2013年5月版
アベノミクスの影響はあまり見られず、回復は引き続き緩やか
【鉱工業生産の回復テンポは一段と緩やか】
年明け後の景気は緩やかな持ち直しを続けており、1〜3月期の実質成長率は前期(年率+0.2%)のような横這い圏内の動きを脱し、はっきりとしたプラス成長となった模様である。
「アベノミクス」の影響は、円安、株高を通じ、輸出企業の採算好転と高額品消費の持ち直しをもたらし、ベースマネーの増加は銀行貸出とマネー・ストックの前年比をジリジリと押し上げているが、それらが企業や家計の一般的支出行動を積極化させる動きはまだ確認できない。
3月の鉱工業生産は、前月比+0.2%と製造工業生産予測指数の同+1.0%を下回る微増にとどまった。4月と5月の同予測指数は、それぞれ同+0.8%、−0.3%と引き続き緩やかな上昇にとどまる見込みとなっており、昨年4月以降の生産調整開始前の水準には当分とどきそうもない(図表1)。
【1〜3月期の鉱工業製品の貿易収支は久方振りに好転】
3月の鉱工業出荷も前月比+0.3%の増加にとどまったが、これは輸出向け出荷が同+2.3%の増加であったにも拘らず、国内向け出荷が−0.4%の減少となったためである。財別に見ると、国内向け出荷は建設財(同+5.8%)を除く全ての財で振るわなかったが、輸出は各財がおしなべて増加した。
ただし、1〜3月期をくくって見ると、輸出向けは前期比+6.7%とやや大きく伸びたほか、国内向けも同+2.7%と3四半期振りの増加となり、全体で同+3.2%と4四半期振りに増加した。
国産品の国内向け出荷に鉱工業製品の輸入を加えた国内向け総供給は、国産品出荷が上記の通り振るわなかったため、3月は前月比−0.7%の減少となった。しかし、ここでも1〜3月をくくってみると、上記の通り国産品が増加したうえ、輸入も前期比+3.5%となったので、全体は前期比+3.0%と3四半期振りの増加となった。また1〜3月の鉱工業製品の輸出入は、輸出が前期比+6.7%、輸入が同+3.5%となり、鉱工業製品の貿易収支は6四半期振りにはっきりと好転した。
【1〜3月期の家計消費は堅調】
国内の需要動向を見ると、まず「家計調査」における3月の実質家計消費(全世帯)は、季調済み前月比で+2.0%増と3か月連続の増加となり、消費水準指数(同)は前年比+5.3%の増加とこれも3か月連続して前年水準を上回った(図表2)。1〜3月期の家計消費は、前期(実質GDPベースで前期比+0.5%)を上回る堅調を示したと見られる。
なお、物の消費を示す「販売統計」を見ると、3月の小売業売上高は前年比−0.3%と前月(同−2.2%)より減少幅を縮小したものの、サービス消費を含む「家計調査」に比べると弱い。他方、消費財の国内向け総供給(国産品出荷+輸入)を見ると、3月は前月比−2.7%減となったが、1〜3月期をくくると前期比+4.1%増と4四半期振りの増加となっており、物の消費の面でも1〜3月期はかなり堅調であったことが窺える。
【雇用・賃金の回復テンポは遅く、可処分所得は冴えない動き】
家計の消費支出の動向に比べ、家計の可処分所得は冴えない動きをしている。3月の実質可処分所得(勤労者世帯)は前年比+0.6%の上昇であったが、1〜3月期全体では前年水準を−0.4%下回った(図表2)。消費性向は1〜3月期に上昇した。
可処分所得の動きが冴えないのは、雇用・賃金の回復が遅々としているためと見られる。3月の「労調」の就業者数と雇用者数、「毎勤」の常用雇用者数は、いずれも前年を上回っているが(前年比それぞれ+0.5%、+0.7%、+0.3%)、季調済前月比は揃って前月を下回っている(前月比それぞれ−0.0%、−0.2%、−0.2%)。1〜3月中の前月比の推移も、就業者と雇用者はやや増加したが、常用雇用者は減少した。このように雇用回復が足踏みしているため、完全失業率の平均は昨年7〜9月期から本年1〜3月期まで4.2%で横這っている(図表2)。
