2014年3月版
当面は消費増税前の駆け込み需要で活況、4月以降には多くの不安要因

【2月まで鉱工業生産は急上昇の見込み】
 消費増税前の駆け込み需要を反映し、鉱工業生産と出荷は、耐久消費材や汎用機械などを中心に異常な伸びとなっている。
 1月の鉱工業生産は、前月比+4.0%の急上昇となったが、製造工業生産予測調査によると、2月も更に同+1.3%の上昇となり、3月から反転下落(同−3.2%)する予測となっている(図表1)。2月の生産水準は、2007年のリーマンショックで下落に転じて以来、最高の水準となる見込みであるが、リーマンショック直前のピークにはまだ届かない。
 急上昇が目立つ業種は、輸送機械(前月比+8.0%増、前年比+11.2%増)、汎用・生産用・業務用機械(同+9.6%増、同+23.4%増)、電気機械(同+4.1%増、同+16.1%増)、情報通信機械(同+4.2%増、同+23.9%増)などで、いずれも消費増税前の駆け込み需要の急増に対応する一時的な増産と見られる。

【耐久消費材、汎用資本財を中心に出荷も急伸】
 1月の鉱工業出荷も前月比+5.1%増と急伸したが、これを国内向けと輸出に分けると、駆け込み需要を反映した国内向けが前月比+5.2%増と急伸したほか、輸出向けも同+5.5%増と久方振りに高い伸びを示した。輸出の伸びが目立つ製品は、電子部品・デバイス(前月比+7.3%増)、電気機械(同+12.5%増)、化学製品(除、医療品、同+10.4%増)などである。
 国内向け出荷の+5.2%増に輸入を加えた国内向け総供給は、輸入が前月比+1.9%増にとどまったため、全体で同+4.8%の増加となった。国内向け総供給の中で、特に高い伸びを示した業種は、情報通信機械(前月比は国産+16.5%増、輸入+12.8%増)、輸送機械(同+7.5%増、−3.3%減)、汎用・生産用・業務用機械(同+21.8%増、−2.4%減)などの耐久消費財と汎用資本財である。言うまでもなく、消費増税前の買い急ぎの反映と見られる。

【消費性向の上昇を伴う家計消費の買い急ぎが顕著】
 需要動向を見ると、1月の家計消費には消費増税前の買い急ぎの傾向が顕著に見られる。「家計調査」の1月の実質消費支出(全世帯)は、前月比+1.6%増、前年比+1.1%増と3か月振りにやや大幅な増加となった(図表2)。また1月の小売業販売額は、前年比+4.4%増と10〜12月期(+3.0%増)をかなり上回る伸びとなった。特に伸びが目立つ販売業種は、耐久消費財の自動車(同+21.4%)と機械器具(同+7.5%)である。
 消費堅調の反面、1月の実質可処分所得(勤労者世帯)は前年比−0.5%の減少で、消費増加はもっぱら消費性向の上昇によって賄われている。これは消費増加が増税前の買い急ぎによることを示しており、4月以降の消費の反動減が懸念される。

【実質賃金は減少、雇用の回復は遅々】
 可処分所得の背景にある賃金、雇用の動向を見ると、1月の現金給与総額は、名目で前年比−0.2%減と前年を僅かに下回ったが、実質では、1%を上回る消費者物価の上昇を反映して、前年比−1.8%減とやや大きく下落した(図表2)。
 他方雇用は、「労調」の就業者と雇用者、「毎勤」の常用雇用者は、それぞれ前年比+0.5%増、+0.8%増、+1.3%増と前年に比べれば回復しているが、季調済み前月比は、それぞれ−0.5%減、−1.3%減、+0.1%減と弱含み横這い圏内の動きにとどまった。
 このような雇用情勢を反映して、1月の完全失業率は3.7%と前月比横這いであった。雇用回復は引き続き緩やかである。

【設備投資にも駆け込みの動き】
 次に投資動向を見ると、実質設備投資は10〜12月期のGDP統計(1次速報値)では前期比+1.3%の増加と3四半期連続して増加した。もっとも、2次速報値の基となる10〜12月期の法人企業統計の設備投資(名目、季調済み)は、前期比−0.3%の減少となったので、下方修正される懸念がある。
 足許の機械設備投資の動向を示す1月の資本財(除輸送機械)総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)は、消費増税前の駆け込み需要の影響もあって、前月比+17.3%増(図表2)、10〜12月平均比+17.8%増と著増した。1〜3月期の設備投資は一時的に大幅な伸びとなり、4〜6月期以降にその反動減が生じる可能性が高い。
 先行指標の機械受注(民需、除船舶・電力)は、10〜12月期に前期比+1.5%増と3四半期連続して増加したが、1〜3月期の見通しは同−2.9%減となり、4〜6月期以降の設備投資の反動減と平仄の合った動きをしている。

