2012年3月版
国内需要は底固く推移し、鉱工業生産は大震災前の水準を回復する見込み。外需は依然不振
【鉱工業生産は本年3月に大震災発生前のピークを抜く見込み】
東京市場の株価は、3月9日に大震災発生前の水準を回復したが、鉱工業生産も3月には大震災発生前のピーク(11年2月)を抜いて上昇して行く見込みである(図表1)。
本年1月の鉱工業生産は前月比+2.0%と前月(同+3.8%)に続き大幅な上昇となった。製造業生産予測調査によると、2月と3月も同+1.7%ずつ上昇する。
鉱工業生産の実績がこの予測通りの率で上昇すると仮定すると、3月の水準は大震災発生前のピークである11年2月の水準を+0.7%上回る(図表1)。また、1〜3月期の平均は、前期比+5.3%の大幅上昇となり、リーマン・ショックで大きく落ち込んだ08年第4四半期以降の四半期平均では、ピークとなった10年第4四半期とほぼ並ぶことになる(図表1)。
【鉱工業輸出は落ちたが、鉱工業の国内向け総供給は確りした伸び】
1月の鉱工業出荷は、前月比−0.7%の減少となったが、これは輸出向けが、電子部品・デバイスや電気機械の落ち込みを主因に、同−6.8%の大幅な減少となったためで、国内向け出荷は同+1.4%の増加であった。
また、この国内向け出荷に加え、鉱工業輸入も乗用車、電気機械、精密機械を中心に同+4.3%と大きく伸びたので、両者を合計した1月の国内向け総供給は、同+2.6%と前月(同+3.2%)に続き2か月連続でかなりの増加となった。国内需要の基調は比較的確りしている。
【家計消費の基調は底固い】
国内需要の構成項目を1月の鉱工業製品の国内向け総供給の内訳から見ると、最も大きく伸びたのは消費財(前月比+4.7%)で、次に生産財(同+3.3%)となり、投資財は−2.3%の減少であった。
消費を「販売統計」から見ると、1月の大型小売店販売額は前年比+0.1%の微増となったが、他方乗用車新車登録台数は前年比+38.4%、前月比+22.8%の513.7万台と著増した。乗用車の売れ行きが再び伸び始めたのは、タイ大洪水で一時低下した生産体制がほぼ復旧した上、エコカー減税・補助金の効果で買い急ぎが強まっているためと見られる。
他方、「家計調査」によると、1月の消費水準指数(全世帯)は、前年比−2.1%の減少となった。これは消費性向の低下によるもので、1月の実質可処分所得(勤労者世帯)は前年比+1.3%と6か月振りに前年を上回った(図表2)。
昨年10〜12月期まで3四半期連続して増加した実質GDPベースの家計消費(図表3)は、基調として更年後も確りしていると見られる。
【雇用はなお横這い傾向】
賃金・雇用動向を見ると、1月の実質賃金は前年比+0.1%と8か月振りに前年を上回った(図表2)。
他方1月の雇用は、「毎勤」の常用雇用者数が前年比+0.5%、前月比−0.7%、「労調」の就業者と雇用者は前年比それぞれ−0.8%、−0.5%と減少し、前月比もそれぞれ−0.6%、−0.3%の減少となった。
このため、1月の完全失業者は前月比+3.0%の増加となり、完全失業率は4.6%と前月比1%ポイント上昇した。
遅行指標である雇用には、昨年12月からの生産回復の影響がまだ響いていないようだ。
【設備投資は緩やかな回復傾向】
投資動向を見ると、実質GDPベースの設備投資は、東北大震災をはさんで10年10〜12月期から11年4〜6月期まで3四半期連続して下落したが、その後は7〜9月期に前期比+0.3%と僅かに反騰した後、10〜12月期は同+4.8%とやや大きく上昇した(図表3)。
機械に対する設備投資を示す資本財総供給(輸送機械を除く)は、10〜12月期に前期比+2.0%の増加となった後、1月は10〜12月平均比−2.5%の水準に低下した(図表2)。
先行指標である機械受注(民需、除船舶・電力)は、10〜12月期に前期比−2.6%と4四半期振りに減少したが(図表2)、1〜3月期の見通しは同+2.3%と再び増加する見込みとなっている。
