、実質家計消費の伸びを支えたものと思われる。
【設備投資に勢いがない】
投資動向を見ると、足許の設備投資動向を反映する資本財(除輸送機械)の国内向け総供給は、3月に前月比−0.5%減となり、1〜3月期も前期比−0.3%減と前期に続いて僅かに減少した。3四半期連続して減少しているGDP統計の実質設備投資は、1〜3月期も微減するかも知れない。そうなると、平成26年度の設備投資が減少することとなり、日銀「短観」をはじめとする各種投資調査が、26年度計画の前年比増加を報じていることと平仄が合わない。
先行指標の機械受注(民需、除船舶・電力)は、1〜3月期に前期比+6.8%と3四半期連続して増加したので(図表2)、この動きとも平仄が合わない。
住宅投資は、新設住宅着工戸数が昨年7〜9月期をボトムに1〜3月期まで2四半期連続して増加していること(図表2)から判断すると、昨年4〜6月期以降3四半期連続して減少してきたGDP統計の実質住宅投資は、1〜3月期に底入れする可能性が高い。
公共投資は、公共建設工事の受注高が10〜12月期、1〜3月期と前年を下回っていること(図表2)から見て、ぼつぼつ頭打ちになると思われる。
【1〜3月期の経常収支は大幅好転】
1〜3月期の季調済み経常収支は、前期を+38.4%上回る3兆7千億円の黒字となった。主因は、原油や石油製品の輸入減少から貿易収支の赤字が前期を−71.7%下回ったためである。
日銀が推計している実質ベースの貿易収支は、10〜12月期に続き1〜3月期も好転している(図表2)。
GDP統計の実質純輸出は(図表3)、昨年4〜6月期から成長に対してプラス寄与に転じたが、1〜3月期も引き続きかなりプラス寄与となろう。
【1〜3月期は家計消費と純輸出に支えられた2%台成長か】
以上を総括すると、設備投資に勢いがなく、公共投資と住宅投資も横這い圏内の動きと見られるが、いずれも大きく成長の足を引っ張るような落ち込みはなさそうである。
他方、ウェイトの高い家計消費と純輸出が増加すると見られるため、在庫投資による上下両方向への振れは懸念されるものの、年率で2%台の成長率は期待できるのではないか。