【住宅投資は1〜3月期がピークで、その後は反動減の見込み】
 住宅投資(実質)は12年4〜6月期から13年10〜12月期まで7四半期連続して増加しており、とくに13年7〜9月期(前期比+3.3%)と10〜12月期(同+4.2%)は増勢が加速した。この加速は、本年4月以降の引き渡し住宅から増税後の消費税率が適用されるための駆け込みと見られる。
 このため、新設住宅着工戸数は、昨年12月の105.5万戸(季調済み、年率)をピークに、本年1月は98.7万戸と前月比−6.4%の減少となった(図表2)。住宅投資のベースでは、本年1〜3月期がピークとなり、4〜6月期から減少すると見られる。

【公共投資は10〜12月期以降増勢が鈍化】
 公共投資は12年10〜12月期から13年10〜12月期まで5四半期連続して増加し、景気回復を支えてきたが、昨年度末の補正予算13兆円をピークとして、本年度末の補正予算は5.5兆円に縮小するため、次第に増勢が鈍化し、やがて減少に転じる恐れがある。
 現に、実質公共投資は、昨年10〜12月期に前期比+2.3%増と、7〜9月期の同+7.2%増から大きく鈍化し、10〜12月期の成長寄与度は0.5%と7〜9月期の+1.4%から0.9%も低下して、10〜12月期の成長率を下に引っ張った。
 公共建設工事受注額(大手50社ベース)を見ても(図表2)、前年比のピークは昨年10月の+56.1%であり、その後鈍化して本年1月は+13.7%にすぎない。
 これは、一種の「財政の崖(fiscal cliff)」である。人手不足と資材高騰に伴う入札不調で、公共工事の執行が遅れ、「財政の崖」が多少とも均されることはあっても、13兆円の補正予算の執行がピーク・アウトすることに伴うマイナスの影響は無視できないであろう。

【外需立ち直りの兆しはまだない】
 最後に外需の動向を見ると、円安にも拘らず、輸出の回復が遅々としている反面、輸入の伸びが高まっているため、貿易収支の大幅赤字が続き、経常収支(季調済み)も9月から12月まで、4か月続けて赤字を記録した。
 これを反映した実質GDPベースの純輸出の成長に対するマイナスの寄与度も、7〜9月期と10〜12月期はいずれも−0.5%に達している(図表3)。
 1月の通関ベースによると、輸出数量は前年比−0.2%減、輸入数量は同+8.0%増と引き続き数量ベースの大幅な貿易赤字が続いている。
 前述した鉱工業製品に限って見ると、1月は輸出が前月比+5.5%増、輸入が同+1.9%増であり貿易収支は改善したが、1か月の動きではこれが基調の変化かどうかはまだ分からない。仮に変化の始まりだとしても、前年比で見ると、1月の輸出が+2.6%増、輸入が+12.2%増であり、この1年間の収支の悪化がいかに大幅であり、改善の前途がいかに遼遠であるかが分かる。

【4〜6月期以降に大きな不安要因】
 以上見てきたことから分かるように、目先1〜3月期は高い成長が期待されるが、4〜6月期以降は、かなり厳しい局面が予想される。
 まず家計消費については、駆け込み需要の反動減があるが、これは一過性であろう。しかし、1%台の消費者物価上昇と3%ポイントの消費税率引き上げの合計を上回るような名目可処分所得の増加がないと、反動減が一巡したあとも消費は持続的には増えない。消費回復を可能にする程の賃金の上昇と雇用の増加が実現するのか。
 住宅投資は下落に転じる。設備投資は様子見から本年中はあまり動かないのではないだろうか。
 公共投資は「財政の崖」によって大きく鈍化し、減少に転じるかも知れない。政府は本年度末に5.5兆円の補正予算を成立させ、執行することになるが、これは消費税率3%ポイント引き上げによる実質ベースの所得・消費減少のマイナス効果(5兆円強)を相殺するだけだ。13兆円の前年度補正予算の執行が終了することによるマイナス効果(財政の崖)は、そのまま残るのである。来年度当初予算は、それを打ち消すような大型予算ではない。
 結局、頼りになるのは、米国を中心とする海外諸国の立ち直りであり、それに伴う日本の輸出数量の増加であるが、これにはダウンサイドのリスクもあり、まだ断定的に日本経済の立ち直りを支えるとは言いきれない。