2014年11月版
7〜9月期のGDPは消費増税の支援材料になる程強くない可能性

【7〜9月期の鉱工業生産は2四半期連続の減少】
 景気の回復基調が弱く、消費者物価上昇率もジリジリと低下する中、日本銀行は人々の意表を突いて、異次元金融緩和の「拡大」を打ち出し、円安と株高が大きく進んだ。
 9月の鉱工業生産は、製造工業生産予測調査の前年比+6.0%ほど大幅ではなかったが、同+2.7%とやや大きく上昇した(図表1)。しかし7〜9月期の前期比は−1.9%と2四半期連続して低下した。9月の在庫は前月比−0.8%と5か月振りに低下したものの、前年水準をなお+3.9%上回っており、生産調整の圧力は残っている。製造工業生産予測調査によると、10月は前月比−0.1%、11月は同+1.0%と、なお回復力は弱い(図表1)。

【7〜9月期の鉱工業製品の国内向け総供給は、耐久消費材、建設財を中心に4〜6月期を更に下回った】
 9月の鉱工業出荷は、前月比+4.3%とやや大きく増加したが、7〜9月平均の前期比は−0.8%と、生産同様、2四半期連続して減少した(図表1)。
 9月の出荷を国内向けと輸出に分けると、国内向けは前月比+5.2%と大きく増加しており、輸出は同+0.6%の増加にとどまっている。しかし、7〜9月期の出荷を国内向けと輸出に分けると、国内向けは前期比−1.4%と2四半期連続で減少し、輸出は逆に同+1.3%と3四半期振りに増加した。
 この国内向け出荷に輸入を加えた国内向け総供給を見ると、9月は輸入も増加したため、前月比+4.9%と3か月振りの増加となった。しかし7〜9月期の平均を見ると、輸入が前期比+0.2%の微増にとどまり、総供給は同−1.2%と2四半期連続して減少し、景気の基調の弱さを示している。財別には、耐久消費財と建設財の減少が大きく、資本財はやや増加した。

【実質消費支出は低水準横這い、消費マインドは引き続き弱含み】
 国内の需要動向を見ると、実質家計消費は、消費税率が引き上げられた4月以降、一貫して前年水準を6%程下回ったレベルで推移しているが、季調済み前月比を詳細に見ると、5月を底にジリジリと増加しており、9月は前月比+1.5%、5月比+2.5%の水準にある。また、7〜9月期は前期比横這いとなった(図表2)。
 9月の小売販売額は前年比+2.3%の増加となり、7〜9月期平均も同+1.4%と4〜6月の下落幅(−1.8%)よりは小幅ながら、回復した。販売額は、名目値で物価上昇分が含まれているために増加したのである。
 なお、10月の消費者態度指数(季調済み)は引き続き悪化しており、消費マインドは弱含んだままである。

【実質賃金下落率の幅が雇用増加率の幅を上回る状態が続いている】
 9月の現金給与総額は前年比+0.8%の増加となったが、実質賃金は同−2.9%の減少と消費者物価の上昇率が高まり始めた昨年の7月以降、14か月間連続で減少している(図表2)。
 「労調」の就業者数、雇用者数、「毎勤」の常用雇用者数は、引き続きジリジリと増加しており、前年をそれぞれ+0.7%、+1.1%、+1.7%を上回っている。
 しかし、これらの雇用増加率の幅は、実質賃金の下落率の幅を下回っており、勤労者の実質所得は減少を続けている。

【3%台の消費者物価の上昇率はやや縮小】
 全国消費者物価の前年比の推移を見ると、@総合は5月の+3.7%をピークにジリジリ低下し、9月は+3.2%、A生鮮食品を除くと+3.0%(5月は+3.4%)、B持ち家の帰属家賃を除くと+3.9%(5月は+4.5%)となった。家計統計や賃金の実質値はBを使ってデフレートし、日本銀行の目標インフレ率はAを使う。Bは+4.5%から+3.9%に縮小したとはいえ、名目賃金などの増加率を依然として大きく上回っている。
 他方、日本銀行の目標インフレ率は、4月の消費税率引き上げの影響(+2.0%と推計)を除いた実勢で判断するが、Aの実勢は5月の+1.4%から9月は+1.0%に縮小し、ガソリンなどエネルギー価格の下落傾向から見て、10月は+1.0%を割り込む可能性がある。2%を目標にし、現状は1%台前半と説明していた日本銀行が、ここで追加緩和に動いた背景にはこうした物価動向があると推測される。

