2011年9月版
「電力使用制限令」で7〜9月期の回復テンポは減速


【7〜9月の鉱工業生産の上昇は失速】
 東京電力と東北電力の管内大口需要家に対する「電力使用制限令」(7月1日以降9月9日迄前年比15%節電)に伴い、7〜9月期の生産回復はかなり減速し、復興のテンポも一時的に鈍化している。
 7月の鉱工業生産(速報)は、前月比+0.6%と製造工業生産予測調査の同+2.2%を大きく下回った。また8月と9月の同予測調査によると、それぞれ同+2.8%、同−2.4%と足踏みをする形となる。実績が予測通りになると、4月から6月の3か月に+12.0%と急回復を示した生産は、7月から9月の3か月には+1.0%と失速する(図表1)。
 予測調査における8月の上昇と9月の下落は、自動車、一般機械、電気機械などを中心に8月の夏休み休日に生産し、9月に休日を振り替えたためとみられ、実態は電力不足の下で生産が7月並みの水準で足踏みするものと思われる。

【7月は国内向けの鉱工業供給が減少】
 7月の鉱工業出荷は、生産の失速に伴い、前月比+0.2%の微増にとどまったが、内外需別にみると、国内向けが同−0.4%の減少となり、輸出が同+1.0%の増加となった。
 また国内向けの鉱工業総供給は、国産が上述のように同−0.4%の微減となったのに加え、輸入が更に同−7.3%と大きく減少したため、全体で同−2.2%と大震災が発生した3月以降、4か月振りに始めて減少した。復興に向けた鉱工業製品の供給は、「電力使用制限令」が実施された7月にブレ―キが懸ったようである。
 財別にみると、資本財(除、輸送機械)は前月比+2.6%(国産同+2.5%、輸入同+3.1%)、消費財は同+2.3%(同+2.5%、同+0.3%)と増加したが、建設財と生産財がそれぞれ同−5.5%(同−4.4%、輸入13.5%)、同−3.6%(同−0.7%、同−1.8%)とやや大きく減少した。

【雇用、賃金はやや悪化】
 生産が失速した下で、7月の「毎勤」の総実労働時間は前月比−1.6%(前年比−1.1%)の減少となり、常用雇用は前月比−0.0%(前年比+0.6%)と前年を下回る水準でほぼ横這いとなった。
 他方、7月の「労調」では、就業者が前月比−0.1%(同−0.2%)、雇用者は同−0.8%(同−0.2%)といずれも減少し、完全失業者は同+1.7%(同−7.3%)と増加したため、完全失業率は+4.7%と前月比+0.1%ポイントの上昇となった(図表2)。
 このように雇用情勢がやや悪化した中で、実質賃金は前年比−1.1%と前月(同−1.0%)より減少幅をやや拡大した(図表2)。

【消費の萎縮はやや後退か】
 7月の「家計調査」では、実質可処分所得(勤労者家計)が前年比+1.1%と5か月振りに前年を上回り(図表2)、上記の雇用、賃金とは裏腹の動きとなった。実質消費支出(全世帯)も前年比−2.1%と前月(同−4.1%)より減少幅を縮め、前月比では+0.7%の増加となった。実質消費支出は大震災が発生した3月に前月比−2.8%と大きく減少したが、6月(同+0.8%)、7月(同+0.7%)と回復し、ほぼ大震災発生前の水準に戻った。



 他方、「販売統計」を見ると、小売業販売額は大震災後3月(前年比−8.3%)、4月(同−4.8%)、5月(同−1.3%)と3か月連続してかなり前年水準を下回っていたが、6月の同+1.2%に続いて7月も同+0.7%と2か月続いて前年比プラスとなった。
 乗用車新車登録台数は、4月の前年比−48.5%を底に、前年比マイナス幅を縮小しているが、7月も同−25.6%と水準はまだ低い。生産回復の遅れを反映したものであろう。

【住宅着工は急回復の兆し】
 7月の新設住宅着工戸数は、年率換算955千戸に達し、前年比+21.2%、前月比+16.8%と大きく伸びた(図表2)。この水準は大震災発生直前の22年10〜12月平均(同843万戸)を+13.3%上回っており、復興に向けた住宅投資の動意が窺われる。
 7月の資本財(除、輸送機械)の国内総供給(国産+輸入)は、前月比+2.6%、4〜6月平均比+3.8%の増加となった。実質GDP統計の設備投資は、1〜3月期(前期比−1.4%)、4〜6月期(同−09%)と2四半期連続して減少したが、足許の機械に対する投資は、上向いているようにみえる。先行指標の機械受注(民需、除船舶・電力)は1〜3月期(前期比+5.6%)、4〜6月期(同+2.5%)と増加しており、7〜9月期の見通しも同+0.9%となっている。

【7月も貿易収支の赤字拡大から経常収支は悪化】
 7月の通関ベースの貿易収支(季調済み)は、輸出が前月比+0.8%と微増し、輸入は同−0.4%と微減したため、貿易収支の赤字幅は同−33.6%と縮小した。しかし4月以降4か月連続の貿易赤字は改まっていない。
 更にサービス収支の赤字でも加わると、7月の貿易・サービス収支は2740億円の赤字と前月比1778億円の赤字拡大となり、所得収支の黒字(1兆1129億円)などを加えた経常収支の黒字は7525億円と前月比−1703億円の黒字縮小となった。
 4〜6月期の実質GDP(2次速報値)の前期比は、「純輸出」の成長寄与度が−0.8%に達したため、国内需要の成長寄与度は+0.2%であったにも拘らず、全体で−0.5%のマイナス成長となった。
 7〜9月期も「純輸出」のマイナス寄与度が続くと、全体の成長率はあまり高まらず、小幅のプラス成長にとどまるかも知れない。