2012年1月版
タイの大洪水により11月の日本の経済活動は一時的に低下、10〜12月期はゼロ成長近傍か


【タイの大洪水による部品輸入の途絶で11月の鉱工業輸入、生産、輸出は揃って減少】
 日本経済は、夏場の電力不足の影響を7〜9月期に受けたあと、10〜12月期からは順調に回復すると見られていたが、11月に再び思わぬ攪乱を受けた。タイの大洪水により、乗用車や情報通信機械、精密機械、電子部品・デバイスなどの部品の現地生産と日本への輸入が止まり、日本での製品生産と日本からの製品輸出が落ち込んだのである。
 このため、10月時点の製造工業生産予測調査では前月比+1.8%の増加と見られていた11月の生産は、鉱工業生産の実績で同−2.6%と乗用車、情報通信機械などを中心にやや大きく下落した(図表1)。
 このような減産をもたらしたタイからの部品輸入の途絶を主因に、11月の鉱工業輸入は前月比−4.8%となり、国産品を含む国内への鉱工業総供給も、同−2.8%の減少となった。また生産が落ち込む下で、11月の鉱工業輸出は同−3.8%の減少を余儀なくされた。

【洪水による攪乱は一時的で生産は12月以降急回復の予測】
 しかし、タイの大洪水の影響は一時的で、サプライチェーン(部品供給網)の早期復旧により、12月の製造業生産予測調査は、乗用車や情報通信機械などの回復を中心に前月比+4.8%の大幅上昇となり、1月も同+3.4%の大幅続伸が予測されている。
 仮に、12月、1月の鉱工業生産実績がこれらの予測通りに伸びると仮定すると、1月の生産水準は東日本大震災直前の昨年2月のレベルにまで回復する(図表1)。
 他方、10〜12月期の生産は、11月の落ち込みが大きいため、7〜9月期に比しほぼ横這いとなる。その場合、生産の本格的回復は、本年1〜3月期以降となろう。

【雇用は引き続き緩やかに回復】
 11月の生産、出荷の落ち込みは一時的であったため、雇用の緩やかな回復傾向は攪乱を受けなかったように見える。
 11月の季調済み前月比は「労調」の雇用者が+0.4%の増加、「毎勤」の常用雇用が+0.1%の増加となった。他方、完全失業率は、雇用情勢の回復に伴う労働市場への復帰により失業者も増えているため、4.5%と前月比横這いであった(図表2)。

【家計消費は一進一退】
 11月の「家計調査」の実質可処分所得(勤労者世帯)は前年比−1.2%と前月(同−3.8%)に比し、減少幅を縮めた。他方、消費水準指数(全世帯)は同−3.1%と前月(同−0.3%)に比し減少幅を拡大した(図表2)。
 11月の「販売統計」では、小売業販売額の前年比が−2.3%と前月(同+1.9%)の増加から減少に転じた。
 11月の乗用車新車登録台数(季調済み)は、年率402.6万台と8月以来4か月連続して400万台を維持しており、2009年(417.5万台)の水準に向かって徐々に回復しつつあるように見える。この先、部品供給の正常化による生産の本格的立ち直りと新しい補助金の導入により、乗用車販売は再び立ち直るかどうかが注目される。

【住宅投資、設備投資、公共投資は緩やかな増加基調】
 投資動向を見ると、11月の新設住宅着工戸数は84.5万戸(季調済み、年率)、前月比+9.2%の増加となった。この水準は7〜9月期平均(87.8万戸)よりは低いが、4〜6月期以前の平均水準を上回っており、大勢として緩やかな回復傾向は続いていると見られる(図表2)。
 機械に対する設備投資動向を示す資本財(除輸送機械)の国内向け総供給(国産+輸入)は、前月急増(前月比+11.9%)の反動と、タイの大洪水に伴う部品供給途絶の影響から、同−2.9%の減少となった。
 しかし、10〜11月平均の7〜9月平均比では+2.0%の増加となっていることから判断すると、足許の機械に対する設備投資は回復傾向になると見られる。
 公共投資は、大型の第3次補正予算の執行が本格化するにつれ、徐々に増加率を高めてくると予測される。

【貿易収支の赤字が続き経常収支の黒字は小幅】
 最後に外需の動向をみると、11月の通関ベースの輸出は季調済み前月比で−2.6%、輸入は同−1.6%と前述したタイの大洪水の影響で共に減少した。その結果、貿易収支は2598億円の赤字と前月(4957億円の赤字)よりは赤字幅は縮小したものの、8か月連続して赤字となった。
 季節調整をしていない国際収支ベースでは、11月の貿易・サービス収支は7002億円の赤字となったが、所得収支が9340億円の黒字となったため、経常収支は、1385億円の小幅黒字となった。季節調整ベースでは、経常収支の黒字は前月比ほぼ横這いと見られる。
 12月以降は、タイの大洪水の影響はなくなり、輸出入共に増加すると見られるが、輸入には原発中止の影響で火力発電用の石油やLNGの数量増加と価格上昇があるので、今後の貿易収支の黒字回帰はまだ見通せない状況にある。

【10〜12月期はゼロ成長近傍か】
 以上の動向から判断すると、タイの大洪水による11月の一時的生産低下と、経常収支黒字幅(外需)の縮小があるため、12月の国内経済活動の回復がかなり大きくならない限りは、7〜9月期に年率+5.6%とやや大き目のプラス成長となった実質GDPは、10〜12月期に再びゼロ成長近傍の動きにとどまる可能性も否定できない(図表3)。その場合経済成長の立ち直りは、大型補正予算の執行本格化も加わって、1〜3月期以降となろう。