2011年11月版
実質GDPは3.11前の水準を回復
―本暦年の成長率はプラスとなる可能性も―


【5、6月急回復の「ゲタ」を履き7〜9月の生産、出荷は高い伸び】
 本日(11/14)公表された7〜9月期の実質GDP(1次速報値)は、前期比+1.5%(年率+6.0%)の高い成長率となった(図表3)。既に公表されていた7〜9月期の鉱工業生産、出荷もそれぞれ前期比+4.1%、+6.4%の高い伸びを示している。
 7〜9月期の高い成長率は、前期の5、6月に、被災工場とサプライチェーンの復旧によって経済活動が急回復し、7〜9月期が高い「ゲタ」を履いたことによる面が大きい。7〜9月中の回復テンポは、5、6月に比べれば鈍化している。
 これを鉱工業生産、出荷について見ると、5、6月の2か月間には、通計それぞれ+12.0%、+13.9%の急回復を示したが、7、8、9月の3か月間は、通計するとそれぞれ−2.9%、−2.3%の減少である(図表1)。しかし、7〜9月期の平均をとると、5、6月の急回復によってそれぞれ+4.5%、+7.0%の高い「ゲタ」を履いていたので、前期比は高い伸びとなった。

【電力使用制限令の攪乱で9月の生産、出荷は減少】
 9月を中心とする最新の景気指標をみていくと、まず鉱工業生産、出荷は、それぞれ前期比−4.0%、−2.6%と5ないし6か月振りの減少となった(図表1)。これは7月1日から9月9日まで、東電管内の大口需要家にたいして、△15%の「電力使用制限令」が出されたことによる攪乱である。乗用車、一般機械をはじめとする加工組立産業では、電力需要の少ない週末に休日返上で工場を稼働させ、9月10日以降に休日を振り替えたため、通常の季節変動パターンに比べて、8月が高めに、9月が低めになったためと思われる。
 製造工業生産予測調査によると、正常化する10月と11月は、乗用車などを中心にそれぞれ+2.3%、+1.8%の増産予定となっている(図表1)。
 この予測指数の10〜11月平均は、7〜9月平均比+0.7%である。10〜12月期は引き続き回復を続けるものの、7〜9月期に比して減速する可能性が高い。
 国内に対する鉱工業製品の総供給も、ほぼ同じような動きをしている。国産品の国内向け出荷と輸入を合計した総供給は、9月に前期比−4.7%の減少となったが、7〜9月平均の前期比は+2.5%と4〜6月期(同−1.8%)までの下落傾向から回復に転じた。

【雇用、賃金の動向は不冴え】
 9月の生産、出荷が例年に比べて低めとなったため、9月の雇用・賃金の動向も冴えなかった。
 「労調」の雇用者と就業者は、共に前年比−0.5%減と前月に比して減少幅は縮まらず(図表2)、「毎勤」の常用雇用者は、前年比+0.5%と前月(同+0.7%)より上昇幅を縮小し、季調済み前月比は−0.1%の減少となった。
 他方、完全失業率は、当月より岩手、宮城、福島の3県を含む数値が公表され、4.1%とやや低めの数値が出た。これは、3県では人口流出の下で復旧工事が増えているため、全国とは異なり人手不足の傾向があるためと思われる。
 9月の賃金指数は、名目では前年比0.0%となったが、実質では同−0.6%の減少となった。全国消費者物価と同(除、生鮮食品)は、共に7月から9月まで前年比微騰しており、実質賃金指数の前年比は6月から9月まで、4か月連続してマイナスとなっている。

【7〜9月の家計消費は微増】
 このような雇用・賃金動向の下で、「家計調査」の9月の実質可処分所得(勤労者世帯)と消費水準指数(全世帯)の前年比は、それぞれ−1.4%、−2.0%と前年水準を下回っている(図表2)。もっとも、7〜9月の平均を見ると、4〜6月に比して前年比減少幅は縮小しており、前期比ではやや増加したと見られる。
 「販売統計」では、9月の小売業販売額が前年比−1.2%と前月(同−2.6%)よりは減少幅を縮めたものの、マイナスとなった。アナログ放送中止前のデジタル対応テレビへの駆け込みブームが終わり、7〜9月の小売販売額は、大きく落ち込んだ。もっとも、4〜6月の駆け込み需要で販売額の水準が大きく上がり、7〜9月期は「ゲタ」を履いているため、7〜9月期の平均は、4〜6月期の平均に比して下落していない。
 7〜9月期のGDP統計(1次速報)では、家計消費は前期比+1.0%の微増となった。

