2012年12月版
景気に下げ止まりの気配

【鉱工業生産の下落は底を打った模様】
 5月から始まった鉱工業生産の急落に、底打ちの気配が出てきた。
 10月の鉱工業生産は、前月比+1.8%の増加と10月の製造業生産予測調査の同−1.5%の減少とは逆に、4か月振りの増加となった。11月と12月の製造業生産予測調査では、11月に同−0.1%とほぼ横這いになったあと、12月は再び同+7.5%の大幅上昇となる。仮に実績が予測通りになると、12月の水準は、生産が急落し始めた直前の4月の水準に近い(以上、図表1)。その場合、10〜12月期の平均は、前期比+0.8%と3四半期振りの増加となる。
 11月以降の実績が予測通り増加に転じるとは限らないが、鉱工業生産の急落は少なくとも底を打ったとみてよいであろう。また10〜12月期の実質GDPが、前期に続いて2四半期連続のマイナス成長となるかどうかも、11月以降の諸指標を見る迄は、判断出来なくなった。
 業種別に見ると、これ迄生産急落を主導してきた電子部品・デバイスと輸送機械(乗用車)が10月に夫々前月比+14.7%、同+1.1%と増加し、12月の生産予測調査でも両業種は増加する。両業種の生産調整は一巡したとみてよい。

【建設財、乗用車、精密機械を中心に国内向け出荷は底打ち】
 10月の鉱工業出荷は、前月比0.0%の横這いとなったが、内訳を見ると国内向け出荷が+0.1%と6か月振りに微増に転じ、輸出は−1.8%と引き続き下落傾向を辿っている。生産底打ちの主因は、輸出の立ち直りではなく、国内向け出荷に回復の気配が出ているためのようだ。
 国産品の国内向け出荷と輸入を合計した国内向け総供給を見ると、国産品は前月比+0.4%と6か月振りの増加となったが、輸入が同−5.1%とやや大きく減少したため、全体では前月比−0.1%の微減と5か月連続の減少となった。しかし、その中にあって国産品と輸入品が揃って増加しているのは、建設財(国産+7.0%、輸入+32.5%、合計+7.0%)、精密機械(同+12.7%、+28.8%、+18.0%)、輸送機械(同+3.1%、+7.3%、+3.7%)などである。
 公共投資と住宅投資の堅調を映じた建設財と、在庫調整が一巡した乗用車、精密機械などが内需立ち直りを主導している。

【10月の家計調査は消費性向の上昇を伴いやや増加】
 内需を需要項目ごとに見ていくと、10月の家計消費(全世帯、実質)は前年比−0.1%と前月(同−0.9%)に比して減少幅を縮小し、季調済み前月比では+0.6%の増加となった。10月の勤労者所帯の実質消費は、前年同月比+0.7%と前月(同+0.6%)に比し僅かに増加幅を拡大した。他方、10月の勤労者世帯の実質可処分所得は前年比−0.1%と前月(同−0.1%)と同じ微減となり、消費性向は前月に比し0.6%ポイント上昇した。

【雇用・賃金は緩やかな回復傾向】
 所得の背後にある雇用、賃金の動向を見ると、10月の雇用は、「労調」の就業者、雇用者、「毎勤」の常用雇用者が、夫々季調済み前月比で+0.5%、+0.6%、+0.2%と揃って増加した。製造業の雇用は、5月以降の生産急落を反映して、いずれの指標でも減少しているが、建設業、サービス業、医療・福祉などの分野で雇用が増加し、全体を押し上げている。
 10月の現金給与総額は、前年比+0.2%、実質賃金指数は、同+0.6%と前月のマイナスからプラスに戻った(図表2)。
 10月は可処分所得の微減、雇用・賃金の増加と両者は裏腹の動きとなったが、大きな方向性としては、家計消費と可処分所得は、雇用・賃金の緩やかな立ち直りを反映して、徐々に回復するのではないかとみられる。

【設備投資は弱含み、住宅投資と公共投資は堅調】
 投資動向を見ると、足許の機械に対する設備投資動向を示す資本財(除く輸送機械)の国内向け総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)は、7〜9月期に前期比−7.8%とやや大きく下落したあと、10月は前月比0.0%の横這い、7〜9月平均比−4.6%の減少となった。7〜9月期の設備投資は実質GDP統計(1次速報値)で前月比−3.2%の減少となったあと、10月も弱い動きをしているようだ。
 住宅投資は、10月の新設住宅着工戸数が978千戸と7〜9月平均(875千戸)比+11.8%の水準となったことから判断して(図表2)、4〜6月期(前期比+1.5%)、7〜9月期(同+0.9%)に続き、10〜12月期も3四半期連続の増加となる可能性が高い。
 10月の公共機関からの建設工事受注額(大手50社ベース)は前年比−39.7%と前月(−17.8%)に続いて落ち込んだが(図表2)、これは特例公債法案の未成立に伴って地方交付金が止まっているため、地方機関からの受注が同−73.3%と大きく落ち込んでいるためである。その後同法案は成立したため、交付金の給付につれて11月以降は急回復すると見られる。予算規模の大きさや建設財の出荷堅調から判断して、10〜12月期の公共投資は、7〜9月期(前期比+4.0%)に続き、4四半期連続の増加になるものと思われる。

【貿易収支の赤字幅拡大傾向はとまる可能性】
 最後に海外需要の動向を10月の輸出入(通関ベース)によって見ると、季調済みの前月比で見て、輸出は−2.8%、輸入は−7.8%、貿易収支の赤字は6242億円と前月(9590億円)よりも−34.9%縮小した。この10月の赤字額は、7〜9月平均の赤字額(6290億円)にほぼ等しい。
 前述の鉱工業製品の輸出入動向を見ても、10月は前月比で輸出が−1.8%、輸入が−5.1%と収支はやや好転した。10月の7〜9月平均比も、輸出が−3.1%、輸入が−4.6%と収支はやや好転している。
 11月以降の動向を見なければ判断は下せないが、4〜6月期、7〜9月期と2四半期続けて成長に対してマイナスの寄与度となっていた外需(純輸出)は(図表3)、10〜12月期には中立的になる可能性もあると思われる。