2013年10月版
消費増税前の駆け込み需要を期待し、耐久性の高い製品に増産の計画

【年度末に向け消費増税前の駆け込み需要を期待する企業】
 4〜6月期GDP統計の2次速報値では、設備投資と在庫投資が上方修正されたことを主因に、実質成長率が+2.6%から+3.8%に大きく上方修正されたが、続いて公表された9月調査「日銀短観」では、本年度上期(4〜9月)の全規模全産業の売上計画が3か月前の6月調査時の前年比+1.3%から同+2.1%へ上方修正され、更に下期は同+2.9%から同+3.5%へ上方修正されて、伸び率が加速する計画となっている。
 下期の加速は、大企業製造業の売上計画によると、輸出の上方修正(+0.4%ポイント)よりも国内向け売上高の上方修正(+1.1%ポイント)による面が大きい。これは、自動車など耐久消費材や住宅で明年4月の消費税引き上げ前の駆け込み需要が見込まれることよるところが大きいためと見られる。

【耐久財を中心に9月と10月の生産は急増する予測】
 8月の製造工業予測調査と鉱工業出荷には、その走りと見られる動きが出ている。
 8月の鉱工業生産は前月比−0.7%の小幅減少となったが、製造工業生産予測調査によると、9月は同+5.2%、10月は同+2.5%と大幅に上昇する予測となっている(図表1)。
 この大幅上昇を主導する業種は、輸送機械(乗用車、トラックなど)、情報通信機械(携帯電話、カーナビ、デスクトップ型パソコンなど)、汎用・生産用・業務用機械、電気機械(セパレート型エアコンなど)など、家庭や企業における一般的な耐久財で、消費増税前の駆け込み需要を発生し易い分野である。

【自動車、情報通信機械など耐久消費財の国内向け出荷が伸びる】
 8月の鉱工業出荷は、生産とは逆に前月比+0.4%の小幅増加となった。これを輸出と国内向け出荷に分けると、輸出は前月比+4.0%とかなり増加したが、国内向け出荷は同−0.8%の減少であった。
 しかし、その中にあって、輸送機械は国産品の国内向け出荷が前月比+1.8%の増加、輸入が同+0.2%の増加、合計+2.0%の増加となり、また情報通信機械は、輸入が同−1.0%の減少となったものの、国産品の国内向け出荷が同+11.4%と飛躍的に伸びたため、合計で同+4.9%の増加となった。同じ傾向は、耐久消費材をくくった項目で、国産品の国内向け出荷が同+2.2%の増加となり、輸入が−1.1%の減少となったにも拘らず、国内向け総供給が同+1.0%の増加になったことも反映されている。
 これらは、前述した9月と10月の生産予測調査と共通した特色であり、消費増税前の駆け込み需要を先取りした企業の動きと見られる。

【乗用車の需要に回復の兆し】
 需要動向を見ると、8月の家計消費では、猛暑に伴う夏物の飲食料品や衣料の売れ行き増加から、小売業販売額が前年比+1.1%の増加となった。しかし「家計調査」では、猛暑が消費者の外出を鈍らせたためか、実質消費支出は季調済み前月比で−0.5%の減少となり、消費水準指数は前年比−1.4%の下落となった(図表2)。
 ただ、こうした中にあって、8月の乗用車新車登録台数(季調済み、年率)は4497千台と前3か月(5〜7月)の平均水準を上回り、前年比マイナス幅も−0.6%に縮小した。消費増税を控え、乗用車の売上げは明年3月に向かって高まると見られ、前述した自動車メーカの動きは、それを先取りしたものであろう。

【労働市場への復帰が増加し完全失業率が上昇】
 8月の実質可処分所得(勤労者世帯)は前年比−1.4%と6か月振りに前年水準を下回った(図表2)。背後にある賃金・雇用の動向を見ると、8月の実質賃金(「毎勤」)は前年比−1.6%と2か月連続して前年水準を下回った(図表2)。これは、夏期賞与の支払い時期を過ぎ、所定内給与の低さが表面化したためと見られる。
 他方、8月の雇用は、「毎勤」の常用雇用者、「労調」の就業者、雇用者が、夫々前年比+0.8%、同+0.5%、同+0.9%と緩やかな回復基調を続けている(図表2)。8月の新設求人倍率(季調済み)と有効求人倍率(同)も、引き続き前月比に比し緩やかに上昇している。
 しかし、8月の完全失業率(季調済み)は4.1%と前月比0.3%ポイント上昇した(図表2)。これは、雇用情勢の回復につれて、働きに出て来る(労働市場に復帰して来る)人がジリジリと増加しており、8月の非労働力人口は前月比−0.3%減少した反面、労働力人口は同+0.3%増加し、つれて完全失業者が同+8.4%増加したためである。

