2015年1月版
消費増税後2四半期続いたマイナス成長から10〜12月期はプラス成長に転換する見込み
【消費増税の影響を除く消費者物価上昇率は2か月連続で1%を割る】
消費増税前の駆け込み需要の反動から、4〜6月期、7〜9月期と2四半期連続で落ち込んだ経済活動は、10〜12月期に入り、なお前年水準を下回っているものの、前期比では緩やかに回復し始めた。
その中にあって、11月の全国消費者物価指数の総合と同(除生鮮食品)の前年比は、夫々2.4%、2.7%と10月に続き2か月連続で3%を割り込み、消費増税の影響(前年比2%)を除くと夫々0.4%、0.7%となった(図表2)。11月の指数を項目別に見ると、生鮮野菜(前月比−10.3%)とガソリンなど電気・ガスを除く光熱費(同−3.2%)の下落が大きかった。
やや長い目で見れば、生鮮野菜やガソリンなど特定項目の値下がりは、それによって浮いた購買力が他の項目に向かって値上がりを招く筈であるから、これに伴う総合指数の値下がりは一時的現象かも知れない。しかし、現実の消費者物価上昇率(消費増税の影響を除く)が、日銀の目標である2%はもちろん、日銀政策委員の2015年度の見通し(中位数、+1.7%)をも大きく下回っていることは、見逃せない動きである。今後の経済と物価の動向、および日銀の政策姿勢が注目される。
【月ベースでは12月、四半期ベースでは10〜12月期から鉱工業生産は回復へ】
11月の鉱工業生産は、前月比−0.6%の減少と、製造工業生産予測調査の同+2.3%を大きく下回った。これは、予測調査で増加となっていた汎用・生産用・業務用機械や情報通信機械などが減少したためであるが、11月の予測調査によるとこの両業種と電気機械などが12月以降反動増加となり、12月の製造工業は前月比+3.2%増、1月は同+5.7%と2か月連続で著増する見込みとなっている。
仮に鉱工業生産の実績がこの予測通りになると、1月の生産水準は消費増税前の駆け込みで高まったピークの昨年3月を上回ることになる(図表1)。実際には、実績はしばしば予測をかなり下回るので、これ程の急回復にはならないかも知れないが、昨年4月以降の駆け込み需要の反動減は一巡し、鉱工業生産は月ベースでは昨年12月から、四半期ベースでは昨年10〜12月期から、夫々回復し始めたと見られる。
【資本財(除輸送機械)を中心に鉱工業出荷も10〜12月期から回復】
11月の鉱工業出荷は、生産回復、前月比−1.4%の減少となった。これを国内向け出荷と輸出に分けると、前月比夫々−1.1%、−1.9%の減少である。しかし、10〜11月平均の7〜9月期平均比を見ると、国内向けは前期比+1.0%、輸出は同+7.1%と増加のトレンドを示している。生産と同じように12月と1月の伸びが高まると、出荷も10〜12月期からの回復が鮮明になろう。
10〜11月平均の伸びが特に高い財は、資本財(除、輸送機械)の輸出で、7〜9月平均比+8.6%の伸びである。
国内向け出荷に輸入を加えた11月の国内向け総供給は、輸入が前月比+0.9%と伸びたため、全体では−0.8%の減少にとどまった。10〜11月平均の7〜9月平均比は、+1.3%の増加となったが、財別の内訳では、資本財(除、輸送機械)が+4.5%と高い伸びを示し、国内設備投資の回復傾向を示している。
【実質消費支出は前年を下回る水準で緩やかに回復】
国内の需要動向を見ると、「家計調査」の実質消費支出(全世帯)は11月も季調済み前月比で+0.4%と3か月連続して緩やかに回復している(図表2)。ただしその水準は、消費増税が実施された4月以降、前年を下回ったままである。消費者物価の前年比上昇率が鈍化してきたとは言え、11月は総合で前年比+2.4%、持ち家の帰属家賃を除く総合で+2.9%と名目支出の伸び(11月は前年比+1.7%)に比べて高いからである。
