2013年7月版
4〜6月期は内外需揃って比較的高い成長

【鉱工業生産は4か月連続して上昇】
 アベノミクスの異次元的金融緩和(第1の矢)と財政出動(第2の矢)の影響は、少しずつ実体経済面に現れている。しかし、これで2年以内に2%のインフレ率を実現するのに十分かどうか、何らかの大きな副作用が出るのではないかは、まだ分からない。
 5月の鉱工業生産は前月比+2.0%の増加と4か月連続で上昇した。製造業生産予測調査によると、6月は同−2.4%の減少、7月は同+3.3%の増加となっている。6月の鉱工業生産がこの予測通りになったと仮定すると、4〜6月期は前期比+1.8%の増加となり、生産は2四半期連続の上昇となる(図表1)。
 6月と7月の生産予測に振れをもたらしている主な業種は、輸送機械、汎用・生産用・業務用機械の6月低下と7月上昇であり、緩やかな上昇基調の中での短期調整と見られる。

【5月は資本財(除輸送機械)の国内向け総供給が伸び、鉱工業製品の貿易収支が改善】
 5月の鉱工業出荷は前月比+0.8%と2か月連続して減少したあと、増加した(図表1)。
 鉱工業出荷内訳表によって国内向け出荷と輸出向け出荷に分けて見ると、輸出は前月比+3.4%と大きく伸び、国内向けが同−0.8%と減少した。この国内向け出荷に輸入を加えた国内向け鉱工業総供給は、輸入が前月比+1.1%の増加となったため、同+0.6%と4か月連続の増加となった。
 5月の国内向け総供給が最も大きく伸びたのは、資本財(除輸送機械)の前月比+6.9%増(国産品同+0.9%、輸入同+14.4%)であった(図表2)。国内の機械設備投資の立ち直りが注目される(後述)。
 また5月の鉱工業輸出は前月比+3.4%と、輸入の同+1.1%を大きく上回り、鉱工業製品の貿易収支は好転した。後述のように、国際収支ベースの貿易収支の赤字(季調済み)も、5月は大きく縮小した。円安の効果が、輸出数量の伸びに現れてきたのかどうかが、注目される。

【家計消費と世帯主以外の収入の底固い伸び】
 需要動向を見ると、まず家計消費は1〜3月の実質GDP統計で前期比+0.9%の増加を見せたあとも、底固い動きを続けている。
 5月の「家計調査」では、実質消費支出(全世帯)が季調済み前月比で+0.1%増となり、住居、自動車購入、贈与金、仕送り金を除いたベースでは、前月比+1.3%の大幅増加となった。「販売統計」では、5月の小売業販売額が、前年比+0.8%と5か月振りのプラスに転じ、季調済み前月比では+1.5%の増加となった。
 「家計調査」の実質可処分所得(勤労者世帯)も、5月は前年比+3.1%と3か月連続して前年を上回った(図表2)。これは、世帯主の収入よりも、配偶者の収入の増加が寄与している。世帯主の賃上げではなく、配偶者の雇用機会の増加が影響しているように見える。

【雇用は緩やかに改善、賃金の立ち直りは遅い】
 5月の新規求人数(季調済み)は前月比+2.1%、月間有効求人数(同)は同+2.2%と増加し、新規求人倍率(同)は前月比0.02%ポイント増えて1.42%、有効求人倍率(同)は0.0.1%ポイント増えて0.90%となった。労働力の需給はジリジリと改善している。
 現実の5月の雇用は、「労調」の就業者数が前年比+0.7%、季調済み前月比0.0%、雇用数が同+1.1%と同+0.1%、「毎勤」の常用雇用者数が同+0.6%と同−0.1%と改善は足踏み気味である。
 「労調」の5月の完全失業者数は、前年比−6.1%、季調済み前月比−0.4%と減少したが、完全失業率は前月と同じ4.1%にとどまった。5月の「毎勤」の実質賃金は、「特別に支払われた給与」(賞与)の増加から、前年比+0.4%の上昇となったが、定例給与の立ち直りは依然として見られない。

【5四半期連続して減少した設備投資は4〜6月期に底入れ】
 次に投資動向を見えると、実質GDP統計で1〜3月期まで5四半期連続して減少してきた設備投資は(図表3)、前述した資本財(除輸送機械)の国内向け総供給の動向(図表2)から判断すると、4〜6月期に底入れしそうである。同指標は、本年1〜3月期に前期比+2.1%と3四半期振りに増加したが(図表2)、4〜5月の平均は1〜3月平均を更に+7.2%上回る大幅増加となっている。
 5月の民間からの建設工事受注額(大手50社)は、前年比+26.6%と1〜3月期の同+1.2%、4月の同+3.2%に比して大きく増加した。
 6月調査「日銀短観」では、本年度の設備投資計画(ソフトウェアを含み土地投資額を除く、製造業・非製造業・金融機関の合計)が、3月調査の−0.2%から+6.1%に上方修正された。

【住宅投資と公共投資は引き続き堅調】
 住宅投資と公共投資は、引き続き増勢を続けている。
 5月の新設住宅着工戸数(季調済み年率)は、1027千戸とリーマンショックで落ち込んで以来5年振りに百万戸の大台に乗った(図表2)。
 5月の公共機関からの建設工事受注額(大手50社)は、前年比+32.7%と1〜3月期(同+0.2%)に比して著しい伸びを示し、12年度大型補正予算執行の影響を窺わせる。

【5月の経常収支黒字は拡大】
 5月の経常収支(季調済み)は6233億円の黒字と4月(8527億円)に比し黒字幅は縮小したが、4〜5月の黒字合計14,760億円は、昨年の7〜9月、10〜12月、本年1〜3月の黒字合計を2か月間で既に上回っており、6月の黒字が加われば、昨年1〜3月(16,355億円)、4〜6月(15,374億円)の黒字を大幅に上回るものと推測される。
 これは、既に述べた鉱工業製品の貿易収支改善からも分かるように、貿易収支全体の赤字が縮小しているうえ、海外投資の拡大に伴う所得収支の黒字拡大が続いているためである。
 1〜3月期の実質GDP統計では、外需(純輸出)の成長寄与度が4四半期振りにプラスに転じたが(図表3)、4〜6月期にはプラス寄与度が更に拡大する可能性が高い。

【ジワリと上昇するマネーストックと銀行貸出の増加率】
 金融面の指標を見ると、アベノミクスが打ち出された本年1〜3月期以降、「異次元的金融緩和」でベースマネーの前年比が飛躍的に高まっているが、これと併行して銀行貸出とマネーストックの前年比もジリジリと上昇している(下表)。
 また既に述べたように、大型補正予算の効果で公共投資の伸びも高まっている。
 これらアベノミクスの第1の矢と第2の矢が、4〜6月期の内外需の立ち直り傾向をどのように支えているのか、今後注意深く見て行かなければならない。

【4〜6月期の高成長の可能性とアベノミクスの関係を分析することが大切】
 4〜6月期の実質GDPは、これまで減少していた設備投資が増加に転じ、家計消費、住宅投資、公共投資も底固いことから、国内需要の成長寄与度は1〜3月期より高まりそうである。
 他方、1〜3月期にプラスの成長寄与度に転じた外需は、4〜6月期もプラスの成長寄与度を続けよう。
 このため、4〜6月期は1〜3月期(年率4.1%成長)に続き、比較的高い成長となる可能性が高い。
 このような成長加速とアベノミクスの因果関係を冷静に分析することが、今後の成長の持続性や明年4月の消費税増税に対する抵抗力を判断する上で、極めて大切である。