2012年2月版
10〜12月期は外需の悪化からマイナス成長、回復は1〜3月期以降に持ち越し

【12月以降の鉱工業生産、出荷は急回復】
 タイ大洪水の影響で、11月に一時的に落ち込んだ鉱工業生産、出荷は、12月以降、再び回復軌道に戻った。
 12月の鉱工業生産、出荷は、前月の下落(それぞれ−2.7%、−1.6%)の反動も加わって、前月比それぞれ+4.0%、+4.5%と大きく上昇した。先行きも、製造工業生産予測調査によると、1月は前月比+2.5%、2月は同+1.2%と上昇を続ける見込みである(図表1)。
 鉱工業生産の実績がこの予測通りになると仮定すると、2月の生産水準は東日本大震災で急落する直前の昨年2月の水準にほぼ復することになる(図表1)。
 もっとも、10〜12月期の鉱工業生産の平均を見ると、11月の落ち込みが大きかったために、前月比−0.4%のマイナスとなり、1〜2月の予測指数の平均は10〜12月期比+4.9%の大きなプラスとなる。四半期ベースでは12月以降の回復は1〜3月期に反映されることになる。
 12月から2月までの生産回復を主導する業種は、11月にタイの大洪水によってサプライ・チェーンが一時的に途切れた輸送機械、情報通信機械、電子部品・デバイスなどである。

【10〜12月期の鉱工業出荷は、外需がマイナス、内需は横這い】
 12月に前月比+4.5%と大きく回復した鉱工業出荷は、輸出に前月比+6.6%とやや大きく向かい、国内向けは同+3.7%の増加となった。他方、12月の鉱工業輸入は前月比−0.3%にとどまったので、国産と輸入を合わせた国内向け鉱工業総供給は、同+3.0%であった。
 これを10〜12月期の平均についてみると、11月の落ち込みが響き、鉱工業出荷は前期比−0.6%の減少となり、その内訳は、輸出が同−0.7%、国内向けが同−0.3%の減少となる。また10〜12月期の輸入は、同+0.3%の増加となり、国産品の国内向け出荷と合わせた総供給は、同−0.2%となった。
 これらの鉱工業製品の出荷動向のみから推測すると、10〜12月期の実質GDPは外需が減少、内需は横這い圏内の動きで、全体はマイナス成長となった蓋然性が高い。

【雇用の回復は足踏み状態】
 雇用・賃金の動向を見ると、12月の雇用(季節調整済み)は「労調」の就業者と雇用者がいずれも前月比−0.0%、「毎勤」の常用雇用が同−0.1%と弱含み横這いの動きであった。
 この水準を前年と比較すると、雇用者は+0.2%(図表2)、常用雇用は+0.6%といずれも前年水準を上回っている。他方、就業者は−0.2%と前年を下回っているが、これは自営業主(−3.4%)と家族従業員(−3.6%)が前年をかなり下回っているためで、雇用者は上述のように前年を上回っている。
 この間、「労調」の完全失業者は同+1.0%の微増となり、完全失業率は同+0.1%ポイント上昇して4.6%となった(図表2)。
 総じてみれば、雇用の改善はこのところ足踏み状態にある。
 これを反映して実質賃金も、12月は前年比−0.5%と7か月連続して前年を下回っている(図表2)。

【消費性向の上昇を伴い家計消費はやや増加】
 需要動向を見ると、12月の家計消費は本格的な寒さの到来から、冬物商品を中心にやや増加した。12月の「家計調査」の消費水準指数(全世帯)は、前年比+0.6%と久方振りのプラスとなった(図表2)。勤労者世帯の収支を見ると、12月の実質可処分所得は雇用・賃金の足踏みを反映して、前年比−1.0%の減少であったが、消費性向の上昇により、実質消費支出は同+0.9%の増加となった。
 「販売統計」を見ても、12月の小売業販売額は、前年比+2.5%の増加となり、10〜12月期平均も同+0.8%と5四半期振りの増加となった。12月の乗用車新車登録台数も、前年比+20.9%の増加、10〜12月平均では同+24.6%の増加と、回復が顕著である。
 「販売統計」から見る物の動きに関する限り、10〜12月期の家計消費は順調である。「家計調査」の消費水準指数は10〜12月期も前年を下回っているが、そのマイナス幅は縮小しており(図表2)、季調済み前期比では微増した可能性がある。

【設備投資、住宅投資、公共投資は緩やかに増加】
 機械に対する設備投資は、国産と輸入を合計した資本財(除輸送機械)の総供給が12月に前月比+2.1%増、10〜12月期は前期比+2.0%増となったことからみて(図表2)、緩やかに回復していると見られる。
 住宅投資は、新設住宅着工戸数(季調済み)が7〜9月期に878千戸(前期比+8.4%、前年比+7.7%)と著増したあと、10〜12月期は796千戸に落ちたが、7〜12月の下半期平均が837千戸と上半期平均比+1.3%の増加となったことからみて、緩やかな増加傾向にあると見られる。
 公共投資は、補正予算執行の走りで、10〜12月期の公共工事請負額が+3.6%とほぼ2年振りのプラスに転じたことから見て、徐々に立ち直りつつあるものと思われる。

【貿易収支の赤字は拡大】
 最後に外需の動きを見ると、既に見たように鉱工業製品の10〜12月期の輸出入では、輸出が前期比−0.7%、輸入が同+0.3%となったので、10〜12月期の実質貿易収支は更に悪化したと考えられる。
 通関ベース(季調済み)では、12月が5676億円の赤字(前月は5342億円の赤字)と9か月連続の赤字を記録し、10〜12月期合計では1兆5989億円の赤字と7〜9月期の6201億円の赤字から一段と赤字幅を拡げた。
 この名目ベースの貿易収支は、鉱工業製品の貿易収支のような実質ベースとは違って、石油、LPGなど原燃料輸入価格の上昇による交易条件の悪化が加わるため、赤字は一層大きくなる。
 実質GDPの外需(純輸出)に反映されるのは、実質ベースであるが、それでも10〜12月期の外需が前期比でかなり悪化したことは間違いない。

【外需の悪化を主因に10〜12月期はマイナス成長の公算大】
 以上を総括すると、2月13日(月)公表予定の10〜12月期実質GDP(1次速報)では、内需が家計消費、設備投資、公共投資などの小幅増加によってプラスになる蓋然性はあるものの、外需が11月のタイ大洪水の影響もあって大幅に悪化するため、実質GDP全体としてはマイナス成長となる可能性が高い(図表3)。
 補正予算の執行が本格的するにつれて、1〜3月期の内需拡大が確りしてくることが予想されるが、タイの大洪水の一時的影響が去ったあとの貿易収支の基調については、今後の注意深い分析が必要である。大震災・原発事故から派生する電力不足を含む生産能力低下の問題、海外経済動向の予測、円高とその影響の予測、交易条件の予測など、一時的・循環的・構造的要因を整理して分析し、予測しなければならない。