2011年12月版
国内需要が回復する反面貿易収支は大幅に悪化


【10月の国内向け鉱工業総供給は高い伸び】
 7〜9月期の電力使用制限令による経済活動の攪乱が終わり、10月の国内需要は各項目とも揃って回復基調にある。
 10月の鉱工業生産は、前月比+2.4%と乗用車、一般機械の回復などを中心に比較的高い伸びとなった(図表1)。他方、出荷は同+0.6%とやや低い伸びにとどまったが、これは輸出向けの伸びが同−1.6%の減少となったためで、国内向けは同+2.1%の伸びである。この国産品の国内向け出荷に鉱工業輸入(同+6.8%)を加えた国内向け鉱工業総供給は、同+3.6%とかなり高い伸びとなり、10月の国内需要の堅調さを示している。
 総供給の内訳を財別にみると、最終需要財が、資本財(除く輸送機械、前月比+12.1%)、耐久消費財(同+6.5%)を中心に各財とも揃って増加し、全体では同+4.9%の高い伸びとなった。なお生産財の伸びは同+2.0%であった。

【家計消費は消費性向の上昇を伴ってやや増加】
 次に10月の動きを需要面から見ていくと、まず「販売統計」から見た家計消費は、10月の小売業販売額が前年比+1.9%と3か月振りに前年を上回った。乗用車新車登録台数は前年比+27.5%とエコカー補助金の打ち切りで水準の落ちた前年を大きく上回って13か月振りのプラスとなった。前月比でも生産の回復で販売店の在庫が回復し始めたため、+0.9%の増加となった。
 また10月の「家計調査」では、消費水準指数(全世帯)の前年比が−0.3%と前年を下回ったものの、前月(−2.0%)に比べ減少幅が縮小し(図表2)、季調済み前月比では増加したと見られる。他方、実質可処分所得は、前年比−3.8%の落ち込みとなり(図表2)、消費性向は大きく上昇した。

【労働市場への復帰が増え失業率は上昇】
 雇用・賃金の動向を見ると、10月の「毎勤」の実質賃金は前年比−0.1%と前月(−1.0%)に比し減少幅を縮小し、季調済み前月比では増加したと見られる(図表2)。これは、生産増加による時間外給与の増加と、冬期ボーナスの増加を反映した動きと見られ、11月も同様の動きが続く蓋然性が高い。
 雇用は、10月の「毎勤」の常用雇用が前月比−0.1%、「労調」の就業者と雇用者がそれぞれ同0.0%、同−0.1%とほぼ横這い圏内と動きとなった。
 しかし、完全失業率は10月に4.5%と前月(4.1%)から大きく上昇した。これは、このところの景気回復傾向を見て、求職活動を停止していた非労働力人口が再び求職活動を始め、労働力人口に加わったため、就業者が横這いの下で完全失業者が前月比+9.4%と大きく増加したためである。

【投資動向に補正予算執行の影響はまだ見られない】
 次に投資動向を見ると、公共投資では10月の公共工事請負額は、前年比+3.2%と3か月連続の小幅上昇となり(図表2)、公共投資は緩やかに上昇していると見られる(図表3)。また住宅投資では、10月の新設住宅着工戸数は774千戸(季調済・年率)と、前月比+3.9%の増加となったが(図表2)、7〜9月平均に比べると−11.8%の水準にとどまった。第3次補正予算の執行に伴う被災地の公共投資と住宅投資の本格的増加は、来年以降になると見られる。
 次に企業の設備投資は、このところやや勢いを欠き、7〜9月期の実質GDP統計(2次速報値)では、前期比−0.4%と4四半期連続の減少となった。もっとも10月の資本財(除、輸送機械)の国内向け総供給は、前述の通り、前月比+12.1%と高い伸びを示しており、10〜12月期の設備投資の動きが注目される。(図表2)。

【小口の機械受注と官公需の機械受注は確り】
 設備投資の6〜9か月の先行き指標である機械受注の動向を見ると、10月の機械受注(民需、除く船舶・電力)は前月比−6.9%と前月(同−8.2%)に続き2か月連続で減少した。10〜12月期の見通しも、前期比−7.8%と4四半期振りの減少となっている。来年度上期の設備投資が懸念される。
 やや注目されるのは、代理店経由の小口の機械受注が10月は前月比+4.0%と前月(+15.9%)に引き続き増加し、10〜12月の見通しも前期比+7.0%の増加となっていること、および官公需の機械受注が10月は前月比+1.9%、10〜12月期見通しは前期比+19.4%の大幅増加となっていることである。前者は中小企業の設備投資の立ち直りを示唆し、後者は震災復興需要の走りを示している可能性がある。

【10月の貿易収支は4月、5月に次ぐ大幅な赤字】
 最後に外需の動向を見ると、既に述べたように10月の鉱工業輸出は前月比−1.6%の減少、鉱工業輸入は同+6.8%の増加と鉱工業ベースの貿易収支は大きく悪化したが、これを中心に、国際収支ベースの貿易収支(季節調整済み)も輸出が5兆1905億円、前月比−4.4%の減少、輸入が5兆7174億円、同+7.1%の増加となり、貿易収支は5269億円の大幅な赤字となった。この赤字額は、東日本大震災直後の4月と5月の赤字額に次ぐ大きさである。
 輸出の減少は、生産が回復してきた乗用車、一般機械などが国内向けに優先して出荷されたこと、海外需要が中国(10月の日本からの輸出の前年比−7.7%)、アジアNIEs(同−10.2%)、中南米(−10.2%)などで落ち込み、米国(同−2.3%)、EU(同−2.9%)などで停滞したこと、によるものである。
 他方、輸入の大幅増加は国際原料品市況の高騰を反映した原油、LNG、鉱石、穀類などの増加と、国内で生産能力が落ちていた輸送機械、一般機械、電気機械などの補完的輸入が増えているためである。

【10〜12月期の成長は鈍化】
 以上を総括すると、国内の需要は、設備投資が勢いを欠き、復旧・復興需要の本格化が遅れている中で、家計消費、住宅投資、政府支出などを中心に緩やかな回復を続けている。他方、外需(純輸出)は10月に大きく悪化したが、国内生産の正常化と共に輸出もやや立ち直り、完成品の補完的輸入も峠を超えることから、海外の成長鈍化の影響はあるものの、少しずつ回復してくるのではないかと思われる。
 その結果、10〜12月期の成長率は、7〜9月期(図表3)に比してかなり鈍化するものの、プラスを維持する蓋然性が高い。明年1〜3月期以降は、第1〜3次補正予算の執行が軌道に乗るにつれて、成長率はやや高くなるのではないかと思われる。