他方、実質賃金の前年比は4四半期続けて前年水準を下回っていたが、3月には「特別に支払われた給与」(賞与)の増加と消費者物価の下落(前年比−0.9%)に助けられて、前年比+0.3%となり、1〜3月期も同+0.2%と5四半期ぶりに前年比増加となった(図表2)。
【設備投資は横這い圏内、住宅投資と公共投資は増勢持続】
投資動向を見ると、足許の機械に対する設備投資の動向を示す資本財(除、輸送機械)の国内向け総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)の前月比は、このところ月ごとに増減を繰り返しており、3月には前月比−2.7%の減少となったが、1〜3月をくくると前期比+1.5%と3四半期振りの増加となった(図表2)。
先行指標の機械受注(船舶・電力を除く民需)は、昨年10〜12月期に前期比+2.0%と3四半期振りに増加したが、年明け後1〜2月の平均は10〜12月平均を−3.1%下回っており、まだ増勢に転じたとは判断できない。実質GDP統計で4四半期連続して減少している設備投資は、上記の資本財出荷の動きから推して、1〜3月期には横這い圏内の動きであったと見られる。
住宅投資は、1〜3月の新設住宅着工戸数が904千戸(季調済み年率)と10〜12月の918千戸に続いて高水準を維持していることから見て、1〜3月期も4四半期連続して増加したと見られる(図表2)。
公共投資は、1〜3月の公共工事受注額(大手50社)が急増した昨年8月頃までの高水準を維持していることから判断して(図表2)、1〜3月期も5四半期連続の増加になったと見られる。
【「純輸出」は1〜3月期も前期比悪化か】
最後に外需(GDPベースの「純輸出」)の動向を見ると、3月の輸出(季調済み)は前月比+.5.8%増となり、輸入(同)は同−1.3%と減少したため、貿易収支の赤字は2月より縮小した。しかし、1〜3月全体を見ると、輸出(同)の前期比+9.5%に対し、輸入(同)は同+14.3%と更に大きく伸びたため、貿易収支(同)の赤字は前期よりも拡大した。他方、所得収支(同)は大幅な黒字であるため、1〜3月の経常収支(同)は7328億円の黒字となったが、黒字額は前期比−32.1%の縮小となった。
次に「実質」GDPベースの純輸出を考えるため企業物価指数の円ベースの輸出入物価の動向を見ると、1〜3月の輸出物価は前期比+9.1%上昇し、輸入物価は同+11.4%上昇した。従って実質ベースでは、輸出は前期比+0.4%の増加、輸入は同+2.6%の増加となり、やはり貿易収支は悪化している。先に述べたように、1〜3月の鉱工業製品の貿易収支(実質ベース)は久しぶりに好転したが、全体ではまだのようだ。
【アベノミクスの影響は高額品消費以外にはまだはっきり見られない】
以上を総括してみると、1〜3月期の実質GDPは、6割を占める家計消費が堅調の上、住宅投資と公共投資も増勢を保つと見られるため、設備投資が引き続き低迷し、「純輸出」が立ち直らなくても、10〜12月期を上回るプラス成長になったと見られる。
アベノミクスの影響は、円安と株高にはっきり出ているが、円安は実質ベースの貿易収支を好転させるには至っていないようだ。他方、株高に伴う資産効果は、高額品を中心に堅調な家計消費をある程度支えている可能性がある。
円安に伴って企業採算は好転しているが、設備投資、雇用、賃金の回復は見られない。マネタリ―・ベースの供給増加に伴い、銀行貸出とマネー・ストックの前年比はジリジリと上昇しているが、これも企業の投資・雇用動向を積極化させるには至っていないようだ。