【設備投資の立ち直りは緩やか】
 次に投資動向を見ると、4〜6月期の設備投資(実質)はGDP統計の2次速報値で、1次速報値の前期比−0.1%の減少から逆に同+1.3%の増加へ大きく上方修正され、成長率への寄与度(年率)は−0.0%から+0.7%(寄与率18%)に高まった。
 7〜9月期に入ってからの機械に対する投資を示す資本財(除輸送機械)の国内総供給(国産品の国内向け出荷+輸入)を見ると、7月は前月比+7.8%、8月は同−4.7%と振れているが、7〜8月の平均は4〜6月期の平均と同水準である。
 9月調査「日銀短観」によると、全規模製造業・非製造業・金融機関の本年度設備投資計画(ソフトウェアを含み、土地投資額を除く)の合計は、前年比+6.9%の増加と前回(6月)調査に比べて0.8%ポイント上方修正された(昨年度は同+4.3%増加)。
 4〜6月期に立ち直った設備投資は、その後も引き続き緩やかに増加していると見られる。

【住宅投資と公共投資は引き続き堅調】
 昨年4〜6月期から4四半期連続して増加してきた住宅投資は、本年4〜6月期の2次速報値で前期比−0.3%と5四半期振りの減少となった。
 これは、1〜3月期の新設住宅着工戸数(年率)が904千戸と、前期(918千戸)比−1.5%の微減となったことの反映と見られる。しかし、その後4〜6月期は981千戸と前期比+8.5%の著増となり、7〜8月の平均も970千戸と高水準を維持している(図表2)。今後は消費増税前の駆け込みもあるので、7〜9月以降の住宅投資は、年度末まで緩やかな増勢を維持するものと思われる。
 他方、4〜6月期まで6四半期連続して増加している公共投資は、8月の公共建設工事受注額(大手50社)が前年比+23.9%と著増していることから見て(図表2)、7〜9月期もかなり増加したと見られる。

【数量ベースの貿易収支の回復を交易条件の悪化が打ち消すかたち】
 最後に外需の動向を見ると、8月の経常収支(季節調整済み、以下同じ)は3518億円の黒字と前月比+5.4%の増加となったが、7〜8月の平均は3428億円の黒字と4〜6月の平均(7456億円の黒字)の半分以下に過ぎない。7〜8月の貿易収支の赤字平均が7431億円と4〜6月期の平均(6183億円の赤字)を20.%上回ったうえ、7〜8月の所得収支の黒字平均が1億3118億円と4〜6月期の平均(1億5256億円)を14.0%下回ったためである。
 通常、為替相場下落(円安)の貿易収支への影響は、当初は交易条件の悪化で貿易収支が悪化した後、数量ベースの輸出の伸びが輸入の伸びを上回り始め、貿易収支(交易条件と数量ベースの収支の合計)が好転し始める(いわゆる「Jカーブ効果」)。
 日本の現状は、円安に伴い輸入物価の上昇が輸出物価の上昇を上回る交易条件の悪化が、縮小しながらもまだ続いている反面、数量ベースの貿易収支の好転がようやく始まっている段階にあると見られる。8月は数量ベースで見ると輸出の伸び(前年比+1.9%)が輸入の伸び(同−1.4%)を僅かに上回ったが、交易条件の悪化から金額ベースでは輸出の伸び(同+14.7%)が輸入の伸び(同+16.0%)を下回っている。
 前述した鉱工業製品の場合も、数量ベースであるため、8月の輸出の伸び(前月比+4.0%)が輸入の伸び(同−2.0%)を上回った。
 言うまでもなく、実質GDPにおける「純輸出」は、数量ベースの経常収支であり、これが数量ベースの貿易収支の立ち直りによって好転してくるのが、実質GDPベースにおける「円安」の効果である。