2011年10月版
電力不足に伴う鉱工業生産の回復鈍化の中で、貿易収支は8月も赤字、雇用・賃金の改善は足踏み


【電力使用制限令の下、鉱工業生産に勢いなし】
 8月の経済指標は、7月同様、東京電力と東北電力の大口需要家に対する15%の電力使用制限令の下で、勢いを欠いている。
 8月の鉱工業生産は、前月比+0.8%増と、製造業生産予測調査の同+2.8%増を大きく下回った。同予測調査によると、9月は同−2.5%の低下、10月は同+3.8%の上昇となっている。電力使用制限令は9月9日で打ち切られたが、生産が本格的に再上昇するのは、10月からと見られる(図表1)。電力不足による復興の遅れは、かなり大きい。

【鉱工業生産鈍化の中で鉱工業輸入は増加、鉱工業輸出は減少】
 8月の鉱工業出荷は、生産が上記のように減速しているため、前月比+0.3%増と前月(同+0.1%増)に引き続き小幅の増加にとどまっている。しかし、国内の復興需要は根強いため、8月の鉱工業輸入は同+2.8%の伸びとなり、国産品の国内向け出荷と合わせた総供給は同+1.1%の増加となった。
 財別にみると、国産品の国内出荷と輸入が共にかなり伸びたのは、輸送機械(乗用車)、建設財、生産財(鉄鋼、電子部品・デバイス)であり、総供給が減少したのは、資本財(除輸送機械)と消費財である。
 8月の鉱工業輸出も、生産回復が減速する中で、国内需要が優先されたため、前月比−0.6%と3か月振りに再び減少した。

【労働力人口の減少に伴い8月の失業率は4.3%に低下】
 8月の雇用情勢は、節電ムードの下で夏休みのレジャー活動が振るわなかったことなどから、対個人サービス業(宿泊業・飲食サービス業、運輸業、その他サービス業)を中心にやや悪化した。「労調」の就業者は前年比−0.5%、前月比−0.3%、雇用者は同−0.5%、同−0.2%といずれも減少し、「毎勤」の常用雇用は同0.0%、同0.0%にとどまった。
 他方、「労調」の失業者数は、労働市場からの退出増加で労働力人口が減少したため、前年比−14.0%、前月比−8.2%とやや大きく減少した。
 このため、就業者数が減少したにも拘らず、完全失業率(季調済み)は前月比−0.4%ポイントの4.3%とやや大きく低下した(図表2)。4%台前半の失業率は2009年2月以来32か月振りであるが、労働力人口の減少によるものであるだけに、実勢としてこれが続くかどうかは、いましばらく推移を見なければ判定できない。

【雇用・賃金が冴えない下で、家計消費は低調】
 雇用がやや悪化する中で、8月の「毎勤」の実質賃金は前年比−1.4%減と減少幅を拡大し、8月の「家計調査」の実質可処分所得(勤労者世帯)も、前年比−1.9%の減少となった(図表2)。
 このような雇用・賃金動向の下で、8月の消費水準指数(全世帯)は前年比−4.1%と低下幅をやや大きく拡大した(図表2)。
 「販売統計」を見ても、8月の小売業販売額は前年比−2.6%と3か月振りに前年水準を下回った。品目別にみると、アナログ放送打ち切り前の地デジ対応TVに対する駆け込み需要の反動減がかなり響いているようだ。また乗用車も、8月の新車登録台数は前月比+23.2%と回復し始めているものの、前年の水準に比べると、−26.0%の低水準にある。乗用車生産が完全に正常化し、販売店の在庫が回復する迄には、まだ数か月かかりそうである。

【住宅投資の回復に勢い】
 次に投資動向を見ると、このところ住宅投資の回復が際立っている。新設住宅着工戸数の前年比は、7月の+21.2%の大幅上昇に続き、8月も+14.0%と大きく伸びている(図表2)。7〜8月の平均(季調済み)は、4〜6月平均比+16.6%の増加となり、09年と10年の平均水準を上回り、リーマン・ショック前の08年の水準に近づいている。

【設備投資はやや勢いを欠く】
 他方、設備投資は、足許の機械に対する投資動向を示す資本財(除、輸送機械)の総供給(国内向け出荷と輸入の合計)は、8月に前月比−2.9%の減少となったが、7〜8月平均の4〜6月比は+2.4%となり、緩やかな増加傾向を示している。
 先行きを示す機械受注(民需、除船舶・電力)は、4〜6月期に前期比+2.5%の増加となったあと、7〜9月期は同+0.9%の見通しとなっており、増勢を維持している。
 総じて見れば、電力不足による生産の制約、円高の進行、海外経済の拡大鈍化などの不安材料もあって、足許の設備投資にはやや気迷いが見られる。しかし、9月調査の「日銀短観」における本年度の設備投資計画(製造業・非製造業・金融機関の合計、ソフトウェア投資を含み、土地投資額を除く)は、前年比+4.5%と6月調査に比しほとんど変更されていない。

【貿易収支は8月まで5か月連続で赤字】
 最後に外需の動向を見ると、7月同様、電力使用制限令に伴う生産の不足が輸出の抑制、輸入の増加に出ているため、既に見たように、8月の鉱工業輸出は前月比−0.6%、鉱工業輸入は同+2.4%となっている。
 これを反映して、8月の通関統計(季節調整済み)によると、輸出は前月比+0.3%と微増にとどまり、輸入は同+2.7%と増加を続け、貿易収支は4月以来の赤字を改めず、赤字幅は前月を83.8%上回った。
 9月10日以降の電使用制限令解除の影響によるが、7〜9月期の外需(実質GDPベースの「純輸出」)が4〜6月期に続き成長の足を引っ張る可能性もある(図表3)。