2012年10月版
景気回復は足踏み、景気後退のリスクも

【自動車の減産を中心に鉱工業生産の下落が加速】
 日本経済は、景気後退の瀬戸際に立っているようにみえる。
 8月の鉱工業生産は、製造業生産予測調査の前月比+0.1%を大きく下回り、同−1.3%と2か月連続で減少した。その上、新しい製造業生産予測調査によると、9月は更に同−2.9%と大きく低下したあと、10月はその水準で底を這う予想である。鉱工業生産の実績が予測調査通りになると仮定すると、生産は7月から9月の3か月間に−5.1%下落し、9月と10月の水準は本年1月に比し、−8.3%低いところ迄下がることになる(図表1)。
 生産の急激な低下は、図表1に明らかなように5月から起こっているが、この動きを主導した業種は、自動車、鉄鋼、非鉄金属、金属製品など自動車とその関連部品である。自動車は、エコカー補助金が9月に終わることを見越して、乗用車を4月まで増産し、5月から生産調整に入ったと見られる。

【生産、出荷の下落は輸出よりも国内需要の低下による面が大きい】
 鉱工業出荷も、5月から急落したが、8月は前月比+0.4%と微増した(図表1)。その内訳を国内向けと輸出向けに分けて見ると、国内向けは5月から8月まで4か月連続して下落し、通計−6.1%低下した。他方輸出は、5月以降6月と8月には増加する一高一低の推移を示し、通計−2.3%の減少となった。
 5月以降の急激な生産低下を引き起こした出荷の減退は、輸出の減少よりも、国内需要の低下による面が大きい。急激に国内向け出荷が落ちた業種は、乗用車を中心とする輸送機械(−20.5%)と鉄鋼(−12.5%)である。
 なお、輸送機械は、輸出も5月以降−14.4%下落したが、8月には前月比+0.2%と下げ止まった。

【乗用車の購買を中心に家計消費に変調】
 需要動向を見ると、8月の家計消費は「家計調査」の消費水準指数(全世帯)が前年比+2.0%とやや上昇幅を拡大した(図表2)。実質消費支出(全世帯)は前年比+1.8%、季調済み前月比+2.2%の増加となった。
 「販売統計」でも、8月の小売業販売額は前年比+1.8%と前月の減少(同−0.7%)から増加に戻った。7〜8月平均は同+0.5%の増加となったが、4〜6月平均の同+3.0%からは上昇幅を縮小した。
 乗用車新車登録台数は、9月のエコカー補助金の終了を控え、6月の4,920千台(季調整済年率)をピークに7月は4,907千台と頭を打ち、8月は4,409千台に落ちた。もっとも水準としてはまだかなり高く、前年比は+15.6%である。

【生産急落の影響は雇用、賃金にはまだ出ていない】
 8月の「家計調査」の実質可処分所得(勤労者世帯)は、前年比+2.6%と前月の減少(同−4.0%)から増加に戻った(図表2)。
 背後にある雇用、賃金の動向を見ると、「労調」の労働力人口が前年比−0.3%減、非労働力人口が同+0.5%増と8月は労働市場からの退出が増え、完全失業者は同−6.1%と減少したため、完全失業率は4.2%と前月比0.1%ポイント低下した。就業者は前年比−0.0%、季調済前月比−0.1%と増加していない。
 また8月の「労調」の雇用者は季調済み前月比0.0%と横這い、「毎勤」の常用雇用者は同−0.1%と微減した。
 8月の「毎勤」の実質賃金は、前年比+0.7%と5か月振りに前年水準を上回った(図表2)。
 鉱工業生産急落の影響は、まだ雇用・賃金の動向には現れていないが、8月の所定外(時間外)労働時間(全産業)の前年比が、製造業の−2.7%を中心に−0.9%となり、総労働時間も−0.9%となった。これが9月以降の所定外給与や雇用にどの程度響いてくるかが注目される。

【住宅投資と公共投資は底固いが、設備投資にはやや弱い動き】
 投資動向を見ると、住宅投資と公共投資は復旧復興工事を中心に底固く推移している。
 8月の新設住宅着工戸数(季調済み)は、888千戸と高水準を続けている(図表2)。これは前月比+2.1%増、4〜6月平均比+1.0%増の水準である。
 また8月の公共工事受注額(50社ベース)は、前年比+40.3%と高い伸びを続けている。この増加率は前月(同+60.9%)を下回るものの、4〜6月期の平均(同+29.7%)を上回っている(図表2)。
 他方、設備投資はやや勢いを欠いている。8月の資本財(除輸送機械)国産品の国内向け出荷と輸入を合計した総供給は、前月比−7.9%の減少となった(図表2)。7〜8月平均の4〜6月平均比は−5.8%の減少である。9月以降の動向にもよるが、7〜9月期の設備投資が前期比減少となる可能性がある。

【外需は引き続き不振、内需次第で7〜9月期はマイナス成長も】
 最後に外需の動向を見ると、8月の通関ベースの輸出は、季調済み前月比で−2.1%、輸入は同−0.2%となり、季調済み貿易収支の赤字は4,728億円と前月比+27.1%拡大した。
 8月の輸出は、前年比でみると−5.8%の減少となったが、国・地域別に見ると、EU(同−22.9%)を中心とする西欧向けの同−28.2%の減少が大きく、次いで中国(同−9.9%)を中心とするアジア向けの同−6.8%が目立つ。他方、米国向けは同+10.3%の増加である。
 7月と8月の貿易収支(通関ベース)の赤字を平均すると、4〜6月の平均よりも1割程度縮小しているが、まだかなり大きい。9月の動向にもよるが、7〜9月期の実質GDPでも、4〜6月期に続き(図表3)、外需(純輸出)はマイナスの成長寄与となる可能性が高い。
 そうなると、内需のうち家計消費の伸びが落ち、設備投資がマイナスになった場合には、住宅投資と公共投資の増加だけではプラス成長を支えきれない場合も考えられる。
 大きな不確定要因は在庫投資で、4〜6月期に減少した在庫投資が、出荷不振の鉱工業部門で増加すると、プラスの成長寄与となるからである。