【住宅投資は大きく回復】
 ここへきて復旧、復興需要のプラス効果が兆し始めているのは、住宅投資と公共投資である。
 9月の新設住宅着工戸数(季調済、年率)は745千戸と前月に比べると低下したが、7〜9月期の平均は878千戸と前期比+8.4%の大きな伸びとなった(図表2)。GDP統計では、7〜9月の住宅投資(実質)は、前期比+5.0%の高い伸びとなっている。
 また、長い間前年水準を下回っていた公共工事請負額の前年比は、8月の前年比+3.5%に続き、9月も同+3.3%のプラスとなった(図表2)。7兆円規模の第1次、第2次補正予算の影響が出始めたと見られるが、間もなく12兆円規模の第3次補正予算が成立し、本年度下期から来年度にかけて合計19兆円の復旧、復興予算が執行されるため、公共投資は10〜12月期以降、上昇基調に転じると見られる。

【民間設備投資に勢いがない】
 これらの投資動向に比し、やや勢いを欠いているのが、企業の設備投資である。
 国産と輸入を合計した資本財(除、輸送機械)の総供給は、8月の前月比−2.0%に続き、9月は同−10.3%とマイナス幅を拡げた(図表2)。9月の落ち込みは、始めに述べた季節変動パターンの変化という特殊事情も響いていると思われるが、7〜9月期をくくってみても、前期比−1.0%の減少となる。7〜9月期のGDP統計では、設備投資(実質)は、前期比+1.1%の小幅増加となった。
 先行指標の機械受注(民需、除く船舶・電力)は、9月に前月比−8.2%となったが、ここでも「ゲタ」が効いて前期比+1.5%と3四半期連続のプラスを保った。しかし、10〜12月期の見通しは、前期比−3.8%の減少となっており、来年度に入る頃からの設備投資下振れを示唆している。円高に伴う海外シフトの影響があると思われるが、19兆円の第1〜第3次補正予算の間接的影響が、今後どう出てくるかが注目される。

【7〜9月期の外需は5四半期振りにプラス寄与】
 最後に外需の動向を見ると、9月の鉱工業輸出の前月比は+2.2%、鉱工業輸入は同−5.4%となり、収支はやや好転した。7〜9月期をくくってみても、輸出は前期比+7.3%(前期は同−11.6%)、輸入は同−7.4%(前期は同+5.8)と4〜6月期に比し大きく好転した。
 通関ベースの季調済み数量指数も、9月は輸出が前月比+2.0%、輸入が同−2.2%と前月に比し好転し、7〜9月期をくくってみても、収支は好転した。生産力の回復につれて、ようやく輸出が立ち直ってきたと見られる。
 7〜9月期のGDP統計では、財貨・サービスの輸出(実質)が前期比+6.2%、同輸入が同+3.4%となり、差し引き「純輸出」は成長率に対して+0.4%のプラス寄与度となった。「純輸出」の寄与度がプラスとなったのは、5四半期振りである。

【2011暦年の成長率がプラスになる可能性】
 以上の結果、7〜9月期は内需が2/3、外需が1/3の割合でプラス成長に寄与し、年率+6.0%の比較的高い成長となった。その結果、7〜9月期の実質GDPの水準は、東日本大震災前の昨年10〜12月期の水準を回復した(+0.4%)。
 既に述べたように、この立ち直りは7〜9月中の回復だけによるものではなく、5、6月中の急回復が「ゲタ」を通じて寄与した結果である。
 10〜12月期は、7〜9月期に比して減速するが、引き続きプラス成長を続けると見られる。2011暦年の日本の成長率は、10月時点のIMFの見通しでは、−0.5%となっているが、7〜9月期の成長率が高かったため、10〜12月期の前期比成長率が+1.0%を超えると、プラスとなる。