【設備投資、公共投資は小幅のプラスか】
 投資動向を見ると、足許の設備投資動向を示す資本財(除輸送機械)の国内向け総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)は、9月に+3.7%増となったが、7〜9月平均の前期比は8月の減少が大きかったため、+0.1%増にとどまった。先行きを示す機械受注(民需、除船舶・電力)は、7〜9月期の見通しが前期比+2.9%増となっているが、6〜8月と3か月連続して増加し(図表2)、7〜8月平均の4〜6月平均比は+3.8%の増加となっているので、7〜9月期はほぼ見通し通りの増加になるものと見込まれる。設備投資は7〜9月期に横這い圏内の動きとなった後、10〜12月期から緩やかな増加基調に戻るのではないかと予測される。
 住宅投資は、新設住宅着工戸数が昨年12月をピークに本年9月まで一貫して下落傾向を続けているので(図表2)、7〜9月期も減少したと見られる。
 公共投資は1〜3月期、4〜6月期の2四半期連続して減少したが、公共建設工事の受注高が4〜6月期に前年比+30.0%の増加となっているので(図表2)、7〜9月期には若干の増加に転じるのではないか。ただし、7〜9月期の受注高が再び前年比+1.2%に下がっているので(図表2)、あまり大きくは伸びないであろう。

【数量ベースの貿易収支はやや回復】
 最後に実質ベースの純輸出の動向を推定すると、7〜9月期には、日銀推計の実質貿易収支(季調済み)の赤字が4〜6月期よりも縮小したこと(図表2)、前述した7〜9月期の鉱工業製品の輸出の伸びが前期比+1.3%と輸入の伸びの+0.2%を上回ったことなどから見て、7〜9月期の数量ベースの貿易収支は成長に対しプラスの寄与になったと思われる。
 なお、7〜9月期の経常収支の黒字(季調済み)は、4〜6月期に比し−6.3%減少した。

【7〜9月期の成長率は低いのではないか】
 11月17日に公表される7〜9月期のGDP統計(1次速報)は、来年10月に予定されている消費税率の8%から10%への引き上げを決断する材料の一つとして注目されている。
 これ迄述べた7〜9月期の景気動向から判断すると、家計消費、設備投資、公共投資は増加したとしても小幅にとどまり、純輸出も改善したとしても4〜6月期のような大幅なプラス寄与(年率成長率を+4.3%ポイント押し上げ)はないと見られる。
 他方、4〜6月期は過剰在庫の積み上がりから、在庫投資が大幅な成長寄与(年率+5.5%ポイント押し上げ)を示したが、7〜9月期には在庫減らしが行われているので、在庫投資の成長寄与度は大きく縮小し、小幅なプラスかマイナスに転じると見られる。
 従って、4〜6月期に年率成長率を合計+8.8%も押し上げた純輸出と在庫投資がなくなり、内需の増加も小幅にとどまると、7〜9月期の成長率はあまり高くはならないのではないかと思われる。民間予測の平均と伝えられる年率+1.9%を、場合によっては下回るのではないだろうか。

【異次元金融緩和の追加の効果】
 異次元金融緩和の追加以来、円安と株高が戦後最長景気の最終年である07年頃の水準にまで進んだ。FRBが量的緩和の「出口政策」に差し掛かり、日銀が量的緩和の再強化を図ったので、正反対の方向性から考えれば、円安と株高に持続性があるようにも見えるが、国際的には多くの経済、政治上のリスクがあるので、今後どうなるかは断定出来ない。
 また円安による企業収益の好転、株高の資産効果も、今後、経済にどのような影響を与えるか、十分に注視していく必要がある。