2012年11月版
景気後退のリスク高まる、7〜9月期のマイナス成長はほぼ確実

【10月の鉱工業生産は乗用車とその部品関連を中心に年初の1月比−11.2%の低水準となる予測】
 日本経済の景気後退のリスクは、徐々に高まっているように見える。
 9月の鉱工業生産は、前月比−4.1%と1か月前の製造工業生産予測調査の9月予測−2.9%を上回る大幅な下落となった。また今回の製造工業生産予測調査によると、10月は1か月前の予測の横這いよりも弱く、前月比−1.5%の低下となり、11月になって同+1.6%の上昇に転じる(図表1)。鉱工業生産の実績がこの予測通りになると仮定すると、10月の水準は年初の1月を−11.2%も下回ることになる。
 5月頃からの生産急落(図表1)を主導している業種は、乗用車とその部品関係の鉄鋼業、非鉄金属工業、プラスティック製品工業などである。エコカー補助金を見込んだ乗用車の駆け込み需要と、9月の補助金予算切れに伴うその反動減を見込んだ増産と減産が主因で、海外経済の減速に伴う輸出向けの減産も響いている。

【建設財と非耐久消費財を除き国内向け出荷が大幅に下落】
 9月の鉱工業出荷も前月比−4.4%の大幅下落となったが、国内向けと輸出向けに分けると、国内向けが同−4.6%と5月から5か月連続で大きく下落したことが目立つ。輸出向けは月ごとに一高一低を繰り返しており、8月の同+3.5%の増加のあと、9月は同−3.5%の減少となった。
 業種別には、生産と同様、乗用車とその部品関係の国内向け出荷の減少が目立つ。
 国産品の国内向け出荷に輸入を加えた国内向けの総供給を見ると、輸入が前月比+2.9%の増加となったものの、国産品の国内向け出荷が上記のように大きく減少したため、全体として同−4.0%の減少となった。
 財別に見ると、9月に国産品と輸入品の両方の出荷が前月比で増加したのは、復興需要旺盛な建設財だけである(夫々+1.8%、+6.4%)。また7〜9月期に国内向け総供給が前期より増加したのは、建設財と非耐久消費財である(夫々+1.4%、+0.9%)。

【7〜9月期の家計消費は6四半期振りに前期比減少か】
 需要動向を主要項目についてみていくと、まず家計消費では、9月の「家計調査」の実質消費支出(全世帯、季節調整済み)が、前月比−1.9%の減少となり、7〜9月期も前期比−0.8%の微減となった。しかし、勤労者世帯だけで見ると、9月は前月比+0.6%と前月(同+1.7%)に続いて増加し、7〜9月期の前期比も+0.4%の微増となった。
 「販売統計」を見ると、9月の小売業販売額は前年比+0.4%増と前月(同+1.7%)に比し増加幅は縮小し、7〜9月期も同+0.4%増と4〜6月期(同+3.1%)に比し増加幅を縮小した。また。エコカー補助金の終了に伴い、9月に前年比−3.4%と1年振りに前年を下回った乗用車新車登録台数は、10月も前年比−5.7%の減少となった。
 統計によって区々の結果が出ているが、総じて見れば、7〜9月期の実質家計消費は、乗用車の落ち込みを中心に前期比で減少したのではないかと思われる。

【賃金の低下、雇用回復の足踏みから7〜9月期の可処分所得は減少】
 消費の背後にある7〜9月期の可処分所得(勤労者世帯)は、前年比−0.5%と3四半期振りに前年を下回り(図表2)、季調済み前期比では−1.1%と減少した。勤労者世帯の7〜9月期の実質消費支出が前述の通り前期比+0.4%と微増したのは、平均消費性向が74.4%と前期(73.2%)より高まったためである。
 可処分所得を決める賃金・雇用の動向を見ると、9月の実質賃金(全産業)は前年比+0.2%と前月(同+0.5%)より増加幅を縮小し、7〜9月期は同−0.2%の減少となった(図表2)。
 雇用は、「労調」の就業者、雇用者、「毎勤」の常用雇用者が9月の季調済み前月比で夫々+6.1%、−0.3%、−0.3%、7〜9月期の季調済み前期比で夫々−0.2%、+0.3%、−0.2%と区々の動きとなったが、総じて見れば雇用の回復は足踏み状態である。9月の完全失業率も、前月と同じ4.2%であった。

