2012年7月版
内需は設備投資の立ち直りが加わり一段と確り、外需は引き続き低迷

【5月の鉱工業生産は一時的に低下したが、回復基調は崩れていない】
 国内経済は、家計消費、住宅投資、公共投資の増加に加え、停滞気味であった設備投資にも立ち直りの動きが出てきた。しかし輸出は、海外経済の減速傾向を反映して、引き続き勢いを欠いている。
 5月の鉱工業生産は、製造業生産予測調査(5月は前月比−3.2%減)の通り、自動車の減産を中心に同−3.1%とやや大きく減少した。製造業生産予測調査によると、この減産は一時的で、6月は同+2.7%、7月は同+2.4%と2か月連続して上昇する(図表1)。
 実績が予測通りになったと仮定すると、4〜6月期は前期比−1.1%と4四半期振りの減少となるが、7月の4〜6月平均比は+3.2%の高水準にあるので、大勢として生産の回復傾向に変化はないと見られる。因みに7月の水準(97.2)は、東日本大震災による落ち込み直前の前年2月の水準(98.5)に対し、−1.3%まで回復している(図表1)。

【鉱工業製品の国内向け総供給は5月も引き続き増加】
 5月の鉱工業出荷も、前月比−1.5%と4か月振りに減少した(図表1)。内訳を見ると、国内向けが同−2.4%、輸出向けは同−0.8%である。
 国内向けは、投資財、消費財、生産財のいずれも減少しているが、投資財の中身を見ると、資本財(除輸送機械)と建設財は増加しており、設備投資と公共投資の増勢を窺わせる。
 また、国産品の国内向け出荷と輸入を合計した国内向け総供給を見ると、前者が上述のように前月比−2.4%となったのに対し、後者の輸入が同+6.3%と大きく伸びたため、総供給は同+0.3%の微増となった。これは3か月連続の増加で、4〜5月平均の1〜3月平均比は+0.9%となっているので、四半期ベースでは4四半期連続の増加になると見られ、国内経済回復の底固さを示している。

【家計消費はエコカー補助金の効果もあって根強い増加傾向】
 国内を需要項目別に見ると、まず家計消費は「販売統計」「家計調査」共に堅調である。
 5月の小売業販売額は、前年比+3.6%を6か月連続して前年を上回った。とくに好調なのはエコカー補助金に支えられた乗用車販売で、5月の乗用車新車登録台数は同+68.6%と8か月連続して前年を大きく上回っている。
 もっとも、エコカー補助金の予算が夏には途切れるため、乗用車販売の反動減が予想される。メーカー段階の乗用車の生産、出荷が5月に下落したのは、先行きの販売減少を見越した動きと見られる。
 家計調査の実質消費支出(全世帯)は、前年比+4.0%、季調済み前月比+1.5%と夫々確り伸びている。消費水準指数(全世帯)の前年比も+4.1%と3か月連続して前年を上回った(図表2)。

【雇用の回復は引き続き緩やか】
 他方、5月の実質可処分所得(勤労者世帯)は、前年比−0.4%と5か月振りに前年を下回った。消費増加は消費性向の上昇に支えられており、エコカー補助金の消費マインドへの影響が窺われる。
 雇用動向を見ると、5月の季調済み前月比は、「毎勤」の常用雇用が+0.1%、「労調」の就業者と雇用者がいずれも−0.2%と総じて横這い圏内の動きとなっている。他方、労働力人口と完全失業者が減少したため、5月の完全失業率は4.4%と前月比2%ポイント低下した(図表2)。
 なお、6月調査「日銀短観」によると、製造業・非製造業・金融機関の大・中堅・中小企業を合計したベースで、3月末の雇用者数は前年比+0.9%、12年度の新卒枠計画が前年度比+4.4%となっている。
 雇用は緩やかに回復していると見られる。
 他方、5月の実質賃金は、前年比−1.2%と、特別に支払われた給与(賞与)の減少から前年を下回った。

【設備投資の立ち直りが顕著】
 次に投資動向を見ると、足許の機械に対する設備投資を示す資本財(除輸送機械)の国内向け総供給(国産品+輸入)は、前月比+11.1%と大きく増加した。4〜5月平均の1〜3月平均比も+6.9%と大きく伸びており、1〜3月期に3四半期振りに減少したGDPベースの実質設備投資は、4〜6月期に再び増加に転じたと見られる。
 先行指標の機械受注(民需、除く船舶・電力)は、4月に前月比+5.7%増加し、4〜6月期の見通しは前期比+2.5%の増加となっている。
 また、6月調査「日銀短観」によると、本年度の製造業・非製造業・金融機関の設備投資計画の合計(ソフトウェア投資を含み、土地投資額を除く)は、前年度比+6.8%の増加となった。これは3月調査に比べ、4.3%ポイントの上方修正である。
 以上の諸指標から判断して、企業の設備投資意欲は徐々に高まっており、4〜6月期以降、年度を通じて増勢を辿ると見られる。

【住宅投資と公共投資は増勢】
 GDP統計の実質住宅投資は、1〜3月期に3四半期振りに減少したが、先行指標の新設住宅着工戸数は、1〜3月期に前期比+8.3%となった後、4月と5月も前月比で増加しており、4〜5月平均の1〜3月平均比は+4.4%に達している(図表2)。住宅投資は4〜6月期以降再び増勢に転じたと見られる。
 なお、住宅投資増加の背景にある住宅エコポイント制度は、間もなく予算切れとなるため、その負の影響が年末に向かって出てくるかも知れない。
 公共投資は、復旧復興の補正予算執行に伴い、1〜3月期の実質GDP統計では前期比+3.8%とやや大きく伸びたが(図表3)、その後も公共工事受注額(50社ベース)は高い伸びを続けているので(図表2)、今後も増勢を辿ると見られる。

【外需は引き続き低迷】
 最後に外需の動向を見ると、5月の通関ベースの輸出は、季調済み前月比で−0.5%の微減、輸入は同+1.9%の微増となった。
 また、前述の鉱工業製品の輸出入を見ても、5月は輸出が前月比−0.8%の減少、輸入が同+6.3%の増加である。
 通関ベースの輸出入を前年比で見ると、5月は前年が東日本大震災の影響で落ち込んでいたため、輸出が+10.0%増、輸入が+9.3%増となり、これを数量ベースに直すと輸出が+9.3%増、輸入が+8.4%増となる。
 輸出の前年比を地域別に見ると、伸びの高いのは北米向け+37.8%と大洋州向け+17.8%で、伸びの低いのはアジア向け+4.5%とEU向け−0.9%である。EUのマイナス成長とアジアの成長減速の影響が、日本の輸出鈍化の主因である。
 外需の悪化は底を打ったと見られるが、はっきりした回復の兆しはまだ出ていない。