設備投資は、震災復興投資も加わって、1〜3月期も引き続き緩やかな回復傾向を辿ると予想される。
【10〜12月期のGDP統計と法人企業統計の在庫投資に大きなギャップ】
このところGDPの動向をやや読みにくくしているのが在庫投資の動きである。
10〜12月期の法人企業統計によると、全法人の在庫投資は4兆1905億円で前年同期比+4.7%の増加である。ところが、10〜12月期のGDP統計の在庫投資はこれとは全く逆に、前年同期比で名目値−71.9%(成長寄与度−0.8%)、実質値−74.1%(同−0.9%)である。
10〜12月期の実質GDP(2次速報値)は、前期比−0.2%(年率−0.7%)、前年同期比−0.6%となったが、この中で在庫投資の成長寄与度が前期比−0.3%、前年同期比−0.9%に達しており、これがマイナス成長の一因である。
【GDP統計の在庫投資修正方式を修正せよ】
法人企業統計とGDP統計の在庫投資の前年同期比に、これ程大きな差が出たのは何故であろうか。法人以外の在庫投資が激減したのでなければ説明がつかない。タイ大洪水によって法人以外の民間保有在庫が急落したとしても、これ程大きな差が生じることはないのではないか。
恐らく真相は、法人企業統計発表に伴い、GDPの2次速報値で修正すべきところ、設備投資のみ上方修正し(前期比+1.9%→+4.8%、成長寄与度+0.2%→+0.6%)、何らかの理由で在庫投資の修正を先送りしたのではないか。
しかし、仮に在庫投資が横這いであれば、10〜12月期の成長率は、前期比+0.1%、前年同期比+0.3%とプラス成長に変わる。景気判断を誤らせ兼ねない基本統計の修正先送りは許せない。とくに10〜12月期の場合は、この在庫投資の修正でマイナス成長がプラス成長に変わるからである。後日、遡って目立たぬように修正する積りであるとすれば、そのような在庫投資の修正方式そのものを修正すべきであろう。
【住宅投資と公共投資は回復に転じる見込み】
次に住宅投資は、7〜9月期に震災復興投資の走りで、前期比+4.5%とやや大きく増加したが、10〜12月期には同−0.7%と微減した。先行指標の新設住宅着工戸数を見ると、7〜8月に90万戸に達したあと、9〜10月に70万戸台に落ち込んだが、11月と本年1月には80万戸台に回復している(図表2)。1月の82.2万戸は10〜12月平均(79.6万戸)比+3.2%の増加である。補正予算の執行は遅れ気味であるが、住宅投資は今後緩やかな回復傾向を辿るのではないか。
公共投資は10〜12月期も前期比−2.2%と2四半期続けて減少したが、10〜12月期の公共工事請負額が前期比+3.6%と8四半期振りのプラスとなり、1月も前月比+8.5%の増加となていることからみて、補正予算の執行本格化の下で1〜3月期以降は増加に転じると思われる。
【輸出不振、輸入増加の基調に変化の兆しなし】
最後に外需の動向をみると、10〜12月期の実質GDP統計では、輸出が前期比−3.1%、輸入が同+1.0%となっため、純輸出の成長寄与度は−0.6%に達し、内需の成長寄与度が+0.5%であったにも拘らず、同期の成長率を−0.2%に引き下げた。
1月に入っても、国際収支ベース(季節調整済み)で輸出は前月比−0.4%の微減、輸入は同+0.4%の微増となり、貿易収支の赤字は6976億円に拡大した(前月の赤字は2429億円)。このため経常収支は、1156億円の黒字に縮小した(季節調整前は4373億円の赤字。赤字は09年1月以来3年振り)。
いまのところ、外需には好転の兆しが見られない。
【1〜3月期も内需は底固く推移し、外需はマイナスの成長寄与を続けよう】
以上を総括すると、年明け後、国内需要は家計消費と設備投資のなだらかな回復基調(図表3)が続き、住宅投資と公共投資も回復に転じるため、底固い動きになると見られる。また異常に低く推計されている在庫投資が適正な水準に戻ると、1〜3月期の内需を押し上げる結果になるかも知れない。
他方、外需はいまのところ反転回復の兆しが見られないので、引き続き成長の足を引っ張ることとなろう。