2014年10月版
天候不順と消費増税の影響で7〜9月期の回復基調は弱い

【7〜8月の生産の基調は引き続き弱い】
 8月の景気指標が出揃ったが、天候の影響もあってか、景気回復の地合が弱いままである。
 8月の鉱工業生産は、製造工業生産予測調査の前月比+1.3%増とは裏腹に、同−1.5%の減少となった。同予測調査によれば、9月は同+6.0%の大幅反動増、10月は同−0.2%の微減と予測されているが、仮に9月の鉱工業生産の実績がこの予測調査通りの大幅反動増になったと仮定しても、7〜9月期は前期比−0.7%と2四半期連続の減少となる(図表1)。駆け込み需要の反動が尾を引いていることもあって、7〜9月期も前期に続いて生産の基調は弱い。
 8月の低下が大きかった業種は、汎用・生産用・業務用機械、電気機械、情報通信期などの資本財と輸送機械である。

【買い急ぎの反動減はまだ続いており、とくに耐久消費財で著しい】
 8月の鉱工業出荷は、前月比−1.9%の減少となったが、これを国内向け出荷と輸出に分けると、国内向けが同−2.6%とかなり減少しており、輸出は同−0.4%の減少であった。
 この国内向け出荷に輸入を加えた国内向け総供給は、輸入が同−0.9%の減少となったため、同−2.4%の減少となった。国内向け総供給の7〜8月平均は、駆け込み需要の反動で前期比−7.1%と大きく減少した4〜6月平均を、更に−2.3%下回る。反動減は7〜9月期も続いていると見られる。
 7〜8月平均が4〜6月平均に比し比較的大きく減少した財は、耐久消費財(−11.1%)と建設財(−4.0%)である。とくに耐久消費財は、5〜8月に生産者在庫率が+71.9%上昇し、8月の前年比は+51.0%に達しているので、当分の間、調整の圧力が懸り続けると見られる。

【実質消費支出は実質可処分所得の減少と天候不順の影響で8月も減少】
 需要動向を見ると、8月の「家計調査」では全世帯(2人以上)の消費支出が、名目でも前年比−0.9%の減少となったため、実質では更に前年比−4.7%、季調済み前月比−0.3%の減少となった(図表2)。これには可処分所得の減少に加え、天候不順で消費性向が若干低下したことも響いたと見られる。
 因みに、8月の勤労者世帯では、実質可処分所得が前年比−5.2%減少したが、実質消費支出は更に同−6.0%の減少となり、この間消費性向は−0.6%ポイント低下した。

【実質賃金の下落が雇用の増加の影響を帳消しにして実質所得が減少】
 8月の「毎勤」では、特別に支払われた給与(賞与)が前年比+14.4%の大幅上昇となったため、現金給与総額は前年比+1.4%の増加であった。他方、消費者物価(持ち家の帰属家賃を除く)が消費税率引き上げの影響もあって同+4.0%の上昇となっているため、実質賃金は同−2.6%の下落となった(図表2)。
 他方、8月の雇用は「毎勤」の常用雇用者が前年比+1.6%、「労調」の就業者と雇用者がそれぞれ同+0.8%、同+0.7%と徐々に増加しているが、この増加率は実質賃金の減少率を下回っている。これが実質雇用者所得減少の原因である。
 8月の完全失業率は3.5%と前月比0.3%ポイントの大幅低下となり、有効求人倍率も1.09倍と前月比0.03ポイントの上昇となった。雇用は少しずつ改善している。

【設備投資は製造業を中心に7〜9月期から回復】
 次に投資動向を見ると、足許の設備投資動向を示す資本財(除、輸送機械)の国内向け総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)は、8月に前月比−9.0%と3か月振りに減少した。7〜8月平均の4〜6月平均比は+0.3%増と僅かに回復した。
 先行きを示す8月の機械受注(民需、除船舶・電力)は、前月比+4.7%と3か月連続して緩やかに増加した(図表2)。7〜8月平均は4〜6月平均比+3.8%増となり、7〜9月の見通し(+2.9%増)をやや上回った。7〜8月平均の4〜6月平均比で伸びが高いのは製造業(+10.5%)で、非製造業は減少(−3.4%)した。
 9月調査「日銀短観」の本年度設備投資計画(ソフトウェアを含み、土地投資を除く)を見ても、製造業は前年比+12.9%と伸びが高く、非製造業は同+2.9%増にとどまり、合計すると同+6.1%と前年(+5.3%)を僅かに上回っている。

【7〜9月期は公共投資がやや回復、住宅投資は引き続き減少の見込み】
 8月の公共工事受注高は前年比+0.4%増にとどまったが、これは4〜6月期に同+30.0%増、7月も同+24.1%増と著増した反動と見られる(図表2)。GDP統計の公共投資は1〜3月期(前期比−2.5%減)、4〜6月期(同−0.5%減)と2四半期連続して僅かに減少したが(図表3)、公共工事の受注高が4〜6月期から高まっていることから見て、7〜9月期にはやや増加すると見られる。
 GDP統計の住宅投資は、4四半期連続して増加したあと、4〜6月期には前期比−5.1%の減少となった。新設住宅着工戸数は、昨年10〜12月期をピークに減少傾向にあり、7〜8平均も前期比−5.1%減となっているので(図表2)、7〜9月期の住宅投資も前期に続き減少すると見られる。

【8月の経常収支黒字は若干増加】
 8月の国際収支(季調済み)は、輸出の減少(前月比−1.3%)から貿易収支の赤字はやや拡大したが、サービス収支の赤字縮小と所得収支の大幅黒字に支えられて、経常収支の黒字は若干増加した。しかし、7〜8月の経常収支黒字の平均は、4〜6月の黒字平均に比し、ほぼ半減している。
 GDP統計の純輸出は、経済成長に対し、4〜6月期に4四半期振りにプラス寄与となったが(図表3)、7〜9月期は、9月に経常収支が大きく好転しない限り、再びマイナス寄与に戻りそうである。

【天候不順と消費増税の影響で経済の基調がやや弱い】
 以上見てきたように、7〜9月期の国内需要は、設備投資と公共投資が増加する反面、家計消費と住宅投資が減少し、外需も9月次第で再びマイナス寄与に転じる可能性もあるので、プラス成長にせよ、マイナス成長にせよ、小幅にとどまる可能性が高い。
 このところ8月の景気動向指数、8月、9月の景気ウォッチャー調査などで、景気の現状を示す指数やDIが横這いないし悪化し、先行きを示す指数やDIは悪化するなど、冴えない動きとなっている。
 天候不順の影響もあるかも知れないが、4月の消費税率引き上げ後の物価上昇によって、実質ベースの家計所得や賃金が低下していることが響いているとすれば、基調的な弱さとして見過ごすことは出来ない。