2013年11月版
7〜9月期の成長は外需の減少を主因に一時的に鈍化した模様

【鉱工業生産の増勢は10〜12月期に向かって徐々に高まる方向】
 国内需要に主導された景気回復が続いているが、円安に伴う輸出数量の立ち直りが遅れているため、7〜9月期の回復のテンポは全体として緩やかなになったようである。
 9月の鉱工業生産は、前月比+1.5%とやや大きく増加し、7〜9月期の前期比は+1.8%と前記(同+1.5%)をやや上回った。製造工業生産予測調査によると、10月は前月比+4.7%の大幅増加となり、11月は同−1.2%の反動減となるものの、10〜11月平均は7〜9月期平均比+4.8%の大幅上昇となる(図表1)。このところ製造工業生産予測の増加率は、鉱工業生産実績の増加率を下回る傾向が続いているので、予測ほどの大幅上昇にならない蓋然性が高いが、10〜12月期の生産上昇が加速する可能性はあると思われる。
 業種別に見ると、情報通信機関など資本財(除輸送機械)の生産増加が目立つ。

【鉱工業出荷は国内向けが増加、輸出は減少】
 9月の鉱工業出荷も、前月比+1.6%と生産同様にやや高い伸びとなったが、これは国内向け出荷が前月比+7.4%とかなり伸びたためで、輸出は同−4.8%と大きく落ちた。7〜9月期をくくって見ても、国内向けが前期比+0.9%の増加となったのに対し、輸出は同−1.4%と奮わない。業種別にみると、7〜9月期の輸出が減少した主な品目は、鉄鋼、非鉄、金属製品などの主として新興国向けの生産財である。
 9月の国産品の国内向け出荷に輸入を加えた鉱工業製品の国内向け総供給は、輸入が前月比+0.8%の増加にとどまったため、全体は同+2.2%の増加となった。また、7〜9月期をくくって見ると、輸入が前期比−0.1%の微減となったため、全体は同+0.7%の低い伸びにとどまった。業種別に見ると、やや高い伸びを示したのは情報通信機械、電子部品・デバイスなどの資本財と金属製品などの建設財である。

【7〜9月期の実質家計消費は微減】
 国内の需要動向を見ると、9月の家計消費は確りした動きを示した。小売業販売額は前月比+1.8%の増加、前年比+3.1%の増加となった。また、9月の「家計調査」の実質消費支出(全世帯)は、前月比+1.6%の増加、前年比+3.7%の増加となった。
 しかし、7〜9月期をくくって見ると、6、7月の減少が大きかったため、前期比−0.2%の微減となった。
 他方、9月の実質可処分所得(勤労者世帯)は、前年比−0.4%の減少となり(図表2)、消費性向は前年よりも3.5%ポイント高まった。

【消費者物価の上昇に喰われ「実質」賃金は減少】
 9月の現金給与総額(「毎勤」全産業)は前年比+0.1%の微増にとどまり、実質ベースでは同−1.2%の減少となった(図表2)。このところ消費者物価の前年比がプラスに転じてきたため、実質ベースの賃金・所得は圧迫されている。
 7〜9月期の全国消費者物価は、前年比+0.9%と5四半期振りの上昇となり、実質賃金は前年比−1.3%と3四半期振りの下落となった(図表2)。本年の夏期賞与は前年比+0.3%と3年振りに増加したが、定例給与が増加していないため、実質ベースの賃金総額は消費者物価の上昇につれて減少している。

【雇用は緩やかながら引き続き改善】
 9月の雇用は、「労調」の雇用者が前年比+1.0%、就業者が同+0.8%、「毎勤」の常用雇用者が同+1.0%といずれも前年水準を上回っているが、季調済み前月比では就業者が+0.3%と増加しているのに対し、雇用者は同−0.3%、常用雇用者は同−0.2%の減少であった。
 しかし、7〜9月期の平均を前期の平均と比較してみると、雇用者が+0.3%、就業者が+0.1%、常用雇用者が+0.3%といずれも増加しており、雇用は緩やかながら引き続き改善していると見られる。完全失業率は、9月に4.0%と前月比1%ポイント低下したが、7〜9月期平均は4%となり前期比横這いである(図表2)。
 9月の有効求人倍率は0.98と前月比0.04%ポイント上昇し、引き続き改善している。