名目ベースである小売業販売額の11月は、前年比+0.4%と5か月連続して前年を上回った。
【雇用・賃金の立ち直りが遅く可処分所得は名目でも前年を下回る】
11月の可処分所得(勤労者世帯)の前年比は、名目で−1.1%、実質で−3.9%と前年を下回った。
「毎勤」ベースの賃金指数の前年比も、11月は名目で−1.5%、実質で−4.3%と前年を下回った(図表2)。これは、賃金の高い正規雇用が減り、賃金の低い非正規雇用が増えているためと見られる。
因みに「労調」の11月の雇用者は、前年比+0.3%と全体では前年を上回っているが(図表2)、正規・非正規に分けると、正規雇用者は同−0.9%の減少に対して、非正規雇用者は同+2.4%の増加となっている。
また11月は、季調済み前月比で見ても、「労調」の雇用者が−0.2%減、就業者が−0.2%減、「毎勤」の常用雇用者が−0.1%のいずれも減少となった。
このような賃金と雇用の動向が、前述のように勤労者家計の11月の可処分所得を前年比マイナスに落ち込ませていると見られる。
【10〜12月期の設備投資は3四半期振りに増加する見込み】
投資動向を見ると、既に述べたように、10〜11月平均の資本財(除輸送機械)の国内向け総供給が、7〜9月平均比+4.5%と比較的高い伸びを示し(図表2)、また12月と1月の製造業生産予測指数では資本財が大きく増加する見込みとなっているので、消費増税の4月以降2四半期連続して減少したGDP統計の実質設備投資は、10〜12月期に3四半期振りに増加すると見られる(図表3)。
先行指標の機械受注(民需、除船舶・電力)は、7〜9月期に前期比+5.6%の増加、10月は7〜9月平均比−3.2%の減少となった(図表2)。
GDP統計の実質住宅投資も、4月以降2四半期連続して減少したが、10〜11月平均の新設住宅着工戸数は、7〜9月平均比+4.8%の増加となっているので(図表2)、10〜12月期、あるいは1〜3月期に底入れし緩やかに回復する可能性がある。
GDP統計の実質公共投資は、前年度末の補正予算の執行もあって、4〜6月期、7〜9月期と2四半期続けて増加したが(図表3)、公共建設工事受注高の前年比が7〜9月期に+1.2%と頭を打ち、10〜11月平均は−2.7%と減少しているので、10〜12月期には前期比横這いないし減少に転じる可能性がある(図表2)。もともと前年度末補正予算と本年度当初予算の公共事業合計は、前々年度末の補正予算と前年度当初予算の合計を下回っている。
【貿易収支の赤字は緩やかに縮小】
11月の通関ベースの貿易統計(季調済み)を見ると、前月比、輸出は+0.3%、輸入が−0.5%となり、貿易赤字はやや縮小した。
10〜11月の平均を7〜9月の平均と比較すると、輸出は+4.2%の増加、輸入は+3.0%の増加、貿易収支の赤字が−4.5%の縮小となった。
日銀試算の10〜11月平均の実質貿易収支(2010年=100)は、13.5となり、7〜9月平均の−25.7から大きく好転している(図表2)。
10〜12月期のGDP統計の純輸出は、4〜6月期、7〜9月期に続き、成長に対してプラスの寄与となる公算が高い(図表3)。
【10〜12月期は3四半期振りのプラス成長となるも、前年水準を引き続き下回る見込み】
以上を総括すると、10〜12月期の実質GDPは、国内需要では家計消費と設備投資が緩やかに増加し、住宅投資が下げ止まるため、公共投資が若干のマイナスに転じる可能性はあるものの、内需全体としては成長にプラスの寄与となろう。他方、純輸出は成長に対し、7〜9月期(成長寄与度+0.1%)よりもやや大きめのプラス寄与度となろう。
この結果、消費増税が実施された4月以降、2四半期連続してマイナス成長となった実質GDPは、10〜12月期に3四半期振りのプラスに転じる公算が高い(図表3)。
ただし、その水準は、引き続き前年を下回り、平成26年度のマイナス成長が確定的となろう。