【有効求人倍率が3年振りに悪化】
 限界的な労働力の需給を示す求人倍率を見ると、新規求人が6月から減少していることを反映し、新規求人倍率は5月の1.35をピークに低下(悪化)していたが、9月は新規求職も増加に転じたため、1.24と前月(1.33)比0.09ポイントの大幅低下(悪化)となった。
 このような新規求人、求職の動向を反映し、有効求人は7月から減少し始め、他方有効求職は9月に6か月振りの増加となったため、有効求人倍率は0.81と前月(0.83)に比し低下(悪化)した。有効求人倍率は09年9月から一貫して回復傾向を辿っていたので、この悪化は実に3年振りである。
 鉱工業生産の急落を中心とする景気後退の兆しは、遅行指標である雇用面にも現れてきたと言えよう。

【7〜9月期の設備投資は減少】
 投資動向を見ると、前期に増加した設備投資(図表3)は、7〜9月期に再びやや減少したと見られる。機械に対する投資を示す資本財総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計、輸送機械を除く)は、9月に前月比−3.8%と2か月連続して減少し、7〜9月期の前期比も−7.8%と前期の増加(同+4.8%)から減少に転じた(図表2)。
 先行指標の機械受注(民需、除船舶、電力)は、4〜6月期に前期比−4.1%と減少したあと、7〜9月期も同−1.1%の減少となった。10〜12月期の見通しは同+5.0%となっており、実績がその通りになれば大勢横這い圏内の動きとなる。

【住宅投資は強含み、公共投資は増加傾向】
 前期に増加した住宅投資は、新設住宅着工戸数が引き続き高水準で推移していること(図表2)から判断して、7〜9月期も強含みの動きをしているのではないかと見られる。
 また復旧復興投資を中心に2四半期連続して増加している公共投資は、先行指標の公共工事受注が9月に前年比−17.8%と9か月振りに減少した(図表2)。これは特例公債法案の成立の遅れから、地方交付税の交付が遅れているため、地方自治体からの受注が前年比−54.6%と半減したためと見られる。国からの受注は同+60.3%と高水準である。
 このような一時的事情が解消すれば、復旧復興予算の規模から推して、公共工事の増加傾向は続くと見られる。7〜9月期も、過去の高水準の受注を反映して、公共投資は増加したと思われる。

【成長に対する外需のマイナス寄与度が拡大】
 外需の動向を季節調整済みの名目国際収支ベースで見ると、9月の輸出は前月比−3.0%減、輸入は同+11.2%増となり、貿易収支の赤字は9774億円と前月(2356億円の赤字)から大きく拡大した。このため経常収支は、1420億円の赤字に転落した。
 7〜9月期は、輸出が前期比−7.2%減、輸入が同−3.3%減、貿易収支の赤字は同+53.4%増の1兆899億円となった。このため経常収支の黒字は、同−39.5%減の9158億円に縮小した。
 7〜9月期の実質GDPベースの純輸出(外需)は、成長に対するマイナスの寄与度が前期(年率−0.3%)よりも拡大すると見られる。

【7〜9月期は東日本大震災以来5四半期振りのマイナス成長となろう】
 以上を総括すると、11月12日(月)に公表される7〜9月期の実質GDP(1次速報)の成長率は、外需のマイナス寄与度が拡大する上、内需も公共投資がプラスの寄与度となるほかは、住宅投資がゼロ近傍にとどまり、柱となる家計消費と設備投資がマイナスの寄与度となる公算が高いので、全体として東日本大震災によるマイナス成長以来、5四半期振りのマイナス成長となる蓋然性が高い。
 10〜12月期を展望すると、内需には立ち直る要因があまり見当たらないので、外需の持ち直しがない限り、2四半期連続のマイナス成長となり、景気後退が決定的となる事態もあり得よう。