【民間設備投資は小幅の上昇】
 次に投資動向を見ると、足許の機械投資の動向を示す資本財国内総供給(国産品の国内出荷と輸入の合計、除輸送機械)は、9月に前月比−0.8%、7〜9月に前期比−1.0といずれも減少した(図表2)。
 他方、機械投資の先行指標である機械受注(民需、除船舶・電力)は、8月に前月比+5.4%となり、7〜8月平均も前期比+6.8%増加した4〜6月平均に比して、更に+4.1%増加した。
 また9月の建設工事受注高(民間)は、前年比+49.9%増、7〜9月期は同+29.1%と著増している。来年4月からの消費増税(引き渡しベース)を控え、発注急ぎがあると見られるが、年度内の民間建設工事が高い伸びを続けることは間違いない。
 従って、4〜6月期に6四半期振りに増加に転じた民間設備投資は、7〜9月期にも増勢を続けたものと見られる。

【住宅投資と公共投資は引き続き堅調】
 住宅投資も、9月の新設住宅着工戸数が、建設着工の消費増税前の駆け込みと同じ現象で急増し、1044千戸(年率)に達したことから見て(図表2)、7〜9月期も増加を続けたと思われる。
 公共投資は、公共機関からの建設工事受注額(大手50社ベース)が、9月に前年比+51.3%、7〜9月期に同+29.9%と高い伸びを続けていることから見て(図表2)、7〜9月期も大きく増加したと思われる。前年度末に成立した13兆円に達する補正予算の執行は、現場の人手不足などから遅れ気味のようなので、息切れが起きるのは来年に入ってからのことと見られる。

【貸出、マネーストックの前年比は足踏み】
 「異次元金融緩和」によって、マネタリ―ベース平残の前年比は、9月に前年比+46.1%に達し、つれて日銀当座預金平残も度+139.2%に達している。
 しかし、銀行・信金貸出平残の前年比は7月から9月まで+2.0%で横這いとなっており、マネーストック(M2)平残も6月から9月まで前年比3.7〜3.8%で伸び悩んでいる。「異次元金融緩和」が貸出やマネーストックの伸びを高め、総需要の拡大を加速しているとは、今のところ見られない。
 他方、企業物価や全国消費者物価(除生鮮食品)のインフレ率(前年比)は、円安に伴う輸入物価の上昇からジリジリと上昇してきたが、円高修正の一巡もあって、7月から9月まではインフレ率がほぼ横這いとなっている。


【7〜9月期の「純輸出」の成長寄与度は3四半期振りにマイナスの見込み】
 最後に外需(純輸出)の動向を見ると、9月の経常収支(季調済、以下同じ)は1252億円の赤字と本年2月(207億円の赤字)以来7か月振りの赤字となった。また7〜9月期は5604億円の黒字となったが、前期(2兆2369億円の黒字)に比べれば−74.9%の減少である。
 これは、7〜9月期の輸出が前期比−0.1%減少し、輸入が同+5.1%増加したため、貿易収支の赤字が2兆8348億円と前期(1兆8550億円の赤字)比+52.8%拡大したことが主因である。
 企業物価指数によって7〜9月期の円ベースの輸出入物価を見ると、輸出物価は前期比−0.7%の下落、輸入部下は同−0.6%の下落と共に微減した。
 従って、金額ベースの貿易収支の赤字拡大は数量ベースでの赤字拡大を反映していると思われる。因みに、前述の鉱工業製品(数量ベース)の輸出入も、7〜9月期は輸出が前期比−1.4%、輸入が同−0.1%となっており、収支は前期比悪化している。
 このため、7〜9月期の実質GDP統計の「純輸出」の成長寄与度は、3四半期振りにマイナスに転じたと見られる。数量ベースの輸出入に対する円安の価格効果は、米国の景気回復の遅れ、EUの停滞持続、新興国の成長鈍化などによるマイナスの所得効果によって相殺されているようだ。

【7〜9月期は外需を主因に成長率は一時的に鈍化】
 以上の結果、11月14日(木)に公表される予定のGDP統計では、「純輸出」がプラス寄与からマイナス寄与に転じ、国内需要も家計消費、設備投資を中心にやや伸びが鈍る懸念があるので、実質成長率は1〜3月期(年率+4.1%)、4〜6月期(同+3.8%)に比して大きく低下する蓋然性が高い(図表3)。
 もっとも、7〜9月期の成長足踏みは一時的で、10〜12月期と明年1〜3月期は、消費増税前の駆け込み需要で家計消費、住宅投資などを中心に国内需要の伸びが高まるので、再び高めの実質成長整率が予想される。
 懸念されるのは、そのあと明年4〜6月期以降の反動的落ち込みがどの程度となり、その後の復元力がどの程度かということである。