2013年12月版
公共投資と住宅投資は堅調、設備投資も緩やかな増勢、反面消費者物価の上昇が実質ベースの消費、所得、賃金の伸びを圧迫

【鉱工業生産の回復テンポはやや早まる傾向】
 内需の拡大をリードしている住宅投資と公共投資は、10月も引き続き堅調である。設備投資も緩やかながら増勢を失っていない。雇用もジリジリと改善している。しかし消費者物価のインフレ率の高まりは、実質ベースの可処分所得や賃金の伸びを圧迫しており、実質家計消費の勢いをそいでいる。消費増税前の駆け込みは、住宅着工や乗用車販売に出ている。
 10月の鉱工業生産は、前月比+0.5%と2か月連続の増加となった。製造業生産予測調査によると、11月と12月の生産もそれぞれ前月比+0.9%、同+2.1%と連続して上昇する(図表1)。鉱工業生産の実績がこの予測通りになったと仮定すると、10〜12月期は前期比+2.5%増と4四半期連続の増加となり、増加率も毎期徐々に加速する。
 最近、鉱工業生産の実績は製造工業生産予測を下回る傾向が続いているので、+2.5%に加速することはないとしても、生産上昇のテンポがやや早まっていることは確かであろう(図表1)。
 業種別に見ると、10月〜12月の生産増加が目立つのは汎用・生産用・業務用機械と電気機械である。類別では、資本財(除、輸送機械)と耐久消費財の増産が目立つ。

【鉱工業製品の国内向け総供給は9月、10月と確りした伸び】
 10月の鉱工業出荷は、前月比+1.8%と生産を上回る伸びとなったが、これは輸出が前月比+5.4%と前月(同−4.8%)とは様変わりにやや大きく増加したためで、国内向け出荷は同+0.9%の増加にとどまった。
 この国産品の国内向け出荷に輸入(前月比+4.9%)を加えた鉱工業製品の国内向け総供給は、前月比+2.6%と前月(同+2.0%)に続き2か月連続でやや大きく増加した。業種別に見ると、このところ増加が目立つのは、汎用・生産用・業務用機械、電気機械、輸送機械など資本財と耐久消費材である。

【乗用車の購入を除くと、消費増税前の消費財買い急ぎの動きはまだ目立たない】
 国内の需要動向を見ると、家計消費関係では10月の小売業販売額が前年比+2.3%と3か月連続して前年を上回った。また10月の乗用車新車登録台数は年率464万台と高水準の7〜9月期平均(440万台)を更に+5.5%上回った。
 他方、10月の「家計調査」の実質消費支出(全世帯)は、前年を+0.9%上回ったが、季調済み前月比は横這いであった(図表2)。
 乗用車の購入を除くと、家計消費には消費増税前の駆け込み需要はまだ感じられない。

【消費者物価の上昇が実質ベースの消費、所得、賃金を圧迫】
 このところ全国消費者物価がジリジリと上昇し、6月以降前年比がプラスとなったが、10月は前年比が+1.1%に達した。これが、実質ベースの家計の所得と消費を圧迫し始めている。
 10月の実質可処分所得(勤労者世帯)は、前年比−1.4%と3か月連続して前年を下回った(図表2)。他方、実質消費支出はある程度維持されているため、平均消費性向は3か月続けて上昇している。
 10月の「毎勤」によると、現金給与総額の前年比は、賞与が前年比+3.2%増となったため、定例給与は同−0.1%減となったにも拘らず、全体として同+0.1%の微増となった。
 しかし、消費者物価の上昇率が高まっているため、実質賃金は前年比−1.3%と4か月連続して前年を下回った(図表2)。

【雇用情勢はジリジリと改善】
 他方、雇用情勢は経済の拡大を反映してジリジリと回復を続けている。10月の「毎勤」と「労調」によれば、常用雇用者、就業者、雇用者の前年比は、それぞれ+1.0%増、+0.7%増、+0.9%増と前年を上回っており(図表2)、季調済み前月比はそれぞれ+0.2%、+0.1%、+0.2%と微増した。
 また10月の完全失業率は、休職中の人々が再び職を求めて労働市場に復帰する傾向が強まっていることから労働力人口が増えているため、就業者の増加にも拘らず失業者も増加し、前月比横這いの4.0%であった(図表2)。10月の新規求人倍率は1.59、有効求人倍率は0.98と、それぞれ前月比0.04%ポイントと0.03%ポイントの改善となった。

【設備投資の趨勢は緩やかな回復傾向】
 投資動向を見ると、7〜9月期の実質設備投資はGDP統計の1次速報値で前期比+0.2%と3四半期連続の増加となったが、2次速報値の資料となる7〜9月期の「法人企業統計」では、前期比−0.5%と4四半期振りの減少となった。間もなく公表されるGDP統計の2次速報値では下方修正される可能性が高い。
 しかし、10月の資本財(除、輸送機械)の国内向け総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)は、前月比+10.4%と大きく増加した(図表2)。また先行指標である機械受注(民需、除く船舶・電力)は、4〜6月期に前期比+6.8%、7〜9月期に同+4.3%と2四半期連続して増加している(図表2)。
 これらの事から判断すると、設備投資は7〜9月期に下方修正されることがあっても、10〜12月期に着実に増加し、回復の趨勢は変わらないと見られる。

【駆け込み需要の住宅投資、大型補正予算執行中の公共投資は確りした伸び】
 10月の新設住宅着工数(年率)は、103.7万戸と、高水準の4〜6月期(98.1万戸)と7〜9月期(99.4万戸)を更に上回った(図表2)。明年4月の消費税引き上げ前の引き渡しを狙って、着工が増えており、10〜12月期と明年1〜3月期の住宅投資はかなり伸びそうである。
 10月の公共機関からの建設工事受注額(大手50社調査)は、前月(前年比+51.3%)に続き、前年比+56.1%と5割を上回る増加を続けている(図表2)。前年度末に成立した13兆円の補正予算の執行がピークを迎えていると見られる。7〜9月期まで7四半期続けて高い伸びを続けている公共投資は、10〜12月期も大きく伸びそうである。

【10月の貿易収支は前月比やや改善】
 最後に外需の動向を見ると、10月の貿易収支(通関ベース、季調済み)は、輸出が前年比+1.5%、輸入が同+0.5%となり、赤字額は−4.9%と小幅ながら縮小した。
 10月の企業物価指数によると、円ベースの輸出価格は前月比−0.7%下落、輸入価格は同−1.0%下落と両方とも下落しているが、輸出価格の下落幅の方がやや小さい。
 従って、10月の上記貿易収支を数量ベースに直しても、輸出の方が輸入よりも伸びが高く、貿易収支の赤字は縮小したとみられる。
 参考までに、上記の鉱工業製品の輸出入を見ても、10月は輸出が前月比+5.4%、輸入が同+4.9%と輸出の伸びの方が高く、収支は改善している。
 7〜9月期に3四半期振りにマイナスとなった純輸出の成長寄与度は(図表3)、10月には僅かに好転したように窺われる。