2014年12月版
設備投資と輸出数量の緩やかな立ち直りで景気は徐々に持ち直す傾向

【10〜12月期の鉱工業生産は3四半期振りに増加する見込み】
 本年4月の消費増税後、日本経済は半年近く落ち込んでいたが、ここへ来て、輸出数量と設備投資にようやく立ち直りの兆しが見えてきた。
 10月の鉱工業生産は、前月比+0.2%の微増と、製造工業生産予測調査の同−0.1%を僅かに上回った。また同予測調査によると、11月は同+2.3%、12月は同+0.4%と9月以来4か月連続の増加となる予測である。(以上図表1)。
 11月と12月の鉱工業生産の実績が、この予測調査と同じ伸びになったと仮定すると、10〜12月期は前期比+3.3%増と、消費増税による落ち込みのあと、3四半期振りの回復となる。回復を主導する業種は、汎用・生産用・業務用機械、電気機械、電子部品・デバイスなどの資本財である。

【国内向けの鉱工業製品総供給は資本財(除、輸送機械)を除き不振】
 10月の鉱工業出荷は、前月比+0.4%の増加となったが、これを国内向け出荷と輸出に分けると、国内向けが同−1.1%の減少であったのに対し、輸出は同+7.9%と大幅増加となった。輸出が大きく伸びた業種は、輸送用機械、電気機械、汎用・生産用・業務用機械、電子部品・デバイスなどである。
 国産品の国内向け出荷に輸入を加えた鉱工業製品の国内向け総供給は、輸入も前月比−2.5%の減少となったため、全体で同−0.9%減と振るわなかった。その中にあって、資本財(除、輸送機械)は、国内向けが同+6.8%と大きく伸び、輸入と合計した総供給も同+7.6%の大幅増加となった。これは2か月連続の増加であり、9〜10月と国内の設備投資が動き始めていることを示唆している。

【実質家計消費は前年を下回る水準で前月比は緩やかに増加】
 国内の需要動向を見ると、10月の家計調査の実質消費支出(全世帯)は、季調済み前月比で+0.9%増と2か月連続で増加したが(図表2)、10月も消費者物価が前年比+2.9%(持ち家の帰属家賃を除く総合は同+3.4%)と消費税率引き上げの影響から大幅に上昇しているため、前年同月比では−4.0%と4月以来の減少を続けている。ただし、減少幅は5月の−8.0%よりはかなり縮小してきた。
 10月の小売業販売額は、物価上昇分を含む名目値であるため、前年比+1.4%と4か月連続して前年を上回った。

【実質賃金の下落と雇用改善の足踏みから実質可処分所得は前年を大きく下回ったまま】
 背後にある賃金と雇用の動向を見ると、10月の現金給与総額は前年比+0.5%の増加にとどまったため、消費者物価の上昇率で調整した実質賃金は同−2.8%の下落となった。
 10月の雇用動向は、「毎勤」の常用雇用、「労調」の雇用者、就業者は、前年比それぞれ+1.6%、+0.6%、+0.4%と前年水準を上回っているが、季調済み前月比では0.0%、−0.4%、−0.2%と横這いないしは微減であった。雇用改善は遅々としている。なお、10月の完全失業率は3.5%と前月比−0.1%ポイントに低下したが、図表2に見られるように、本年に入って失業率は3.5〜3.8%のレンジで大勢足踏み傾向を示している。
 以上のような実質賃金の低下と雇用改善の足踏みを反映して、10月の勤労者世帯の実質可処分所得は前年を−2.4%下回っている。

【設備投資は7〜9月期に立ち直り10〜12月期も増加する見込み】
 投資動向を見ると、まず設備投資にこのところ立ち直りの兆しが見られる。足許の設備投資を反映した資本財(除、輸送機械)の国内向け総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)は、9〜10月と2か月連続して通計11.6%増加した(図表2)。
 7〜9月期GDPの1次速報では、実質設備投資が前期比−0.2%の減少であったが、その後公表された法人企業統計では、7〜9月期の設備投資が前期比+3.1%と1〜3月期(+2.9%)を上回る増加を示した。しかし本日(12/8)公表された2次速報値では設備投資が前期比−0.4%減少と1次速報の−0.2%より弱まり、つれて7〜9月期の成長率も同−0.4%から同−0.5%に下方修正された。何故法人企業統計の結果とは逆になったのか疑問が残る。
 先行指標の機械受注(民需、除船舶・電力)は、6月から9月まで4か月続けて増加し、7〜9月期は前期比+5.6%の増加となった(図表2)。また10〜12月期の見通しは、−0.3%減と、ほぼ横這いである。設備投資は買い急ぎの反動から減少した4〜6月期のマイナスから立ち直り、10〜12月期は緩やかに増加すると見られる(図表3)。


【住宅投資は下げ止まり、公共投資は反転下落の気配】
 住宅投資は、消費増税前の駆け込みの反動から4〜6月期、7〜9月期と2四半期連続して減少したが、新設住宅着工戸数は7月をボトムに緩やかに回復し始めているので(図表2)、住宅投資も10〜12月期には下げ止まってくるのではないかと見られる。
 公共投資は、4〜6月期、7〜9月期と2四半期連続して増加したが(図表3)、公共工事受注高の前年比増加率は8〜10月に急速に縮小し、この3か月の平均で前年水準をやや下回っている(図表2)。13年度末の補正予算と14年度当初予算の合計が、12年度末の補正予算と13年度当初予算の合計を4.3兆円下回っていることから考えても、公共投資は10〜12月期以降、やや減少するのではないかと見られる。

【10月は数量ベースの貿易赤字は縮小、所得収支の大幅な拡大も加わって、経常収支の黒字は急拡大】
 最後に外需の動向を見ると、通関ベースで見て、9月(前月比+6.9%)に続き10月も、輸出の伸びが同+9.6%と輸入の伸び(同+2.7%)を上回り、貿易収支の赤字が2か月連続して縮小した。とくに10月は、数量ベースで見ても、輸出が同+4.7%、輸入が同−2.1%と貿易収支が大きく改善した(図表2の「実質貿易収支」参照)。
 数量ベースの改善は、既に見た鉱工業製品についても顕著に現れており、10月の輸出が前月比+7.9%、輸入は同−2.5%であった。
 品目別には、通関ベースで輸出の増加に対する寄与度が大きいのは、自動車(寄与度+1.0%)、船舶(同+0.9%)、鉄鋼(同+0.6%)などであり、輸入の伸び悩みに最も大きく寄与したのは原粗油(同−1.8%)である。
 遅れていた大幅円安の輸出数量押し上げ効果が多少とも出てきたことに加え、米国の着実な景気京福もあって、輸出の立ち直り傾向が徐々に現れてきたものと思われる。他方、輸入面では原油市況の下落傾向が、日本に有利に働いている。
 なお、本日公表の10月の経常収支(季調済み)は、円安に伴う所得収支の大幅黒字拡大と貿易・サービス収支の赤字縮小から、9470億円の黒字と7〜9月期の黒字合計(6445億円)を大幅に上回る黒字を実現した。

【設備投資、輸出数量の立ち直り、実質消費の下げ止まりから10〜12月期は回復へ】
 10月の景気指標のみで10〜12月期を推し測ることは難しいが、設備投資と輸出数量の立ち直りが成長に寄与し、家計消費の前年比不振は続くものの、前月比では徐々に立ち直り、景気は全体として緩やかに回復していくる公算が高い。