2014年7月版
駆け込み需要の反動減に加え、消費税率引き上げに伴い実質所得、実質消費が減少

【4、5月の生産、出荷は大幅な反動減】
 消費増税前の駆け込みの反動が、続いている。
 5月の鉱工業生産は、前月比+0.5%の小幅増加となったが、製造工業生産予測調査によると、6月は前月比再び−0.7%の低下、7月は同+1.5%の小幅上昇となる。鉱工業生産の実績が仮にこの予測と同じであったと仮定すると、4〜6月期は前期比−3.0%と1〜3月期の増加(前期比+2.9%増)をほぼ帳消しにする。7月の水準は落ち込み前の3月に比べてまだ−1.6%低い水準にとどまる(図表1)。
 5月の鉱工業出荷は、前月比−1.2%の減少となったが、これを国内向けと輸出に分けると、国内向けは同−0.6%、輸出は同−3.7%の減少であった。他方、この国内向け出荷に輸入を加えた国内向け総供給は、輸入が同−3.5%とかなりの減少となったため、同−1.2%の減少となった。この結果、4〜5月の国内向け総供給の平均は、1〜3月平均比−7.2%の大幅減少となった。消費増税前の駆け込み需要の反動はかなり大きく、駆け込みで増加した1〜3月期の前期比+4.5%増を帳消しにして減少している。
 この間、5月の鉱工業生産者在庫と同在庫率は、前月比それぞれ+2.9%、+3.5%の増加となり、落ち込み前の3月に比べてもそれぞれ+2.5%、+1.8%の増加となっている。4〜5月の出荷の反動減は、想定をやや上回ったのかも知れない(図表2)。

【反動減と消費税率引き上げで、実質家計消費は大きく減少】
 国内需要の動向を見ると、「家計調査」の実質消費支出(全世帯、季調済み)は、4月に前月比−13.3%の大幅減少となったあと、5月も同−3.1%と減少を続け、5月の前年比は−8.0%にまで落ち込んだ。このような大幅な減少は、3月までの駆け込みの反動に加え、消費者物価が消費税率引き上げに伴い、4月に前年比+3.4%、5月に同+3.7%と大幅に上昇しているので、実質所得の減少が大きいためである(図表2)。

【消費者物価の大幅上昇で、実質ベースの所得、賃金はかなり減少】
 因みに、「家計調査」の4月と5月の実質可処分所得(勤労者世帯)は、前年比それぞれ−7.0%、−4.6%とかなり減少している。また4月と5月の「毎勤」の実質賃金(全産業)は、前年比それぞれ−3.4%、−3.6%と3月以前に比して減少幅を拡大している(図表2)。大手企業の今春のベースアップは2%超とも伝えられるが、中小企業を含む全体ではかなり低いためと見られる。
 なお、販売統計では、小売業の売上高(金額ベース)は、4月に前年比−4.3%減のあと、5月は同−0.4%と下落幅を縮小した。また乗用車新車登録台数(季調済み)の4〜5月平均は1〜3月平均比−17.9%の大幅減少となった。

【ミスマッチを伴いながら全体の労働需給は徐々に引き締まり】
 労働需給は、徐々に引き締まりつつある。5月の「労調」の就業者、雇用者、「毎勤」の常用雇用者は、季節調整済み前月比で、それぞれ+0.6%、+0.4%、+0.2%の増加となった(図表2)。他方、「労調」の5月の完全失業者(季節調整済み)は前月比−0.7%の減少となり、完全失業率は前月比−1%ポイント低下して3.5%となった(図表2)。これは完全雇用に近い水準といえる。5月の有効求人倍率も1.09倍と0.01ポイント上昇した。
 6月調査「日銀短観」」によると、「雇用人員判断」DIは、大企業製造業を除き、中堅・中小企業製造業と各規模非製造業において「不足」超になっている。しかし業種別のミスマッチは大きく、サービス、建設、医療の人手不足が大きい反面、大企業製造業では人手が余っている。このため、最近の労働需給の引き締まりが、直ちに賃金上昇圧力になるとは限らない。

【足許の設備投資は弱いが年間では緩やかに増加か】
 投資動向に目を転じると、足許の機械に対する設備投資を示す資本財(除、輸送機械)の国内向け総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)は、駆け込み需要の反動で、4月の前月比−9.9%の大幅減少のあと、5月も同−3.0%の減少となった。4〜5月平均の1〜3月平均比は−10.7%の大幅減少である。
 先行指標の機械受注(民需、除船舶、電力)は、1〜3月期に前期比+4.2%とかなりの増加となったあと、4月は前月比−9.1%の減少となった。しかし1〜3月平均比では+0.3%の水準にとどまっている。
 6月調査「日銀短観」によると、本年度設備投資計画(ソフトウェアを含み、土地投資を除く)は、製造業・非製造業・金融機関の合計で前年比+4.9%と前年の伸び(+6.2%増)をやや下回っている。設備投資は、駆け込み需要の反動が一巡した後、緩やかに増加すると見られる。

【住宅投資は頭打ちから減少へ、公共投資は増勢維持】
 住宅投資は、本年1〜3月期まで8四半期連続して増加してきたが、新設住宅着工戸数は消費増税前の駆け込みの反動から、本年3月から5月まで前年を下回っている(図表2)。住宅投資の増勢は今後頭を打ち、減少傾向に転じると見られる。
 公共機関からの建設工事受注額は、4〜5月も前年比+34.3%と高い伸びを示している。1〜3月期の公共投資は前期比−2.7%と5四半期振りのマイナスとなったが、4〜6月期は再び増加に向かうのではないかと思われる。

【輸入の大幅減少から貿易収支の赤字は縮小、経常収支は黒字に戻るか】
 最後に輸出入動向(季節調整済み)を見ると、1〜3月期の貿易収支と経常収支は、輸入の急増から大幅に悪化し、貿易収支のみならず経常収支も赤字(1兆4千億円)となった。このため実質GDPベースの純輸出は、−0.3%の成長寄与度となった。
 これに対して、4月(国際収支ベース)は前月比で輸出が−3.0%減、輸入が−12.2%減、5月(通関ベース)は同−1.2%、同−1.3%と、輸入の減少率が輸出の減少率を上回っている。このため、4〜5月の貿易収支の赤字は縮小し、経常収支は黒字に戻ったと見られる。
 6月の計数を見なければ分からないが、4〜6月期の純輸出は、4四半期振りにプラスの成長寄与度となるかも知れない。

【4〜6月期は家計消費と設備投資の反動減で大幅なマイナス成長】
 以上を総括すると、4〜6月期の実質GDPは、家計消費と設備投資が大幅な反動減となるため、住宅投資が横這い圏内、公共投資が若干増加しても、国内需要は大きく減少しよう。このため純輸出が多少プラス寄与度となっても、成長率はかなり低下するのは避けられないと見られる(図表3)。